Day30「握手」

 彼女が浮かれている。それはもう途轍もなく浮かれている。

 美術館帰りは大抵浮かれていて足元が覚束ない感じだが、今日は特に酷かった。


「ふっふふ~ん」


 鼻歌まで飛び出している。初めて聞いた。


 今日は美術館ではなく、小さなギャラリーへ赴いていた。何でもお気に入りの画家の個展が開かれているとか何とか。


 詳しく聞かないまま、いつものように勝手についていったのだが、まさか彼女がここまで「壊れる」とは想定外だっだ。


「だって本人がいらしゃって握手までしてくださるなんて思わないじゃない!

 こんな一小娘に先生自ら!

 興奮するなって方が無理だよ!

 手洗えないよ!」


 そうかもしれないが、相手が芸能人ではなく画家というのが彼女らしいか。

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