『自称』協力者
染谷市太郎
遅いのだ
あなたは生後間もない赤ん坊の世話をしている。
赤ん坊は泣くし、粗相をするし、寝ないし。
そんなあなたに夫は言った。
「なにか手伝おうか?」
いいや手伝うとかじゃない。
この赤ん坊はお前の子供なのだ。
お前が世話をすることは義務なのだ。
やるべきことは自分で見つけろ、指示を待つな。
介護、育児、家事。
そういったものを担っていると、そんな風に思うことがある。
自分は奉仕される側で、自分が助力する側という、当事者意識のない男(に限らず女も)には嫌気がさす。
そもそも、「手伝おうか?」と声をかけられてもすぐに指示が出せる者は少ない。
主体で行っている私たちは、専門家ではないのだ。
適切な指示は出せないし、むしろ声をかけられだけで困ってしまう。
こっちはてんやわんやなのだ。指示を待たれても司令塔にはなれない。
優秀な部下ではなく、優秀な同僚になってほしい。
だって、共同生活だろう?
いや、実際彼らは、「手伝う」という言葉で満足しているだけだ。
”声をかけた。でも必要そうじゃなかった。僕の力はいらないらしい。”
そんな判断をして。そして自分は協力者であると、一番疲れて達成感のある顔をする。
くそったれ。
お前が一番楽をして、一番無責任だ。自覚しろ。
このような考えを、その無責任な奴らと腹を割って話して。それで解決するのか。
いいやしない。
話し合えばわかるだとか、理解しあえるだとか。そんなものは通用しない。
そも彼らは理解しようとしない。
こちらの言葉は、右耳から入ってそのまま左耳から出ていく。
かたくなに、自分の無責任さを自覚しようとしない。
なぜだろうか。
理由は態度を見ればわかる。
彼らは見下しているのだ。こちらを。自分のほうが立場が上だと。
だからへらへらとしていられる。笑って、話しを聞かず、同じ問答を繰り返す。
ぐるぐるぐるぐる、進歩しない。
なぜなら自分はもう上にいるから。上の立場で、自分が言っていることが正解で、理解すべきは私たちだから。
そんな高慢な奴らだから、自覚もできない。話し合いもできない。
馬鹿にするのもほどほどにしてほしい。
見下すな。
私は、私たちは、思考を持っている、考えを持っている、言葉を持っている。
権利がある。人格がある。心がある。
それを理解しないのも理解しようとしないのも、お前たちだ。
会話の席に座らず、ふんぞり返っているのはお前たちだ。
いつか後悔する。
絶対だ。
私たちは集団だ。家という集団。
それを見下し支配者気取りのお前は、いつでも、捨てられる側になる。
捨てるのは私たち。
捨てられるのはお前。
それが今日か、明日か、あるいは数年後か。
ひとりぼっちのやもめになって、後悔しても遅いのだ。
『自称』協力者 染谷市太郎 @someyaititarou
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