Mの告白

 パレードの最中、王女様は私にキスをした。手を引かれ連れ込まれた白薔薇の庭園で触れた唇の、ふわりと解けるような柔らかさが私の頭をいっぱいにして、身動きが取れずにいた。

「私、貴方が好きよ」

 あどけなく笑って、秘密を打ち明けるような繊細さで放たれた言葉に、今度こそ打ちのめされる。だって私は、彼女の妹だ。



 双子は忌むべき存在である。国中の誰もがそう信じる中、私とミュレットは命芽吹く春、共に生を受けた。父と母は、どうしても私を殺して捨てることができず、掟を破り男の使用人として育て、そばに置いた。二人は間違っていた。生まれた瞬間、私は死ぬべきだったのだ。そうすればこんなにもひどいことにはならず、国民はただ王女の死を悼み、私は天国で姉に会えるはずだった。それでよかったのに。

「王女様の魂を食った!」

「あいつのせいだ!」

「悪魔を殺せ!」

 ミュレットは私にキスをした日の夜、眠るように死んだ。お医者様にも原因はわからなかった。緑豊かなマーランドは平和な国で、跡取りは兄のクレイニーと随分前に決まっていた。外交上の問題もほとんどなく、争いとは無縁だ。パレードが行われた十七月四日は彼女の、そして私の誕生日で、皆が十五歳になったミュレットの成長を喜び、祝福した。花吹雪が舞い、音楽が響く。城下町はお祭り騒ぎで、父母の目が離れた隙に、好奇心旺盛な彼女は私の手を取った。さっき綺麗な庭園を見たの、と声を弾ませる姿に、私も気が緩んだ。人で溢れた街中だ、誰が私たちのことを見ていたっておかしくはない。ミュレットの死を引き金に、噂は伝播する。



 今、人々の声を頭上に聞きながら、私は地下水道を通り、逃げる。王女様は気付いていなかったけれど、私たちは目の形がそっくりなのだ。笑った時の頬の上がり方や、足の大きさだって同じだ。捕まって、双子と露見するくらいなら、私は悪魔になって姿を消そう。

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