第14話 鉄壁三兄弟

「うおぉらぁぁ!!お前らの相手はこっちだぁ!!」


 私に向かう敵視を、全て挑発して引き付けてくれている。

 さすがは標準的なパーティではないにもかかわらず、三人で連携して生きてきただけはある。


 問題は山賊のボス。

 ボスはイッチを振り払うと、一気に私のほうへ距離を詰めてくる。


「てめぇか!余計なことしやがって!死ね女ぁ!」


「やばい!誰か……」


 ニーとサンは手いっぱい。

 こういうとき前衛慣れした人なら、うまくボスを挑発して引き付けるスキルを身に着けているが、残念ながら三兄弟にはそれがない。


 仕方ない!


 私はボスのほうに近づき、懐に飛び込んだ。


「なっ?!」


 当然逃げると思っていた私が近づいてきたことに、ボスは驚く。


 そりゃ私だって逃げたいよ!


 でも、ここで逃げるのは素人だ。

 逃げたら私のことを追いかけるボスを、イッチがさらに追いかけなければならなくなる。

 終わりのない追いかけっこだ。

 でも私が近づけば、ボスはイッチから受け続ける攻撃を無視できない。

 だからってただで近づくと、大けがしてしまう。

 そういうときは……


「”フレア”!!!」


 私はボスの懐に飛び込み、ボスの大剣が振り下ろされる前に、杖をボスの顔に向け、唱えた。

 フレアは閃光の弾を放つ魔法だ。

 しかし、魔法自体は直撃せずに、天井へと当たった。


 でもそれでいい。フレアは多少の攻撃力はあるものの、強い相手には目くらましブラインドにもなる。

 今回はそっちの効果を狙ったのだ。


「ぬぁっ……!」


 強すぎる閃光を間近で見せられ、視界を奪われたボスが怯んだうちに、私はイッチを通り越して、再びボスから見てイッチを挟んだ向こう側へと位置取った。


「でかしたぞ、おらぁあぁぁ!!」


 イッチは動きが止まったボスの背中を斧で滅多打ちにする。


「ぐあぁぁあぁ!!」


 可哀そうなくらい、後ろから滅多打ちにされたボスは、血だらけになって、跪いた。


「よっしゃ、とどめだぁあ!!」


 イッチが叫ぶと、周りの山賊を全て打ち倒したニーとサンが、攻撃に加わる。


「”ジェットライアングル・アタック”!!!」


 三人は三方向から、同時に、水平に斧を振るった。

 三人が編み出した連携スキルだろう。


 ズバァァ!!


 ボスの身体の三方向から血が飛び散る。


「ぐあぁあぁあぁぁ……」


 ドシィン……


 山賊のボスは悲痛な叫びを上げながら、その巨体を地面に倒し、動かなくなった。


 滅茶苦茶痛そう。絶対やられたくないな、アレ。


「うおぉぉぉ!!!!」


 三兄弟は勝利の雄たけびを上げた。




「ふぅ……ちょっとヒヤッとしたけど、よかったね!」


「うむ……すまんな。敵を引き付けようとしたのだが、うまくいかなんだ」


 イッチは申し訳なさそうに言った。


「ううん、三人はちゃんと連携を取れていたよ。でも、もしほかの人ともパーティを組むことがあるなら、誰か一人が前衛をできるようになっていると便利かも」


「前衛かい……なかなか気が進まんな。俺らはみんな斧が使いたいんだ。前衛だと斧が使えんだろう。剣とか盾とかで」


「そんなことないよ、前衛で斧を使っている人も普通にいるよ」


「そうなのか?」


「うん。イッチさんたちが使う手斧よりも、もっと大きい、身体くらいある斧と、頑丈な鎧と盾で身体を守る前衛さん、けっこう普通だよ」


「ほう……でっかい斧に盾……鎧だと……?」


「うん。一通りそろえていたら、三人なら誰かすぐにできるんじゃない?」


「いいことを聞いた!!いいじゃないか……大斧!!!よし、帰るぞお前ら!!」


「あ、ちょ、ちょっと!依頼達成の証明に何か持って帰らないと!」


 三人の反応を見たところ、少しは前衛の大切さをわかってくれたかな。

 もしそうなら、嬉しいと私は思った。




 私が山賊退治を終わらせて、報酬をもらって三人と別れてから、数日が経った。

 いつものように酒場で働いていると、久しぶりに元気な声が聞こえてきた。


「久しぶりだな、リリー!これを見てくれ!」


 三兄弟は、一旦村を出て西のドワーフがいる鉱山へ行くと言っていたけれど、用事を終えてこの村に戻ってきたみたいだった。


「久しぶり、三人とも!元気してた……え?」


 私はそこで言葉を止めた。

 イッチはとても大きな斧を肩に背負い、大盾を持ち、そしてピカピカのアーマーに身を包んでいた。

 すごい、私の言ったことをすぐに実践してくれるなんて、と思いたいんだけど、そう思えない要素が一つ。


「何で全員?!」


 私は頭を抱えた。

 イッチだけではなく、ニーとサンも、同じ装備をしていたのだ。


「どうだ!羨ましいだろう!!」


 それぞれが見せびらかすように、装備を私に披露した。


「いいと思う!いいと思うけど!一つでよくない?」


 一人だけが敵視を集めるから意味があるのだ。

 みんな同じ装備してたら、前と一緒じゃないか。


「だってよぉ……お前……大斧大盾大鎧ときたら、誰だってやりてぇだろうが。なぁ!」


「そうだそうだ!!」


 兄弟は声を揃えて同意した。

 ほんとに仲がいいな、この人達は。


「そっか……まあ、耐久力が上がることはいいことだよ……」


 ここに、最高に打たれ強いドワーフパーティが誕生してしまった。

 これじゃあ、上手に前衛を交代(スイッチ)し続ければ、よっぽど私みたいな回復術師はいらないかもしれない……。


「ありがとう!前衛のすばらしさを!大斧のすばらしさを教えてくれて、ありがとう!!」


「喜んでくれてよかったわ。……大斧のすばらしさを教えた覚えは無いけど」


 その後も三兄弟に心から感謝され、私は思った。


 まあいっか、本人たちが嬉しそうなら。

 パーティのあり方も、人の数だけあるのだ。

 私が押し付けるのも違う。

 ある意味、勉強にもなったし、これからもいろんなパーティが見れると、面白いかも。


 勇者パーティにいたころは考えたこともない好奇心を、私は抱いていた。


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