第6話 葉積 涼蔵という用務員
「もういいです。君たちには何を言っても、分かってもらえないことが分かりました。ここから出て行きなさい!」
「言いたいこと言えてすっきりした」
と応接室からでた北倉さんは背筋を伸ばしていた。
「教頭先生には悪い印象をもたれちゃったみたいだけど、悪いのは
と言うと
「その通りよ。おかしいのは無海住教頭の方よ。それにあの教頭って、いつも身体をじろじろ見てきてなんか気持ち悪いのよね」
と北倉さんは同意しながらも「寒気がするわ」と呟いた。
その後、どうしようかなと考えていると、
「もしよかったら学校を案内してあげようか? 応接室も心配だったからついてきちゃったし、でも来てよかったなって思ったし」
と北倉さんは笑う。
「それじゃぁお言葉に甘えて。
と返事をした。
「うん、いいよー。じゃぁ早速、見に行こう」
と決まり案内をしてもらうことになった。
視聴覚室、理科室、図書室などなど、一通り案内してもらった。
「ついでだし体育館と校舎裏も見に行ってみる?」
との申し出があったので僕は頷いて案内をお願いし、ついて行くにした。体育館はバスケットボールが2試合、同時にできるくらいの広さで、校舎裏には色んな植物が花壇に植えられていた。
「この辺の花壇は朝顔とか紫陽花の花が咲いて綺麗なんだよ?」
と笑って北倉さんは話しかけてくる。さっき校舎内を案内してもらったときと同じ気楽さと和やかさだ、と思っていたら
「お前たち、何してるんだ? 花壇を荒したら許さんぞ?」
と言っておじさんが現れた。
「誤解です。そんなことはしてません」
と北倉さんは反論する。
実際、花壇に近づいて見ていただけだしね。
「おじさんはどなたなんですか?」
と僕は聞いていた。
「俺は
と話した。ジャージのような身動きやすそうなラフな格好をしている。背は低めだけどガタイは大きく、太った純朴そうなおじさんだ。
「用務員さんでしたか。僕は最近この学校に転校してきたんです」
と答えると
「あぁ、君が話に聞いた転校生なんだな」
ほんとに学校関係者には僕が警察の関係者だと知らされているんだなと思った。
それならば話が早い。と考えて質問してみた。
「葉積用務員さんは先日亡くなった咲見崎先輩のことって知ってますか?」
「ここの学校の生徒だったんだろう? 警察がきて質問攻めして帰っていったよ」
と苦々しそうな顔をして葉積さんは話す。
「何か咲見崎さんのことを知ってらっしゃるんですか?」
と聞くと葉積さんは
「知らないよ。会ったことすらない。話したこともないし見たこともないんだ。生徒と話すことなんてあんまりないからな」
と不機嫌そうだ。
ついでだし学校の先生たちのことを聞いてみようかなと思った。生徒と面識なくても学校の先生とは話したりしているじゃないかと思ったからだ。
「さっき
「教頭先生は厳しいからな。よく思われる方法なんて俺の方が知りたいくらいだ」
ハハハと葉積さんは諦めたかのような顔をして笑う。
「それにあの教頭先生はいま校長を目指して頑張ってるみたいだしな。上を目指して勉強してる。俺とは別世界の人だよ」
と答える。この葉積用務員さんって根は悪い人じゃなさそうだ。
「じゃぁ、校長先生ってどんな人なんですか?」
と聞いてみると
「
と葉積用務員は1人で頷く。
「そんなに角田校長先生っていい方なんですか?」
どんな校長先生なんだろう、と思って北倉さんに顔を向けると
「角田校長は全校生徒の朝礼だって、何かの行事だって長話を延々しないのよ。要点だけビシッと伝えて終わるタイプね。それなのに話は本当に分かりやすいのよ」
と合いの手を入れる北倉さんだ。
へぇ、そんなに凄い校長先生なんだ。
「その通りだ。生徒たちも保護者の方からの信頼も厚い、と俺は思うしな。角田校長先生は人格者で素晴らしいお方だ。お優しいしな」
と葉積用務員も我が意を得たり、という雰囲気で北倉さんの話にのってきた。
「じゃぁ、
「桧山先生か? そうだなぁ、真面目な先生だ。綺麗だしな。生徒想いの良い先生だ。若いのにしっかりしてる。生徒のために頑張ってるしな。ほんとにいい先生だ」
「なるほど、最後にもう1つだけ教えてください。葉積用務員さんは咲見崎さんが亡くなった死亡推定時刻の1998年11月24日の22時から24時頃、どちらにいらっしゃったんですか?」
「アリバイか? もう何度も何度も答えたんだぞ? そんなことは警察から聞いてくれ」
ぶっきら棒に面倒そうな顔をして、葉積用務員さんは、そう答えた。
とはいえ、僕も
(はい、そうですか)
と簡単に退くわけにもいかない。
「アリバイって重要なんです。葉積用務員さんの身の潔白を証明する一番簡単な方法なんです。僕も葉積用務員さんを疑いたくはありません。だから教えて頂けませんか?」
ともう一度、頼んだ。
すると
「……まったくしょうがないな。俺は宿直室に1人でいたよ。テレビを見たり好きな小説よんだりして時間つぶしてたさ」
「つまり、葉積用務員さんにアリバイはないと?」
「……そうだ」
と、ため息をつきながら葉積用務員さんは答えたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます