最終話 A

「きょーこ、聞いてくれる?」


 心臓が跳ね上がりそうなくらい加菜ちゃんの声に胸がつままれたように痛くなる。


 欲しい言葉が出そうにないからって1回無視したら静かな時間がちょっと続いたから。呆れて帰っちゃったわけじゃないってわかってたとしても怖いじゃん! 


「な、なに?」


 声が震えちゃってる。身体もすこし。


 離しかけていたくーちゃんをより一層強く抱きしめる。愛情に似た熱は私を唯一包んでくれるベール。

 加菜ちゃんが一度もくれたことのないそれにどうしても憧れを持っていて、つい求めてしまう。


「私さ、くーちゃんになりたいなって思った」


「どういうこと?」


 もしかして……なんて捨てきれない期待に私の顔は扉の方に向けられた。


 多分加菜ちゃんは私の言いたいことをわかってくれたんだって信じたい気持ちが強くなっていく。


「今日、きょーこが先に帰っちゃったのは急なことじゃないよね。優しい子だから我慢して溜め込んでいたんだよね。そのことに私は気付けなかった。でも、くーちゃんは知っていたはずだと思うから」


 やっぱり加菜ちゃんは分かってくれた。


 私の視点になってどうしていたかまでちゃんと考えてくれた。


「きょーこが言ってたの覚えてるよ。くーちゃんは温かくて、頼りになるってこと。それに私だと思ってくれていたこと」


 私も覚えてるよ。


「でも……私はくーちゃんみたいにさ、きょーこの心も身体も温めてあげることできなかったから。羨ましかった」


 加菜ちゃんの声が私以上に震えている。今、加菜ちゃんは冷たさを感じているんだ。苦しさや寂しさを抱えながら私のことを最大限に考えてくれているんだ!


 くーちゃんを置いて立ち上がった。


「本当は、私だってきょーこのこと力一杯に抱きしめたい! 好きな人の好きな香りに包まれて支えになっていきたい!」


 強くて熱い言葉が扉越しに胸を叩いてきた。届け!って真っ直ぐな想いがそのままやってきた。

 私のことを好きだって言ってくれた……。


 高鳴る胸。扉の先にいる加菜ちゃんの姿を思い浮かべたらこれまでのことを全て覆してでも顔を見たいって気持ちが私を支配して、気が付いたときには手がドアノブを握りしめていた。


 想いの強さのままに開ける。


「っ!」


 立ったまま驚いたような、喜びのあまり一瞬言葉に詰まったような反応でパッと加菜ちゃんの顔が私の方に向いた。


 一拍おいて、恐る恐る手が広がっていく。


 私も抱きしめたい。たとえ、その大きなお胸に阻まれようとも、顔を思いっきりうずめて加菜ちゃんの香りをいっぱい感じたい。


 目が合ったまま一歩踏み込む。


 それでも最後の躊躇が邪魔をしている加菜ちゃんに頷いてみせた。同じように返してくれたあと、その腕が私の背に回る。すこし足を折って。


 だから思い切り抱き着いた。


 艶のある髪から甘い匂いがする。好きだ。加菜ちゃんがつけているから大好きな匂い。それを堪能していたら大きなお胸からじんわりと熱が伝わってくる。緊張しているのかな。感情の昂りも一緒に伝わってきた。


 ああ、安心する。


「くーちゃんにならないでくれて良かった。加菜ちゃんの温もりは誰よりも何よりも、私を包んでくれるって気付けたから」


 加菜ちゃんの力が強くなった。腕とお胸に挟まれる苦しさよりも嬉しさが勝ってる。


 私も言葉にするなら今が一番だ。


「加菜ちゃん、大好きだよっ」

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幼なじみはちっぱいな私に触れてくれない 木種 @Hs_willy

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