第五首『防人嘆き、浪の散る叙事歌集』

 短波ラヂオを愛する諸国民ども、毎度です。「ニッポンの朝ぼらけ」総合司会でパーソナリティーの猫田です。


 今日はちょっと元気がないです。まあ、やる気はいつもの通りないんですが、どうも活力が漲らない。また評判を落としてしまったようです。あれかな、昨日の放送でSODとか口走ったのが原因かな。


 NHKらしくないとのお叱りはご尤もですが、企業名とかNGっぽかったのか。でも、マジックミラー号とかは言ってないんで、大丈夫だと思います。社会派ぶったりすると、今の若いリスナーに嫌われちゃうのかも。


 取り敢えず、反省しております。ちっ、反省してまーす、みたいな。まあ、昨日の放送ってところから嘘なんですけどね。


 薄々勘付いてるリスナーがいるかも知れませんが、この番組、一週間分、計五本、まとめて収録しています。毎日の生放送なんて、面倒じゃないですか。だいたい空模様に触れない番組は怪しいと考えて正解です。


 生放送風のリアルタイム収録って楽なんですよね。リテイクなしの一発録いっぱつどりですから、時間も短くて済む。意外な番組、例えば深夜のスポーツ番組とか、オンエアの三時間前くらいに収録して、スタッフ一同、速攻で飲みに行ってたりします。飲むのが仕事で、そっちが本番です。


 生放送とは関係ないけれども、これ、バラエティ番組になると、開き直り方が半端なくって、壮絶なまとめ撮りです。番組名は出しませんが、例えば『笑点』とか、二本撮りじゃなくって四本だっけかな。お客さんをシャッフルして、会場の様子を微妙に変えてみたり。合理的とも言えます。


 真偽不明の民放さんの長寿番組はともかく、うちは五本録りで、もっと効率的です。私なんか週休六日と同じです。昔の水兵さんの歌に例えると、日日土土日土土。これだと一週間丸ごと休日みたいですけど、言い得て妙です。


 実際、こうしてマイクに向けて喋ってるのも、仕事とは思えない。何かしてる風ならオッケーです。良く言うじゃないですか、出勤するまでが仕事って。後は適当にやり過ごして、定時に帰るだけです。威張って話すことじゃないですよね。自慢なんですけど。


 しかし、テレビの収録が「撮り」で、ラヂオが「録り」って打ち込む時に煩わしいな。皆さん、この違い知ってましたか? いや、何の為にもならない雑学ですね。


 それじゃ、最初のコーナー、行きましょう。収録はもう夕方近くだけど「けふの短歌」。大異臭です。あ、打ち間違えました。第一首です。


 

「炊き出しの 列に連なり 舌鼓したつづみ

   餌に群れなす 家禽かきんに似たり」 



 今日のお題は少し難しいかも知れません。さあ、この歌、なんでしょうか? なんだかクイズ番組っぽくて味わいがありますね。

 

 炊き出しということは、被災者かな。豪雨被害とか、大地震の後、各地で見掛けたりもします。放送局にとってはそこそこ数字の取れるネタで、ほんとボランティアの皆さん、ご苦労様です。


 美味しいネタとか言ったら、また怒られますね。犠牲者を悼む心を忘れては行けません。と申しつつ、安定して視聴率を稼げるのが、東京の災害です。五年に一度くらいですけど、豪雪で都民悲鳴とか、都心部のライフライン寸断、大パニックとか。あれ、全国的に大人気なんです。


 なんか都民に恨みでもあるんでしょうか。大阪の自然災害はそんな数字に現れないんですけど、東京だけ別格。地方の方に激しく嫌われてるような気がします。これ、放送局側は把握しているけど、あんまり表では言えません。

    

 あ、そんな話じゃなかったな。今回は、お題が難しいんだ。二首目です。



「段ボール 集め束めて 日も暮れて

   紙のしとねは つい住処すみかぞ」



 イントロ・クイズだったら、段ボールの「だ」で分かったでしょう。正解は具体的に言い難いんだけども、あれですね。「あれ」呼ばわりしたら、不味いか。それでもピンと来ない方の為に、次のヒント…じゃやなかった次の短歌。三首目です。



「家なき子 レゲエのリズム 刻む髭

   ロン毛の髪は 風に靡かず」 



 ジャマイカ方面にお住まいの方でしょうか…なんてボケてる場合じゃありません。「家なき子」とか、児童書風に和訳しただけじゃないですか、これ。直訳に近いです。放送的にギリギリの感じがしますが、一応、社会派とか言っておきましょう。


 あれですよ、少し前に流行ったじゃないですか、「格差社会」が云々とか。メディア関係者や大学の先生とかが声高に訴えること自体、矛盾も甚だしいんですが。こっちなんか受信料をカツアゲしている身ですし、若干、心苦しい思いがしないでもない。実際、しないんですけど。


 それで、一番滑稽だったのが、億単位の年俸を貰ってるニュースキャスターですよ。「この格差社会を何とか変えなければいけない」とか説教するんだけど、そのキャスターが着ているのは、ミラノ製高級ブランドのスーツだったり。もうお笑いのレベルです。そのニュース番組、なんたらステーションとしか言えませんが。


 一着あたり五十万円ですよ。それを週に五着で、一カ月あたり一千万円です。格差社会の頂点っぽいです。まあ、私らNHKの職員も他局のキャスターを批判できない身分ですが…あ、また言っちゃった。公共放送です。とある公共放送局です。


 うちは細君もベテラン職員なんで、二人合わせて、結構な年収になります。差し障りがあるので、桁を曖昧にして「三千円」と言っておきましょうか。格差万歳みたいな身分です。


 ユーチューバーが荒稼ぎしているとか話題ですが、実は小馬鹿にしています。動画なんて作るの大変じゃないですか。編集とか全部一人ですよ。それで、ワンちゃん猫ちゃん動画でもアンチが湧いてコメ欄が荒らされる。


 それに比べたら、この番組なんて週五本の一括収録です。好きなこと喋って毒づいて、その後、若い職員が音楽を嵌め込んで編集してくれます。お気楽で、趣味の延長線上というか趣味です。しかも、アンチというか文句ある奴は、政治的に叩き潰します。政党単位でも簡単に潰しましたから、個人なんて虱以下です。


 あれ、今、何のコーナーだっけ。短歌か。興奮して忘れてました。今回はネタ的にちょいとデリケートだったんだ。えーと、四首目かな。



「懐かしき 古里の道 我が山河

   解雇の日より 我いま山谷」


 

 ついに特定のエリア名を出してしまいました。ダメを押ししてどうするんでしょうか…でも、山谷とか、あいりん地区はネタ的に大丈夫かと。ドラマとかにも登場しますものね。横浜の寿町ことぶきちょうもオッケーです。


 これが川崎の日進町あたりになると、急にリアリティが出てくるのでアウトです。本格派なんで、放送に支障を来たします。もう、漢字にルビを振るのも怖いくらい。民放さんも絶対に触れないですしね。そんなタブーは放っといて最後の歌です。



「梅雨寒に 震える膝を 抑えつつ

   痛風なにぞと 飲むカップ酒」



 痛風の話は最近、しましたよね。歩く尿酸値でしたっけ。短歌なので季語は要らないって…あれ、この詠み人、日進町にお住まいの方ですね。あー、なんか地雷踏んじゃった気がします。単なる偶然で、これ、わざと選んだ訳ではないけど、ギリセーフでもないような。致命傷で済めば良いんですが。


 早めに一曲流して、取り繕いまいす。ジョイ・ディヴィジョンで『ラヴ・ウィル・テア・アス・アパート』。お聴きして、今のやり取りは聞き流して下さい。

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