第11話 無海住教頭と鬼記島先輩の関係
3年生の廊下で話を聞いていたせいだろうか。
「ここで何やってんだ、てめぇら」
とのことだ。
分かりやすい人だね。鬼記島先輩たちと話をしなくていいように、そして顔を見なくて済むように、僕の背後に
「
と正直に答える。
鬼記島先輩にも聞いておきたいから、秘密にする必要もないだろうと考えた。
「咲見崎? なんであんなやつのことを調べてるんだ。お前に関係ないだろう? 北倉に恩を着せて満足しておけって話だ」
睨みつけてくる鬼記島先輩からは明らかに敵意を感じる。
この人はなんでこんな勝手なことを言ってるんだ。自分が北倉さんを脅したのに、とため息が出た。
「北倉さんの件に関しては鬼記島先輩が悪いでしょう。北倉さんに恩を着せるとか変ないい方しないでください。僕が鬼記島先輩の仲間みたいじゃないですか」
「あぁ? てめぇ、また喧嘩売ってきやがるのか!?」
と隣の太った男も怒鳴りだす。
「上級生のクラスの前で喧嘩売るのか?」
と3年生が多い廊下というテリトリーを使って、グラサンの男も威嚇しだした。ところがだ。
「
とそろって3人が通りかかった無海住教頭にお辞儀した。僕は目が点になる。なんで無海住教頭に鬼記島先輩とその手下2人がお辞儀なんてしてるんだ? どう見てもこの3人が先生たちに挨拶するなんて思えないのに。
「楽にしたまえ、鬼記島君。君たちに私は期待しているんだ。成績優秀なところが実に素晴らしい」
鬼記島先輩ってほんとに成績がいいのか? 根本的なところが気になった。
疑問に思っているのを察してくれたのか、北倉さんが僕にこっそり教えてくれる。
「鬼記島先輩が成績良いのは本当よ。テストの結果が職員室の前に張り出されるの。その結果を見ると成績はトップ10にいつも入ってるのよ。そして鬼記島先輩の親と無海住教頭にはつながりがある。だからみんな大っぴらに鬼記島先輩を非難できないの」
「無海住教頭とのつながりって?」
と聞き返すと
「鬼記島先輩のお父さんって政治家なのよ」
とのことだった。
それはなかなか厄介なお話だ。なるほど、と頷いてしまう僕がいた。かなり無茶だろう、という話がまかり通っているのは、そんな裏があったのかと思った。
そんな話をしてる間に無海住教頭と鬼記島先輩は話を終えていたようだ。
「では失礼する。勉学に励みたまえ」
「「「ありがとうございます。頑張ります」」」
と鬼記島先輩たちは答え、無海住教頭は去って行った。
「さて、こっちの話は終わった。お前らはなんの話を城鉈たちと話していたんだ?」
と言われてもなぁ。口の前で人差し指をたてて
「それは秘密です」
と僕は答えた。
「馬鹿にしてんのか、てめぇ!」
まぁ当然お怒りですよね。そう言われても聞いた内容をそのまま話しちゃうのは、探偵としてダメな気がするんだよなぁ。どうしたものかなと考えた結果、当たり障りのない話をしようと思った。
「
「あの先生がいい先生だっていうのか? お前ら馬鹿か? あいつは俺たちに毎日のように何度も何度も、それこそ1年以上も説経しまくったあげく、警察に突き出した最悪のヤツだぞ!?」
めちゃくちゃ良い先生じゃんと僕は思った。
もしかして、と思って確認してみる。
「俺たちってことは3人とも連れて行ったんですか? その墨乃地先生って」
「そうだよ! 親父も呼び出されて散々だったんだ。あの先生のせいで俺たちの印象が悪くなったんだ。なぁお前ら?」
「そうだぜ。あいつのせいで俺のかーちゃんまで呼び出されてめちゃくちゃ怒られたんだ」
「まったくだ。俺も父ちゃんが来て小遣い減らされたんだ!」
「俺の親父が政治家じゃなかったら詰んでたんだぞ!?」
「「「ろくな先生じゃねえ!!」」」
3人の墨乃地先生へ評価は下がってるらしいけど、僕のその先生への好感度は上がりまくっている。
「先輩方には最悪の先生だったということですね?」
「「「あぁ。そうだ」」」
と声をハモらせていうのを聞いて、お昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ったのをいいことに
「分かりました。ありがとうございました」
と僕たちは話を切り上げるようにお礼を言った。
鬼記島先輩たちが離れていったあと、教室に向かう途中で北倉さんと顔を見合わせ、僕たちは笑いが止まらなかった。
◇
僕は気なることを紙に書き出して、頭を整理していた。鬼記島先輩たちと北倉さんのアリバイは、白川所長に警察から聞いてないかを確認してみようかなと思って廊下をふらふら歩いてた。
鬼記島先輩たちに直接聞くとまた喧嘩になりかねない。それは面倒だし北倉さんは正直な話をいえば、面と向かって聞きづらい。どうしたものかな、と考えていたところへさっき話をしてくれた
「どうだったよ? 城鉈と田魅沢との話し合いは?」
とニヤニヤしながら聞いてくる。
「どうって言われても。咲見崎先輩は品行方正で才色兼備の優等生みたいでしたね。あとは城鉈先輩と田魅沢先輩は仲が良いくらいですかね」
と話したんだけど、聞いてなかったのか付き合いだした彼女と出会うまでの惚気話を、阿武隈先輩は話し始めた。
僕は話をぶった切ってやろうと思って、墨乃地先生のことを聞いてみる。
「墨乃地先生ってどんな人だったんです?」
「俺の彼女の話はいいのか? まだまだ話題はいっぱいあるんだぜ?」
「いや、阿武隈先輩の彼女のことは、今はちょっと遠慮しておいてですね。とりあえず墨乃地先生のことが気になったんですよ」
と適当なことを話した。
ちょっとしょんぼりした様子の阿武隈先輩は
「仕方ないな。ここから俺の武勇伝が始まるっていうのに。……墨乃地先生な。いい先生だったぜ。ほんとに生徒のことを考えて親身になってくれる、そんないい先生だったんだ。腕っぷしも、べらぼうに強かったしな」
としみじみ阿武隈先輩は語る。この話を聞いて不思議に思った。
「過去形ってことは学校を変わったんですか?」
「いいや、実際はもっと悪い。だって墨乃地先生は死んじまったんだからな」
と阿武隈先輩は言いだしたのだった。
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