第三首『雅なる都の旋頭歌集』

 短波ラヂオにしがみ付く、何だか不憫な感じの皆さん、ナマスカール。ご機嫌、いかがでしょうか?


 私のほうは何だかヤバい気配です。きょう起きてみたら、フォロワーさんが減っているような感じがして、少し焦っています。公共放送の受信契約者はどうでも良いんですが、大事なフォロワーさんです。


 しかも女性っぽいペンネームの方です。ショックを隠しきれません。震えが止まりません。実は私、痛風持ちで、歩くプリン体とか尿酸値おじさん等と呼ばれて、後輩からも慕われていますが、そんな震えではありません。


 どう考えても美人っぽいペンネームってあるじゃないですか。それです、それ。まあ、文藝の世界はネカマの逆で、男性風のペンネームが実は女流作家というパターンもあるんですが、去られた方は十中八九、女性と思われます。


 やっぱり昨日の放送が一線を越えてしまったのでしょうか。さすがにダメージが大きく、今日はいつものランチ後の昼寝もままならない、といった切羽詰まった状況です。「泡姫」とか言って、こっちが泡吹いて倒れてます。


「短歌詠み 啖呵切たんかきられて 担架乗る」


 思わず川柳を詠んじゃいました。ちょっと好き。泡吹いて病院に担ぎ込まれたって展開です。どうでしょう? あれ、今、北米のほうから笑い声が聞こえたような気がしました。でも失神はしませんね。失禁は日常的ですが。


 恨み節は兎も角、私も反省したりして、心と身体を入れ替え、温もりと優しを伝えようと決心したところです。今日は病いに苦しまれる方を応援しようかと。難病と闘われる方々に、せめてもの愛を届けたい。それでは、一首目、参りましょう。



「龍騎士の 黒きはがねの ロンギヌス

   聖なる闇の 我は使いぞ」  



 詠み人は長い間、ご病気にさいなまれているとのことです。病名は、ええと、厨二病。私は医療方面に詳しくないんですが、国指定の難病でしょうか。成人しても快方に向かわず、反対に悪化されてるとか。特効薬も見つかっていない模様です。


 でも、何かロンギヌスとか、私も隙あらば使ってみたいような。初期症状かな? 若干、気懸かりです。「聖なる」とか日常的に使ってしまいますし。まあ、歌の内容には余り踏み込まないほうが良いかと。ご病気ですし。じゃ、二首目。


 

「焼けちて 焦げたる翼 広げたり    

   刻印されし 神代かみよの絆」



 似たような雰囲気ですね。同じ詠み人かな…違いますね。こちらの方は、あれ、中二病って告白されていますね。中学生なのかな。そんなことはないですよね。男児がこんな放送聴いていたら、うっかり精通してしまいます。


 いえ、冗談ではなく、厚労省か文科省のデータで、NHKの放送をきっかけに精通する事例も多くって、一割近くだとか。いま適当に創りましたが本当の話です。何の弾みで精通するか、分かったものじゃありません。多感な思春期です。


 親御さんも気になるからと言って、去勢したりしてはいけません。あ、いけね。これ一度、去勢って打ち込むと変換で最初に出てきちゃうんですよね。「去勢を張る」はまだしも「去勢墜つ」とか、割と洒落になりません。


 去勢とか精通とか、話が長くなるので、この辺でやめておきましょう。えーと、次、三首目か。

   

 

隻眼せきがんに 映りしつるぎ かわしたる

  紅蓮ぐれんの華よ 奴婢ぬひの涙よ」


 

 似たような言葉遣いですね。別の詠み人なんですが、偶然の一致でしょうか。同じ症状、そういう傾向を示すんでしょうかね、中二病って。難病です。これを「ある意味、難病」とか言うと急にリアリティが伴ってしまいます。次。



「髑髏の眼 たけき勇者の 桂冠けいかんに    

  我がしもべたる 呪われし夢」


 

 最初の「刻印されし」もそうですけど「呪われた」じゃダメなんでしょうか。あれかな、古典を勉強されている方なのかな。頑張って古めかしい表現を使った短歌を病気扱いしたら、絶対、怒られますね。言わなかったことにします。


 しかし、この系統はどんどん作れちゃいますね。いや、内輪の話なんですけども、五分に一首詠める計算です。詠むって言うか、それっぽい単語を組み合わせるだけです。小説は前後の展開もありますが、短歌は独立していて、意味不明で支離滅裂なほうが、雰囲気が出る。


 これ、量産できます。題して「ダーク短歌」。流行るかも知れません。


 おっと、私は何を白状してるんでしょうか。リスナーから送られた葉書をDJ猫田猫ねこたねこが朗読する設定です。また、設定とか言っちゃいましたし、聞き流して下さい。


 でも実際の話、ラヂオは専属のプロっぽい葉書職人が関わっているケースが殆どです。中小の事務所に発注するだけで、放送作家の卵とか見習いのような人がどんどん書いてくれます。


 しかも無料です。ギャランティが発生しない。逆に専属の葉書職人から受信料を徴収してたりしますから、笑いが止まりません。天下の公共放送です。偉いんです。


 ラヂオのパーソナリティ側も概ね知ってますが、仕込みの作家見習いも本物の官製葉書にネタを書くから、見分けが付きません。ペラ紙だとマイクが紙の擦れる音を拾っちゃうんですね。その点、葉書は扱い易い。


 半分プロの職人もラヂオの放送を聴いているので、リスナーという表現に嘘はありません。これ、テレビのニュースの「視聴者提供映像」と同じです。その番組を見ていなくても、テレビの視聴者という意味です。


 ちょっとトークが脱線してしまいました。ここで脱線を福知山線並みとか言ったら万死に値するので、さくっと最後の歌、行きましょう。



あだなる死 輪廻のはての うつわの血

   深淵しんえんよりも くらき底にて」



 こちらは同じ難病の女性で、って何だか解説する私が飽きてきました。だいたい今日の放送は出オチ感が強いですよね。最初の「龍騎士」五文字で、八割ぐらいがピンと来たんじゃないでしょうか。次はもう少し捻ります。いえ、選びます。


 それにつけても美人っぽい元フォロワーさん…いい加減、くどいかな。んじゃ、爽やかな厨二向けポップソングを一曲流して辛気臭いムード変えましょう。『創聖のアクエリオン』…は、いま直前に厨二とか口滑らせたんで、辞めておきましょう。とらドラ主題歌で『プレパレード』。私、櫛枝ちゃんのファンです。

 

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