第二首『麗しの記の相聞歌集』

 お早うございます。世界各地、僻地にお住まいの日本の皆さん、そして短波ラヂオに耳を傾ける奇特な日本語学生の諸君、グッドモーニング。使い回しで垂れ流しのリピート放送をお聴きの皆さんは、グッドイブニング!


 寝起きのひと時を素敵に演出する「ニッポンの朝ぼらけ」ディスク・ジョッキーの猫田猫ねこたねこです。


 昨日の放送で何か問題ありましたか? 特に問題ないですよね。短歌は詠み人の複雑な思いが込められ、多様な解釈が可能です。正解があるようで、ない世界。それが文藝です。


 交通違反の罰則がチャラになる話? ああ、あれは少し言葉が足りなくて誤解を招いたかも知れません。警視庁サイドにもメリットがあるんです。


 民放さんで「警視庁二十四時」とか、そんな似たようなタイトルの特番があるじゃないですか。期首ではない時期の地味なプライム帯の特番。あれ、仕込みなんですよ。ヤラセと言ったら私が別件逮捕されてしまいますが、割と濃厚な仕込みで、完全なノンフィクションとも言えません。


 クルーを呼んでから摘発に一緒に行くのは勿論、暴走族狩りとか、複数のENGカメラを特定の交差点に据えて、その現場に追い込んだりします。機動隊が大活躍。そんな格好良い姿をテレビ局に撮影させるんです。お巡りさん、こんな頑張ってます的な。これが警視庁サイドのメリットですね。


 NHK、あ、言っちゃった。我が公共放送も例に漏れません。海外の警察で似たような番組を作ろうとしたら、現地の警察幹部が張り切っちゃって、グレーゾーンの交通違反を逮捕しまくり。中には警察車両が無理に幅寄せした挙げ句に現行犯逮捕とか、犯罪行為をでっち上げたり。


 さすがに局の担当者が慌てて、海外撮影なのに番組はお蔵入りになったそうです。どこの国とは言えませんが、カンボジアです。


 あれ、前振りが若干、長くなってしまったかな。早速、短歌、行ってみましょう。本日は働く女性をテーマにお届けしたいなんて思っております。女性、がんばれ! では、一首目。



「指名待ち モニター越しに 見る客の

   髪の毛薄し 枯れ野の如く」 



 指名って何かな? ああ、分かった。美容室ですね。私も指名しちゃいます。指名料って少し高いんですけど、散髪料金も割高なんで、大したことありません。


 私が通う美容室は、宮益坂の小綺麗な美容室です。うちの局とは渋谷駅を挟んで逆方向なんですけど、散髪は青山界隈か代官山方面に限ります。腕が良いと言うより雰囲気がお洒落。同じ角刈りにしても微妙に違うんです。


 料金はそれ相応に高いんですが、天下の公共放送です。ベテランになると給与はキャリア官僚を軽く越えてますし、他に使うところも少ないんで、平気です。皆様の受信料が、巡り巡って宮益坂の美容師さんに届くんです。ロマンがあります。それでは、二首目。



「不夜城の 姫と呼ばれて 幾星霜

   新入り女子は ぬしと蔑む」

 


 この方、どこかのお城の姫君ってことかな。そんなことないですよね。一夜城は秀吉の伝説か何かで知ってますが、不夜城ってどこの地方にあるんでしょうか。大層なご身分というか、高貴な方なんでしょか。憧れます。


 源氏? 源氏名がどうたらってお葉書に綴られているので、京都かカマクラにお住まいの方でしょうか。カマクラは源氏名じゃなくて、キャストの皆さんは愛称ですよね。奢れる姫も久しからず、ってそんな歌心が偲ばれます。それは平家か。まあ、どっちも関係ないんですけど、次、どんどん行きましょう。三首目。



「泡姫の 指ふやけたる 長丁場

   内線鳴りて 凝っと手を見る」



 こちらもお姫さんです。なんだか、旧幕時代というか中世の雰囲気も出て参りました。風流で、雅やかです。いや、この詠み人は自分のことを女子大生って書かれていますね。


 あなたはJD、私はDJ。なんて言ってみたり。今、南米のほうから乾いた笑い声が聞こえたような気がすます。ちょっと受けたかも。


 あなたJD、私はED。ってのもありますよ。残念な男心です。あ、EDって言っても、エンディングって意味です。早とちりしないように。まあ、ご想像の意味でも男としてはエンディングを迎えてますけども。あれ、上手いこと言ったかな。今度は、中東のほうから笑い声が聞こえてきました。はい、幻聴です。


 でも、ちょっとJD、気になりますね。メアドもあるから、NHKのアドレスから感謝のメールを送ってみようかな。私個人のメアドも添えて。


 最近、札幌支局の男性アナから聞いた話なんですが、こういう個人的なメールに呪文を挟み込むと、良いこともあるんだそうです。何だっけかな。「ホ別二べつに」か。呪文の意味も珍紛漢紛ですが、北海道の地名でしょうかね。


 難しいのは呪文を「ホ別七べつなな」や「ホ別十べつじゅう」に変えると、具体的な話になってしまうようです。何が具体的なんでしょうか? 取引的に? さっぱり、分かりませんけど、私は十の部分を三十に変えて送っておきます。んじゃ、最後。


  

「招かれて 訪れたるは 木賃宿

   チェンジと言われ 立ち尽くす夜」



 ふむふむ。どこかの旅館でしょうか。そこはかとない旅情を感じます。歌の意味は解りかねますが、裏寂しい雰囲気が漂います。唐突な英語も悪くありません。チェンジって何のことかな?


 分かりました。あれです。昔のアメリカの大統領、オバマさんでしたっけ、スローガンが「チェンジ」だったような。詠まれた女性は、外国の政治に詳しい方なのかな。この国際ラヂオ放送に相応しい歌とも言えますね。イエス・ウィー・キャン。


 それじゃ、DJっぽく一曲行きましょう。実際、DJなんですけど。モリッシーで『ウィ・ヘイト・イット・ホエン・アワ・フレンズ・ビカム・サクセスフル』。


 長いタイトルですが、実に納得してしまう。訳すと「友達が成功したって聞くと、ほんと嫌な気分になるね」でしょうか。その気持ち、分かります。それでは、お聴き下さい!

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