Chimera
キメラの寿命は短く、遺体は土に還らない。彼らは自然の摂理に反しているからだ。
「スズ、おでかけ?」
「七層でキメラが死んだらしい」
二十層の居住区から成る地下都市に、人間は二千余りいるが、キメラの葬儀屋は俺だけだ。今や俺以外の誰も、彼らを同等の生き物として見ていない。名前も与えず、奴隷のように扱っている。
「おれもてつだう」
爬虫類の胴と、羽毛に覆われた腕が、俺の腰にしがみついた。ユートは死んだ恋人が連れて来た、蜥蜴と鷹のキメラだ。
「ありがとう。じゃあ、棺を持って来てくれ。百六十の桐だ」
「わかった」
小さな体だが俺よりずっと力があるので、ユートは奥の部屋から軽々と自分より大きな棺を持ち上げて戻ってきた。岩や土をくりぬいて作られた家がびっしりと並ぶ通りを抜けて、先人が作り上げた階段を登る。三層上がったところで通りに人だかりができていた。弛緩した獣の足が見える。
「待ってたぞ、早く片付けてくれ」
まるで、散乱したゴミの始末を頼むような言葉だ。俺がキメラの遺体を抱き上げると、さっと野次馬の輪が散った。外傷はない。最近眠る時間が長くなっていたと聞いているので、おそらく寿命だろう。冷えた体は子供のように小さい。全長百四十五センチほどの、猫と狐のキメラだ。
「ユート、棺を開けて」
翼じみた手が桐の蓋を持ち上げるのを待って、白い布の上に遺体を横たえる。男から代金を受け取って、ユートと一緒に棺を運んだ。一歩一歩階段を登り、二十層のさらに上、地上へと続く細い通路を抜けて、木の扉を開ける。生暖かい風が流れ込み、慣れない光に目が眩んだ。
「どこにおくの」
「もっと向こう、あの子の隣に並べよう」
地上に視界を遮るものは何もない。地平線の彼方まで、ただひたすらに土と岩でできた地面が広がっている。そして、焼けた地面に均一に並べられた何百もの棺の中で、キメラたちが安らかに眠る。
地上に出てくるたびに、棺が密やかに減っていることに気づいていた。遺体が増えるほうが早いが、それでも確かに、列の端から順に消え失せている。神が召し上げているのか、地上を焼いたという化物が食い尽くしているのか、俺にはわからない。けれど、彼らを弔う術はこれしかないのだ。
「そと、あつい」
「そうだな、早く帰ろう」
あなたのイメージでSSを書く 古海うろこ @urumiuroko
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