第7話 角田 英十郎という校長先生

 今まであちこちで話にでてきた角田かくた英十郎えいじゅうろうという校長先生が気になった。

「角田校長に会って話が聞きたいなぁ」


 呟いた僕に北倉きたくらさんが

「校長室に行ってみる? 校長先生がいるかどうか? っていうか校長先生が話をしてくれるかまでは分からないけど」

 と答えた。


 それを聞いて、運がよければ角田校長に会えるかもしれない、と考えた僕は校長室に行くことにした。


 セントルミル中等教育学校の職員室の近くに校長室はあった。校長先生の予定もあるだろうからじっくり話ができるかは分からないけど、と思いながらドアをノックした。

 すると「入りなさい」と渋い声がした。


「失礼します」

と言って僕と北倉さんは校長室に入った。

 角田校長は白髪で白髭を生やしてはいるが、スーツ姿で恰幅のいい優しそうだけれど、それでいてとても落ち着いている人物だった。


「2人そろって何か用かい?」

 と角田校長は不思議そうに首を傾げる。僕は

「お忙しいところすみません。あちこちで角田校長先生のお話を聞いて、お話をお聞きしたいなと思ってお邪魔したんです」

 と手短に話をする。


 話を聞いて右眉をあげた角田校長は

「君が転校してきた高校生探偵の井波田いなみだ君ということかな?」

 と僕に問いかける。


 察しがいいのは話が早いと僕は頷き

「そうです。今回の咲見崎さみさき先輩のことを調べています。それもあって校長先生のところにお邪魔した訳です」

 と返事をした。


「咲見崎さんのことか。早く殺人事件を解決してくれたまえ。警察に同じ話を何度もしたけど、結局のところ捜査の進捗はどうなっているんだい?」

 と、角田校長は話を振ってくる。


「咲見崎先輩は口論していたという目撃証言から進んでません。まずはその裏付けをとるため、みなさんから話を聞いているところです」

 角田校長は

「あまり捜査は進んでないということかね?」

 と髭を撫でる。


「そうです。僕の捜査は全く進んでません。警察の方が2歩も3歩も進んでいると思いますよ」

「それで解決できるのかね?」

「そのためにご協力をお願いしに来たんです。心配なのが、無海住むかいずみ教頭に怒られてしまったことなんですけど、教頭先生ってどういう方なんですか?」

 と聞いてみた。


「無海住教頭先生か。保護者の方からの意見を汲み取るのが上手な方だね。保護者の方と交流も深い。今回のPTA側の意見を聞いて警察と交渉してくれたのも無海住教頭先生だよ。無海住教頭先生の報告を聞き私が承認した。そうでなければ井波田君がこの学校に転校してきて捜査してる、なんてこともなかっただろうと私は思うよ?」

 と角田校長は腕を組み髭を整えながら話す。


「では桧山ひやま先生に関してはどう思われますか?」

「真面目な生徒想いの先生だという認識だよ。こんな状況でも頑張ってくれていると思っているね」

 他の先生方に関しても聞いてみたけど、みんないい先生だよというありふれた反応だった。


 特に新しく得られた情報はないことにがっかりしつつも

「この咲見崎先輩の案件の前と後でなにか大きく変化したことってありますか?」

 と尋ねた。


「それは警察の方がたくさん学校に出入りするようになったこと、生徒が不安そうにしていること、先生方にも落ち着かない様子が見えること、不安なことばかりだとは思うが、教師がその不安を生徒に見せてはいけないと思っている。生徒も不安になってしまうからね。大人がしっかりしないと、とは思うね。まぁ、そういう考えは理想論なのかね?」

 なんて言って、ため息をついている角田校長先生だった。


「咲見崎先輩に関して、角田校長先生は知ってらっしゃることってあるんですか?」

「これといって特にはないね。ただ優秀な生徒だったと記憶しているよ。けれども私にも分からないというのが実情だね」

 とのことだった。


 話してみて分かったのは先生同士でいがみ合ってるとか、仲が悪いとかも特になさそうだということだ。


 収穫なしか、と思ったときだった。口論が聞こえる。校長室から出てみるとそこにはガタイのでかい男と桧山先生がいた。

「何かあったんですか?」

 と僕は聞いた。


 角田校長が「何事かね?」 と聞くと

須水根すみずねです。桧山先生に話を聞こうと思いまして」

 と須水根と名乗った刑事は警察手帳を見せて答えつつ

「ほら、お前しっかりしろ! こちらが角田校長先生だ」

 と隣の部下の頭を軽く小突いた。須水根刑事は筋肉質の身体をした体育会系の上下関係がしっかりしてそうな人物だった。黒のコートに身を包んでいる。


「何か新しい証拠でもみつかったのですか?」

 と角田校長は問いかけた。

「証拠はないです。ですが俺の刑事としての勘が、桧山先生を怪しいと言っているんです!」


 須水根と名乗った刑事さんはそう言っていた。勘をきっかけに新たな証拠を探して犯人を突き止めるのがベテラン刑事だ、と思ってたんだけどこの刑事さんは違うみたいだ。 


 角田校長は髭を撫でて、

「我が校の関係者は事情聴取を既に受けた。今は生徒の目もある。新しい証拠もないのに話を聞いたって、事態は何も変わらないでしょう? それとも今、桧山先生に話を聞けば新事実が100%でてくるとでもいうのですか?」

 目を細めて鋭く須水根刑事を追及した。

 

「いや、100%でてくるという訳では……ないです」

 徐々に小さくなる声を聞いた角田校長は

「今日のところは申し訳ないが、生徒たちのためご容赦ください。できれば新たな証拠をつかんでから、そのとき改めて須水根刑事のご高察をお聞かせください」

 と角田校長は須水根刑事にそう話した。


 須水根刑事や角田校長のやり取りをみて今日の捜査は終わりにした。白川しらかわ所長に報告する内容をまとめておこう、と僕は考えていた。

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