七月二日 透明
朝の嫌な日課。スマートフォンの溜まった通知を消すこと。健全な社会人だったら寝ている時間に山吹は何度もメッセージを送ってくる。
夜は寝てるからやめてと伝えたこともあるが山吹は「僕の日記みたいなものだから」と言ってのけた。人のメッセージ欄に日記を書くなと言えば「僕のことをカヨちゃんに知って欲しいからさ」と素直な子どものように嬉しそうに薄情してくるものだから、私は込み上げてくる胃酸を吐き出さないように努力しなければならなかった。
気持ちが悪い。山吹は幼いころから変わらないからタチが悪いのだ。幼子の純真な心と成人の欲望で頭がおかしくなっているのが山吹だ。野花の花束を贈りはにかんで笑った幼い山吹と同じ笑みで、欲望を込めた日記を私に送る。
今日はカヨちゃんを迎えに行けて嬉しかった。
暑い。またカヨちゃんとお風呂に入りたい。
カヨちゃんの好きな紫色の花が咲いてたよ。
チューペットをまた半分こして食べたい。
また家に知らない人が来た。知らない人と話しちゃダメだから無視した。
夜っていつも怖いよ。
助けてよ。
明日はいつもの人がくる。僕も話すんだ。あの人は好き。でもそれ以外は嫌い。カヨちゃんは大好き。
…… 本当に気持ち悪くて迷惑だ。
もうひとつの朝の日課。
山吹で汚染された心を綺麗にして澄んだ心でいるためにやる儀式がある。
月光を吸わせたクリスタルを朝日に反射させ、それをコップにいれてミネラルウォーターを飲んで神様にお祈りをする。
「私の汚れた心を透明に戻してください」
澄んだ透明な心でいないと神様に愛されない。私はお母さんのように神様に愛されたいのだ。
朝の日課を終えると、健全な社会人である私は支度をして仕事に行く。
この当たり前でうつくしい日常を山吹に汚染されることがいつまでも許せない。
#文披31題 カヨちゃんと僕 ナカタサキ @0nakata_saki0
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。 #文披31題 カヨちゃんと僕の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます