第7話 環
うろこ雲に、朱の顔料を散らしたような夕焼け空の下。
町を見下ろす公園のベンチには、黒のローブを身につけた老婆と、夕陽にだけ染まる少女が座っている。
今まで探していた物知り婆さんと呼ばれるその人物が、顔料を譲ってくれた老婆だったとは、世間の狭さに驚かされる。
「さて、何か聞きたいことがあるのかい?知ってることはなんだって教えてあげるよ、言ってごらん」
老婆は顔中のシワを更にくしゃっとさせながら優しげに笑う。
その手は、隣に座るナルの手を優しく包んで居た。
ナルも安心した様子で口元が緩んでいる。
_さて、何から聞くべきか...暮らしぶりからこの世界に電気だとかは無いのだろう。
「正直に言って、知らないことの方が多いと思うんだが...俺たちみたいに別の世界から来ただとか、そういう話を知らないか?」
その言葉に老婆は驚いたような顔を見せた後、少し考えてから「あぁ、それなら」と言葉を繋いだ。
「伝記...おとぎ話のようなものだけれど、そんなのがあったねぇ」
老婆は1つ咳払いをして、語り始める。
『その昔、この世界が生まれ、魔法が出来上がる前のお話。
植物も、動物も世界に溢れた魔素によってその在り方を失いつつあった頃、いつしか【魔女】と呼ばれるもの達が現れた。
そのもの達は異なる世界の力を使い、この世界に平和と調和、そして文明を創りあげるに至った』
老婆は時折、目をつぶりながら丁寧に語る。
『ある者は、言葉でもって人々を先導し、魔物に脅かされることの無い堅牢な壁を築き上げ。
またある者は、行動をもって人々の心に未知を拓く勇気を与え…
またある者は、賢人たちの識をもってこの世界の仕組みを明かさんとした』
老婆は首に掛けた指輪を握りながら続ける。
「それと、私の祖先に当たる魔女は『人には笑顔が必要だ』とか言って娯楽を増やしたそうじゃよ」
「おとぎ話では無いってことですか!?」
ナルが驚きを隠せず声をあげるのに対し、
「異世界の力、なんて言われて信じるものはそう居ないじゃろう」
と軽快に笑う。
「たしかにそうだが、【異世界の力】なんて言ってるがその実やってる事は普通なんだな」
_この世界に魔法があるというのなら俺が考えてるよりももっと楽に…
「あっ、なるほど」
「…?どうしました?」
「魔法ができる前、って言ってただろ?つまりその人たちが魔法を創ったんじゃないのか?」
老婆の満足そうに笑う顔を見るに正解だったようだ。
「そう、今まで魔素というのはただ取り込むだけで色々な影響を及ぼす毒のようなものじゃった...それを扱えるようにしたのが魔女と呼ばれるもの達のことじゃ」
「その子孫…ということはおばあさんも魔法が使えるんですか!?」
興味津々だ...ナルの目が輝いて見える。
「魔法自体はもう、そんなに珍しいものじゃないがの、その辺にある該当も電気とかではなく火の魔法の1つ、持ち運びだってできるんじゃよ」
「けれど、ワシの得意な魔法はちと特殊での、せっかくじゃから家に来んか?」
「行きます!!!」
食い気味にナルが答える。
...おじさんは心配になってくるぞ、ナル…。
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