第2話 桧山 莉緒花という教師
僕はドキドキしながら転校生としてセントルミル中等教育学校に乗りこんだ。
「これからよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくね」
と笑ってくれた桧山先生は綺麗だった。
「すみません、早速で悪いのですが咲見崎先輩の死亡推定時刻の1998年11月24日の22時から24時頃の桧山先生のアリバイってありますか?」
「いきなりアリバイ?」
と桧山先生は目を点にするのだった。
「すみません。でもコレって聞かないといけなくて、捜査するしない以前の問題なんですよ」
いきなり
「仕方ないわね。警察にも言ったけど、私は職員室で残業してたわよ」
と桧山先生はにっこり笑ってみせた。
「つまりアリバイはなかったんですね」
と確認した。
「残業してただけで私が犯人になるの?」
と聞かれてしまい、僕は正直に
「たはは~、参考にさせて頂きますね」
なんて、痛いところを突かれているのを笑ってごまかした。
◇
そして桧山先生の後に続いて教室に入った。
「
と無難な挨拶をしておいた。
(フツメンでその他大勢の男子高校生です。ゲームで言うならモブだよね。自分で言っておいてダメージ受けちゃいそうだね! しかし、その実態は高校生探偵、井波田秦互!)
と一度は言ってみたい自己紹介を心の中で呟いた。実際に言ってしまえば黒歴史になるんだろうなと思いながらも、こんな妄想で満足してしまえる僕の自尊心は割と安いね、と自己分析してしまう。
高校生探偵と言っても
席についた僕はまず何をするかなと考える。友達を作るのは高校生活を楽しく過ごしたいなら必要だろう。勉強や趣味、部活に没頭するのもいいだろう。でも
どうしたもんかなと色々考えた結果、とりあえずクラスメイトの顔と名前を一致させることを優先しようと思った。誰が誰だか全然わからなかったからだ。授業で名指しされた生徒の名前を、必死になって覚えていく学校生活が始まった。
◇
帰りに死体発見現場の川辺へ行ってみた。咲見崎先輩が亡くなってから、2週間ほど経っているのもあってか警察の姿もない。溺死体が見つかったという川のほとりには花束が置かれていた。川の流れは速く川底も思ったよりも深そうだ。
ルミール橋にも行ってみた。この橋は車が2台くらいなら通れる広さがあって頑丈そうだ。橋から水面までは5メートルくらいか、肝心の柵は僕の腰より少し下かな? という位置にあった。
揉みあって突き飛ばしたら、その反動で落ちてしまったとしてもそんなに不思議はない。話を聞く限り可能性は低い気はするけど単なる事故か自殺だったのか。それとも殺人事件だったのか? これが悩ましいところなんだろうと考えていた。
僕は白川徳三郎探偵事務所の雑務をいつも通り処理する。僕は習い事というか、趣味で格闘技を色々と習っている。テレビや小説で探偵の物語を見て、探偵は強い方がいいと思ったからだ。
格闘技の道場に行って軽く汗を流し、学校の寮へ帰った。僕はセントルミル中等教育学校の寮を借りられることになったのだ。
生活に必要な家具類はそろっていた。これはありがたいことだった。テレビとベッド、冷蔵庫、炊飯器、そして電子レンジまで完備されていた。引っ越しの作業はいらなかった。旅行に持っていくような着替えを数着と制服だけを持ってきた。
今日の食事はコンビニで買えばいいや、とぼんやり考えた。そしてコンビニで、から揚げ弁当とお茶を買った。デパートへ冷やかしにいくついでに、周辺の状況を実際に見て回って把握した。
◇
そして2日後の1998年12月10日、僕は必死になって、ほとんどのクラスメイトの顔と名前を覚えていた。クラスメイトはみんな元気だ。ムードメーカーになっているのは
綺麗な黒いポニーテイルと濃い茶色の瞳をした可愛い女の子だ。凛とした姿勢で背筋を伸ばすと、グラマーさが強調されて目のやり場に困るのがちょっと難点か。
とはいえ、髪を結んでいる蝶々みたいな大きなリボンを、引っ張りながら照れるように話すクセを見ていると、可愛い女の子だなと思った。みんなから愛されるマスコットみたいな子だ。北倉さんの周りには自然と人が集まってくるように見えるのは僕の気のせいだろうか?
◇
授業も終わったし夕飯を買いに出かけることにした。ついでだしデパートで色んなお店を見て回っていた。
僕はわざと軽くぶつかって、本屋から出ようとした女の子を止めた。そのまま話しかける。
「あ、ごめんなさい。大丈夫ですか? あれれ? 北倉さんじゃないですか?」
「い、井波田君?」
答えたのはクラスのムードメーカーで人気者の女の子、北倉さんだった。
「大丈夫ですか? ケガしてません?」
「うん。大丈夫。びっくりしちゃった」
と北倉さんはぎこちなく笑っている。
「そうですか、よかったです。どうしたんですか? お店の中なんて見て。きょろきょろしてたら不審者だって思われちゃいますよ?」
「そ、そうだね。やぁね。ほんとそうよね」
自分の顔を手でひらひら
「おっと、鞄からタオルが落ちそうですよ? 何か慌ててたんです?」
と僕は北倉さんに問いかけた。
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