第4話 鬼記島 健三という上級生
「てめぇはさっきから何を言ってんだ? 俺は優しいから忠告してやってんだぜ? これで3回目だ。分かってんのか?」
と
「次はない」
と短く威嚇してきた。
いよいよ怯えて泣いてる
「安心してください。この程度の相手に負けることはありません」
と笑いかける。
余裕の表情をしている鬼記島先輩に向かって
「4回も言わないと分かりませんか? 北倉さんを泣かさないでください」
とはっきり言いきる。それと同時に無言で殴りかかってきたのは、オールバックの太った男だ。僕の顔面を殴る気満々のようだ。
僕は踏み出してきた足を蹴り飛ばし、男の体勢を崩してそのまま腹を蹴り上げる。
「てめぇ。何しやがる!」
それを見たグラサンの男は右足で僕の脇腹を狙い蹴ってくる。それを左手と左脚でガードしつつ服を掴み、背負い投げでグラサンの男を鬼記島先輩めがけてそのままぶん投げた。
グラサンの男と一緒に倒れた鬼記島先輩は立ち上がり
「なにやってんだ、お前ら! 俺は金を払ってんだからしっかりしやがれ!」
と叫ぶ。
ゆっくりと立ち上がる男2人は
「油断しただけだ! こんな貧弱な奴に俺たちが負ける訳がねぇ!」
「もちろんだ! 油断しただけだ!」
と大声で威嚇してくる。
もう油断はしないと気合を入れているのが分かる。相手の目は本気だ。睨みつけ威嚇し、こちらの心を乱そうとしてくる。それに付き合う必要は全くないけどね。
「大ケガしないと分かりませんか? 北倉さんが叩かれた分も倍にして返します。次は容赦しません」
僕は淡々と話す。
相手の実力はもう分かった。この3人に負けることは考えられない。けれども油断してたら今度は僕が負けるだろう。その場合は僕の代わりに北倉さんに危険がふりかかる可能性もある。そんな事態にしてはならない、と気合を入れる。
「負けたのは油断したからだというのであれば、無言で殴りかかって来ないでください。不意打ちなんて強者がとる作戦じゃありません」
と言って、僕は重心をおとし中腰で構えをとる。
僕の構えを見て警戒する男たち。
「怯んでたら負けますよ?」
と僕は呟いた。態度はでかいが鬼記島先輩自身にたいした力はなさそうだ。
太った男は聞いてくる。
「お前、なにもんだ!」
「転校生ですよ。数日前にこの街にやってきました。以後よろしく」
と笑ってみせる。
さらに怯んだ様子のグラサンの男は
「こんな奴がいるなんて聞いてねぇぞ!」
と鬼記島先輩に食ってかかる。
「あなた方の事情なんてこっちは知らないですよ」
と僕は呟き、肘で相手の胸を打って背後にまわり、相手の斜め下から持ち上げるように身体の半身で体当たりをかまし、太った男のでかい身体を宙に浮かせ、両手を突き出しその巨体をぶっ飛ばす。
「まずはお一人様ご退場」
太った男は頭をぶつけて倒れ込む。
「てめぇ。何しやがる!」
と仲間がやられたのを見たグラサンの男が、口から泡を飛ばしながら聞いてくる。
君はカニか? と心の中で思いつつ
「それを聞きたいのは僕の方です。殴りかかってきたのはそちらです。だから仕方なくやり返しただけですよ? 僕は最初から『北倉さんを泣かせるな』と言っているでしょう? もう忘れちゃいましたか?」
「ふざけんな!」
殴りかかってきた腕を掴んで引き寄せ、半身で体当たりを食らわる。倒れて無防備になった腹を拳で3回、殴りつけた。グラサンの男は泡を吹いて悶絶する。
「これで二名様のご退場」
とにっこり笑って鬼記島先輩を見る。
「まだやりますか?」
と問いかける。青白い顔をした鬼記島先輩は
「覚えてやがれ!」
とお決まりの捨て台詞を言い放ち、3人ともフラフラの状態で走り去って行った。
「三名様みなさんそろってご退場」
と僕は呟いた。パンパンと膝の埃を払った僕は
「もうこれで大丈夫です」
と後ろを振り返り北倉さんに笑いかける。
それを見ていた北倉さんは
「い、
そう言った北倉さんは大きい髪留めのリボンを両手で結び直し、泣きながら驚いた様子で笑ってた。
◇
翌日1998年12月11日、学校に行ってみると、みんなの態度があからさまに変わっていた。ざわざわと落ち着かない教室の雰囲気だ。
聞き耳を立てると
「あの転校生、あの鬼記島先輩と喧嘩したらしいぜ?」
「マジで? みんな手が出せない無法者じゃないか!」
「なんで喧嘩したのに元気に学校に来てるんだ?」
「そりゃ、鬼記島先輩たちを病院送りにしたからさ。あいつら学校きてねぇもん」
「冗談じゃないのか? あんな転校生1人に鬼記島先輩たちが病院送り? おかしいだろ!」
「「「「あの転校生には絶対に逆らうな!!」」」」
……そんな意見でまとまらないでほしいと僕は思った。そうした噂を聞いているのか、いないのか。北倉さんは
「やっほーー」
なんて言いながら呑気に僕に手を振っている。
それを見た他の生徒たちの噂話はさらにヒートアップする。
「「「「き、北倉さんにあんな気さくに手を振ってもらえるの!? なにやらかしたんだ、あの転校生は!?」」」」
鬼記島先輩たちを追い払っただけだよ、と僕は心の中で呟いた。
そんな周りを気にせず北倉さんは話しかけてくれた。
「どうしたの? 元気ない?」
と北倉さんは空気が読めないのかなんなのか、不思議そうな顔をして聞いてくる。
「昨日の鬼記島先輩たちとの一件がもう学校中に知れ渡っていて、僕は要注意人物になってしまったみたいです」
がっくりと肩をおろした。
「大丈夫だよ! むしろやりたい放題だった鬼記島先輩たちを、とっちめたんだから凄いよ! 私も無理やり万引きさせられるところだったしね。井波田君は私のヒーローだよ!」
と今日一番の笑顔で答えてくれた北倉さんに、僕はひたすら感謝した。
「でも、
と
「そんなにびっくりしないでくださいよ。ただでさえ、周りから奇人変人に見られてる気しかしないんですから」
僕は消しゴムをペンでつつきながら話をする。
「そう? 女子からは『私も守ってもらおうかしら!?』って既に噂話になってるのは井波田くん知ってる?」
とニヤニヤしながら北倉さんは話しだすのだった。
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