第13話 山賊退治


「それで、山賊はどこに現れるの?」


 私が尋ねると、イッチが答えた。


「ここから北、街道沿いにしばらく歩いて、東の山の中にいるそうだ」


 山賊の討伐は王国軍の仕事だが、規模が小さければわざわざ王国軍を動かすまでもなく、冒険者が肩代わりし、報酬が国から支払われることもあった。

 今回もきっとそういうことだろう。


「街道沿いの商人たちを襲っているそうだから、地形を見て、だいたいどのあたりに潜んでいそうか割り出してあるぞ」


「へぇ、そんなことできるの?」


「ああ。だてに冒険者やってきてねぇぜ!がはははは!」


 私が驚くと、イッチは得意げに笑った。

 勇者パーティにいたときは、そんなことできる人いなかったな。

 王国軍とかが正確な場所を教えてくれたりもしていたし。


 しばらく行ったら山道へ入り、その先に、数人が野営している場所があった。


「山賊の拠点にしては小振りじゃない?」


 私は草の茂みの中、声を潜めて尋ねた。


「その奥を見ろ。放棄された炭坑があるだろう。ああいう奴らが住み着くにはうってつけだ。逆に言えば、奴らにゃ逃げ道がねぇ!さぁ、行くぞ!」


「うおおぉぉ!!!!」


「え?ちょちょ、ちょっと!」


 作戦も何も聞かされていないまま、突然大きな声を上げて殴り込んだ三人に私は驚いた。

 三人は一斉に茂みから飛び出すと、斧を近くにいる山賊たちに叩き下ろした。

 三人ともばらばらに散開し、それぞれが好き放題暴れている。


 うわぁー……ヒーラーとしては一番やりづらいやつ!


 全員が同じくらいのHP、俊敏に動き回り、敵を倒す。

 全員の位置を追いながら、それぞれのHPを気にしなくてはならない。

 そして、自分の身も守らなければならない。

 なかなか大変だ。


 私も茂みから出て、敵のいない場所に位置取り続ける。

 しかし三人は奇襲できたこともあって、ほとんど無傷で外にいた山賊を倒し切った。


 そのまま炭坑へとずんずん進んで行く。

 坑道から部屋になったところを見つけては、三兄弟はそこへ殴り込んで軽々と山賊たちを倒した。

 全員がアタッカーだったが、他の近接アタッカーと比較しても、三人とも丈夫な方だった。


「”ヒーリング”」


 おかげで、炭坑の奥にくるまで、少し減ったHPをヒールするだけで軽々来れていた。


 炭坑の奥の方まで来て、私たちは開けた部屋に出た。

 金品に囲まれた、その奥の巨大な椅子に、男が座っていた。

 周りの山賊たちは、武器を構えたが、こんなところまで侵入されていることに驚いていたようだった。


 男が立ち上がると、その体はドワーフ三兄弟の身長を合わせたほどの、巨体だった。

 そして傍らの、自分の身長ほどもありそうな大剣を、軽々と構えた。

 すごくわかりやすい悪役っぽいな……。


「よぉし、もうボスだ。とっととぶっ殺して終わるぞ!」


「おおーーー!!!」


 敵のボスを眼前にして、もう仕事は終わった感を出す三兄弟に、山賊の親分は当然ながら激怒していた。


「てめぇら!!よくもこそこそと入り込んで来やがったな!俺の部下たちから逃げ回って、ここまでたどり着いたのか?」


 いや、全員倒しましたし、それなりに騒ぎになってましたけど、どうして気づかなかったのか。


「全員殺した!!!」


 ごめんイッチ、それ悪役のセリフだわ。

 私、できれば正義サイドにいたいんだけど。


「なんだとぉ!!ふざけやがって!!!お前らやっちまえ!!」


 ボスは大剣を振りかざし、部下たちに襲い掛かるように命じた。

 それと同時に、ボスも戦い始めた。


 イッチは素早く部下の山賊たちをかわし、ボスへと斬りかかった。

 ニーはイッチを止めようとする部下の山賊たちを、後ろから斧で斬りつける。

 サンはその場にとどまって、私を襲おうとする山賊を倒す。


 なんだかんだ言って、無茶苦茶戦っているわけではなく、この三兄弟はしっかり連携しているのだ。

 だったら、私が彼らのいつものやり方に合わせなきゃ。


 ボスと戦ってダメージが大きいイッチに、継続回復のヒーリング・オーバータイムを。

 ニーとサンの体力が減ったら、適宜簡易回復のヒーリングを唱える。

 連携はうまくいっているが、イッチがボスに押されているようだ。


「ぬおおぉぉ!」


 イッチは斧で精一杯、ボスの大剣の一撃を防ぐが、勢いを殺しきれず、毎回少しずつダメージを負っていた。

 ニーとサンも、周りの山賊と戦いながら少しずつだがダメージを負っていく。

 そういうことなら、イッチの継続回復を維持しながら、全体回復。


「”リカバラ”!!」


 私が杖を掲げると、部屋全体が温かく光り、三兄弟全員のHPが、通常のヒーリングの1.5倍分回復する。

 リカバラは範囲回復魔法。私から近い味方を、全員回復することができる。そのメリットは、それぞれにヒーリングを一回ずつかけるよりは、時間がかからない上に、MP消費が少ないこと。


 ただ難点が一つ。

 敵からすごく嫌われることヘイトを集める


 山賊たちが一斉にこちらを向く。

 ひえ~……

 この瞬間だけは慣れない。しかし、ニーとサンは山賊たちが私に向かってくるのを防いでくれている。

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