第10話 城鉈 缶太という上級生
「お前ら、警察と同じことをまた俺に聞くのか?」
この発言を聞いて、ほんとに悪いなぁと思ってしまう。警察にも何度も聞かれたことを、全く知らない相手に探られる。そんな状況は僕も嫌だと思う。でも、これも探偵のお仕事と割り切った。
「何度も聞いてすみません。これも
と僕は
するとポンと手を叩いて、
「咲見崎のことを聞きたかったのか、あの刑事。あなたの交友関係で変わったことがないか? とか身近に変化はなかったか? 学校で困ったことはないか? とかさ。回りくどいんだよ。何を聞きたいのか全く分からないっていうかさ。それならずばっと咲見崎に恨みがあったのか? とか聞けって言うんだよな」
警察への不満をこれでもかと城鉈先輩は垂れ流す。恨みがあったのかって聞いたら、犯人は恨んでいた、と答えてくれるというのだろうか? 自分が犯人じゃないからこその気楽さなのか。
「質問攻めから解放されるまで、めちゃくちゃ時間とられたんだぜ? しかもこっちは何が聞きたいのか分からないから、思いついたことを話したんだけどな」
その感想を聞いて勘が頼りの須水根刑事を思い出し、この事件って大丈夫なのかな、と不安になる。
「でも城鉈先輩と同じクラスの咲見崎先輩が亡くなったんですよ? それに関することだと普通は思いませんか?」
と疑問に思ったことを僕は尋ねる。
北倉さんも
「クラスメイトがいなくなって咲見崎先輩の机に、ポツンと花を入れた花瓶が置かれてるんですよ? 誰でも亡くなった咲見崎先輩のことだって思うんじゃないですか?」
と援護射撃をしてくれる。
「そう言われればとそうなんだけどさ。咲見崎のことってそんなに話した訳でもないから、俺はよく知らないんだよな」
とため息をつく城鉈先輩だ。
僕は
「なんで揉めたんです? 知らない人なのに?」
と疑問を言葉にする。
「咲見崎は中学校時代から品行方正、才色兼備ってイメージだから、喧嘩したらだいたい俺が悪いってなるんだよな」
「何を喧嘩したんですか?」
「人使いが荒い。これに尽きる。自分基準であいつはなんでも考えるから、ついていけなかったんだよな」
「どんな感じだったんです? 人使いが荒いって?」
よくぞ聞いてくれたと城鉈先輩は話しだす。
「咲見崎を慕うやつってまぁ、割といるんだけどさ。慕うやつと俺と扱いが違いすぎってことで喧嘩になった」
「なるほど。どこら辺が違ったんです?」
と話を振った。
「アイツは高校生にして自分が女王様なのか何なのか、勘違いしてると思った」
「他にも揉めた人っているんですか?」
「いるっちゃいるなぁ。咲見崎は下に見てる奴には容赦なかったからな。んでよく分からないけどいつの間にか金使いが荒くなってた。買い物しまくったり仲のいい奴に奢ったり、どこから金がでてくるんだって思ってた」
と呟く城鉈先輩だ。お金使いが荒かったのか。なんでなんだろうと思いながら
「それなら彼女の田魅沢さんは、その件について何か言ってましたか?」
と聞いてみた。
「お前なぁ」
とため息をつく城鉈先輩だ。
「なんか城鉈先輩から見た田魅沢さんは、どう考えていたように見えたか気になっちゃって」
とりあえず僕はそう答えた。
「
と腕を組んで城鉈先輩は考え出す。
確かに田魅沢先輩は豪快でスッキリしたことを好みそうな人だ。第一印象から見た感じ、裏で手を回すタイプの人じゃない。
「じゃぁ、城鉈先輩に咲見崎先輩の悪口を言ってきたことって、ないんですか?」
「ん、そうだな……ないなぁ。咲見崎は中学の頃だったかなぁ。カテナとも話してたような気もするけど、今はほとんど話をしてるのを見ないし、俺も興味がなかったからよく分からないしな」
そう言って頭を捻って考えだした。
「城鉈先輩と田魅沢先輩って咲見崎先輩が亡くなった日の1998年11月24日の22時から24時頃ってどこにいらしたんです?」
「お前なぁ、やっぱり俺たちを疑ってるのか!?」
「いや、とりあえず聞いておかないと話にならないんですよ。この手のお話って」
と僕は本音を言う。探偵にとってはこれを聞いておかないと始まらないんだよなぁ。聞くのは嫌なんだけど、お仕事だから仕方ない。
「お前が期待するような話は1つもないよ。カテナと俺も学校帰りの夕方、一緒にデパートの地下で各地の名産品を見て歩いてた。『今度これを食べに旅行に行きたいな』って咲見崎が死んだ夜は、自宅の電話でお互い話をしていたさ。刑事にもそう言ったら慌てて走っていったよ」
これで話は終わりだとでも言いたげに、ひらひらと手を振って僕に背を向けて城鉈先輩は歩いて行った。
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