Day4「触れる」

 薄々気付いてはいたが、鈍い。



 次の講義へ移動する最中、彼女の漆黒の髪に不似合いな埃が付いているのに気付いた。


 だから、摘み上げた。


 下心はなかった。多分。その瞬間に限ってだが。

 身長差のせいで彼女の頭頂部が見えやすい、つまり頭の上の異物に気付きやすかった。ただそれだけだ。


 異性の髪に触れる行為の意味を思い出したのは、指先の埃を吹き飛ばした後になってからのこと。


「あれ、何か付いてた?」


 こちらの動作にやっと気付いた彼女が、不思議そうな顔で見上げたあと「ありがとね」と気安い言葉を返した。

 無自覚にやらかして呆然とするこちらに気付くことなく。



 俺もそうだが、こいつも大概だ。鈍すぎる。長期戦を覚悟してため息をついた。

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