第3話 北倉 澄香という女の子
「鞄からタオルが落ちそうですよ?」
という僕の指摘に
「えっ。ほんと? ちょっと待ってね」
失礼ながらその中の本を見て僕は声を上げる。
「えっ!? 北倉さん! こんなラノベ読むんですか!?」
僕は思ったままの感想を口にしてしまう。北倉さんは慌てて
「え? そうね。たまにはラノベも読みたくなるのよ!」
と話す。
「そうですよね。いろんな本が読みたくなりますよね! ……北倉さん何かあったんですか? 嫌なことでもありました?」
といって僕は北倉さんの目を真剣に見つめて話す。
「今ならまだ間に合います。笑い話で済ませましょう?」
北倉さんは僕の目を見つめ返す。そして長いような短いような、何とも言えない時間が過ぎる。
耐えきれなくなったのは北倉さんだ。
「ごめんなさい」
と短く謝った。僕は北倉さんの鞄の中から万引きしたラノベを取り出し、元の場所にそっと戻した。
◇
綺麗な夕日を僕は眺めながら、北倉さんは下を向いて歩いていた。お店をでた僕は北倉さんが話しだすのを待っていた。なんで万引きをしてしまいそうになったのか? さっき教室で見たときより頬が赤くて、ちょっと腫れているようにみえたのも気になった。理由は分からない。けれども僕が見ていた感じだと、クラスでの彼女の人気は高く、人望は厚かった。
このままだと話してくれそうにないのを感じとり
「何か嫌なことがあったんですか? もちろん話したくなければ話さなくていいですよ? 転校して間もない僕なんて信用できないでしょうから、たはは~」
と僕は北倉さんに笑いかけた。
意を決したように息を吸った北倉さんは
「うぅん。信用できないってことじゃないの。実は……」
と言いかけた彼女の歩みが止まる。
北倉さんの目の前にいきなり現れた男3人。この人たちとは知り合いなのかな? と思っていると
「北倉さん。約束の本は持ってきてくれたんだよね?」
と僕を無視して話しかけてきた。
北倉さんは
「い、いえ。
と明らかに怯えている。僕は完全に蚊帳の外だ。
真ん中で今リーダーっぽく話しているのは鬼記島というらしい。丸眼鏡をかけているインテリぽい小柄な男の先輩だ。その右側にはオールバックの髪形をした太った男がドンと立っている。鬼記島先輩の左側にはグラサンの男がガムを噛みながら、馬鹿にしたような顔をしてこちらを見ている。
「あれぇ。おかしいなぁ。俺はちゃんとあの本屋から本を盗って来てくれってって言ったよな? 買ってきたらダメだって? さっきお前の頬っぺた撫でて教えてやったよな? それで今まさに、やり直しになったんだもんなぁ?」
と太った男がいちゃもんをつけてくる。
北倉さんは悔しそうに唇を噛みしめて、右手で肘を掴んだ。ここまで聞いて納得する。これが北倉さんが万引きしようとしていた理由という訳か。
「聞いてんのか? あぁ!? 返事しろや!」
とグラサンの男が威嚇する。
「北倉さんが万引きする直前で、僕が止めちゃいましたよ? だから北倉さんは万引きできなかったんです」
と僕は伝える。
「ダメだよ。
頬が腫れたようにみえたのも、アイツに平手打ちを食らったということか。
「なんだぁ? てめぇは。俺たちはそこの北倉に話してるんだ。関係ねぇ奴はすっこんでろ!」
と太った男が怒鳴り散らした。
「井波田君……! マズいって」
と北倉さんは僕の腕を強く引っ張った。
「君まで巻き込まれちゃう」
北倉さんは涙を流して僕を止めようとしてくれた。なかなか話をしてくれなかったのも、何も知らない僕を巻き込みたくなかった、というところか。けれども僕はかまわず話し続ける。
「ですから、本屋で万引きしようとした北倉さんを止めたのは僕なんです」
グラサンしてるからどういう目をしてるのかは分からないけど、眉間にしわを寄せて顔を斜めにして相手は大声を張り上げた。
「うるせぇぞ! さっきからブツブツ言ってるてめぇは一体なんなんだ! 今なら許してやるから黙ってあっちに行きやがれ! 俺たちは忙しいんだ!」
目的は僕ではなく、北倉さんということなんだろう。僕は一応、念のために聞いてみる。
「北倉さんが万引きしようとしたのは、さっき万引きをせず買ってきたものをあなた方に渡したからだった。でも買ってくるのではなく、今度は盗ってこいと暴力をふるって脅した。そういうことでいいんですね?」
あからさまにビキッ! と音がしたかの如く目を吊り上げ、怒った様子で鬼記島先輩は
「人聞きの悪いこと言わないでくれるか? 君はいったいどこのどなた様なんだい? 忠告はこれで2回目だよな」
と鬼記島先輩は周りに話しかけ、にやにやとした顔をして同意を求める。両隣の男たちは鬼記島先輩に
「2回目ですよねぇ、俺たちって優しいですよね。忠告をちゃんとしてあげてるんですから」
と答え、お前は邪魔だからさっさとどこかへ行けというかのような表情で威嚇してくる。
「北倉さんが万引きをしなかったのは僕が止めたからです。同じことを言うのは僕はこれで3度目ですよ? あなた方が文句を言うべきは本来なら僕なんです。そこを間違えて北倉さんを泣かせないでください」
と北倉さんを庇うように、僕は鬼記島先輩たちの前に立ちふさがるのだった。
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