第8話 遺品

 丘陵公園からほど近く。

『物知り婆さん』と言われる老婆の家は、辺りの家と違い壁のほとんどは白いまま、道に面する花壇には所狭しと花が育てられていた。

 老婆は2人を家へ招き入れる。

「ささ、特に何も無いけど、とりあえずくつろぎなさいな」

 促されるまま席に着くと手際よく冷たい番茶が出された。

 茶請けの菓子をナルが嬉しそうに頬張るその様子を、まるで孫を見ているかのように表情を緩ませながら老婆が眺める。


「さて、もったいぶったがわしの魔法はいわゆる【占い】での、幾千にも幾万にも広がる先を観ることが出来るというものなんじゃよ」

 そう言いながらテーブルに4つ石を置く。

それぞれの石は色も形も違う。

「おっと、形や色に関してはそれぞれの感性が大事じゃからの、思うのは良いが言うのは無しじゃぞ?」

そう言いながらコチラへウィンクをする。

_物知り婆さんとは言うが、本当はサトリか何かなんじゃないか、この婆さん...

「この石、なんて言うんですか?」

そう問いながらナルが赤い宝石を拾う。

「また見えたのか?」

ナルは小さく首を振り、傾げる。

「他の石と違くて、置いた時の音が..暖かく?感じて...?」

自分でも何を言っているか分からないといった様子だ。

 老婆はナルに体を向け、問う。

「どう答えても構わんでな...どんな形をしてる?どう感じる?」

 ナルはしばらく石を触った後

「雫...でしょうか?けど、がっちりしていて...安心する感じがします」

と答えた。

「なるほどのぅ、どれ...ワシにも見せてみなさい」

そう言い、ナルから石を受け取ると、首から下げていた指輪を石に宛てがう。


「じゃ、観ていこうかね」


 老婆が小さく笑う。

すると指輪が、否。

指輪に嵌められている紅色べにいろの石が揺らぐように優しく、光を放った。

その光をじっと見つめながら老婆は言葉を呟く。

「こういうのはあまり詳しく言うと良くないからね」

「町...たくさんの町」

「森」

「異なる生」

「遺品」

「色」

「『教』の字には気をつけなさい」

老婆が言葉を発するたびに、段々と光が落ち着いていき、そしてついに光が消える。

「記…そして円環の外」


「見えたもの全てを呟いただけだから、それぞれにどんな繋がりがあるのかはわからんからの」

 言いつつ卓上に置かれていた水晶のような物に触れると、部屋の天井に吊るされた照明が柔らかく部屋を、老婆の意地悪げに笑う顔を照らした。

改めてナルに向かい椅子に腰掛けると

「さて…どれか気になった言葉はあったかい?ナルちゃん」

 問われる前からなにか考え込んでいる様子のナルが応える。

「色…戻るんですか?私の…」

声は震え、表情は不安と希望とが入り交じっているように見えた。

 それに対しても穏やかな笑みを向けながら老婆は言う。

「さて、ねぇ?」

一層笑みを浮かべて続ける

「けど、暗い色はそう多くなかったし、一筋縄じゃあ無いだろうけどなんとか出来ちゃうんじゃ無いかねぇ…頑張り次第ってやつだよ」

 ナルは『うんうん』と大きく頷きながら小さく握りこぶしを握る。


「さて、次はアンタだよシイナさん…と言いたいところなんだが」

「……?」

「普通ならコレを使ってる時、周りの人も少しは【視える】んだけどね、アンタからはなにも見えなかった…どうなってんだい?」

本当に不思議そうに、眉をひそめる。

「なにも思い出せないから……とかですかね?」

老婆もお手上げだと大袈裟に肩をすくめる。


「で、ここからはわしの用…みたいなもんなんだけれどね、ナルちゃん」

「は、はい!」

老婆は首にかけていた指輪を外す。

「コレを預かっちゃくれないかい?」

「え……でも、コレって大事な物なんじゃ…?」

老婆はゆっくりと首を振りながらナルの手に指輪を握らせると

「だからこそ、渡したいんだよ」

「そんな、でも私…今日出会ったばっかりですよ!?」

老婆はまたニコリと微笑みがら両の手で優しくナルの手を包むと

「さっきの占いもあるけどもね…この指輪はお守りでもあるんだよ、魔女の遺品って言われるものでね」

「コレは【色花いろばなの指輪】と言ってね、おとぎ話に出てくるくらい昔の、旅した魔女の力が宿っているんだよ」

「魔女の……」

ナルは握られた手の方に顔を向ける。

「アンタらはこれから沢山旅をするんだろ?なら、お守りの一つや二つくらい持ってた方がいいよ!だから持っときなさい」

「…ありがとうございます」

老婆へ感謝を伝えた後、ナルがコチラを見てきた。


「その…着けてくれませんか?ネックレス……ですよね?」

「あぁ、もちろんだ」

 指輪をくぐらせているチェーンを掴むと、見えやすいようナルは両手で髪を持ち上げた。

 ナルの細く白い首に手を回し、金具を止める。

「出来たぞ」

そう伝えるとナルは指輪を胸元で抑え、老婆の方を向く。

「大事にします」

老婆はうんうんと頷くと

「とりあえずアンタら2人が目指すべきはまず都だろうねぇ、情報も人もたくさんさ、わしみたいな老人は情報も古いからねぇ」

 と豪快に笑った。


昔話や、老婆の描いた作品を観て居たら気付いた時には辺りは暗くなっていた。

「色々と、ありがとうございます」

「良いんだよ、またお茶でも飲みにおいでワシは応援してるからね」

「おばあちゃん、ありがと!大事にするからね」

ナルもすっかり懐いてしまったようで抱きあって別れを惜しんでいる

「色々と分かったら、きっとまた来ます」

 次に何をするべきか、少しでも分かっただけでも嬉しいものだ。

支度を整えるためにも、俺たちは【宿屋あとりえ〜る】へと向かった。

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思った通りの展開だ!? 家戸 あず @0-1mitei

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