第9話 田魅沢 カテナと城鉈 缶太というカップル
「いや~、頑張ったのは
「その割にはあんまり悔しそうでもないですね」
感じた印象をそのまま伝えた。
「まぁ、その恋に敗れた女の子は、今は俺の彼女って訳だ。俺がこんなに饒舌なのも分かるってもんだろう?」
と1人で満足気に語る。
「お。あいつが田魅沢だ。呼んできてやるよ」
と
「「ありがとうございました」」
と北倉さんと一緒にお礼を言った。
「じゃぁ、俺は行くぜ?」
と田魅沢先輩に「コイツと話してやってくれ」と言い残し阿武隈先輩はさっさと行ってしまった。
僕はせっかくなので話題にでてきた田魅沢先輩に話を聞くことにした。阿武隈先輩が呼んでくれてもこの注目度だ。僕が呼び出していたら完全に迷惑になってしまうところだっただろう。
今も充分、迷惑そうな顔をしている田魅沢先輩だったけども、そこはそれだ。
「すみません、急にお話をさせてもらうことのになって。驚いちゃいますよね」
と僕は田魅沢先輩にまずは謝った。
田魅沢先輩は肩くらいの長さの茶髪に、透き通るような薄い茶色の目をした綺麗な、けれど気合の入っている不良女子だった。気合の入った長いスカートで化粧は濃いめ。でもなんていうか、特攻服を着た田魅沢先輩がバイクに乗って、先頭を走っていたらそれはそれで絵になりそうだ。
「まぁ、いいさ。でも、あんたたち誰? 会ったこともない気がするんだけど」
当然の疑問かなと思ったので
「先日、セントルミル中等教育学校に転校してきました井波田といいます」
「私は井波田君と同じクラスメイトの北倉です」
田魅沢先輩は僕たちを不思議そうに見ている。
「あたしが田魅沢だけど……なんか用があるの?」
「実はですね。咲見崎サヤ先輩のことをご存知ですか?」
「同じクラスだったし知ってるけど……」
と田魅沢先輩は訝しげに僕たちを見ながら答える。
咲見崎先輩も田魅沢先輩と同じクラスと頭の中に入れておく。
「城鉈先輩の苦労話を聞いてたら、田魅沢先輩のお話がでてきたので、詳しく聞けないものかなと思いまして」
と話したところ、じろりと睨まれた。
「刑事の真似事でもしてるの? あたしは警察に職質されまくって、キライだから話すことなんて何もないよ」
と、けんもほろろだ。これはどうしたものかなぁ、と考えた。警察が嫌いなら捜査に協力してる、なんて言ったら何も答えてくれなくなるかもしれない。今は曖昧にしておいた方がよさそうだと判断する。
「いや、お聞きしたいのは城鉈先輩のことなんですよ。留年しそうだったところを、田魅沢先輩が救ったんだ、なんて話を聞いたので」
僕に続けて北倉さんが話を広げてくれる。
「どうやって留年の危機から城鉈先輩を助けたのかな、と思ったんです。私の友人に留年しそうな人がいて藁をもすがる気持ちなんです。助けてください!」
なるほどと納得した様子の田魅沢先輩は
「そういう理由なのね。
城鉈先輩のいい点を話して擁護しているようだ。
「そうなんですね。そのやる気をどうやって引きだしたんですか? 正直いって勉強ってやる気をどうやって持続させるか? が一番難しいじゃないですか?」
と北倉さんがいうと田魅沢先輩は自慢げに
「あたしがずっとそばにいて一緒に勉強してたからな。当然の結果だ」
と自慢げに話す。
「城鉈先輩が頑張ったのは、田魅沢先輩がいたからってことなんですね!」
と僕は合いの手を入れる。
「そうだ、その通りだ。お前なかなか分かる奴じゃないか!」
「だからこそ城鉈先輩の彼女になれたって訳ですね」
「そうよ。あたしが缶太のために一番頑張ったんだからな!」
と話をしてこれで終わりだ、と1人満足した様子で田魅沢先輩は去って行った。
◇
城鉈先輩からも話を聞けないかな、と思って探していた。1人でのほほんと歩いている城鉈先輩を、北倉さんがうまいこと見つけてくれた。
城鉈先輩は茶色の短髪、快活そうな高身長の小麦色をした肌のアグレッシブなイケメンの先輩だった。これはモテモテなのも納得だねというカッコイイ先輩だった。
中学受験をしてきたんだから、地頭はいいと田魅沢先輩から聞いていた。
「ちょっといいですか? 城鉈先輩!」
と北倉さんが元気いっぱいの様子で声をかける。
「お? なんだお前ら、何か用か?」
と城鉈先輩は不思議そうな顔をする。
「僕は井波田といいます。よろしくお願いします」
「私は北倉です。よろしくお願いしますね」
一呼吸おいて
「咲見崎先輩と揉めてたって聞いたので、ちょっとお話をお聞きしたかったんですよね」
と僕は城鉈先輩にストレートに切り込んだ。
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