family table
秋、わたしはトキコの子供になった。トキコは二十八歳なので、わたしよりちょうど二十年早く産まれたことになる。施設で何度か会って、優しい人だとすぐにわかった。黒い髪を首の後ろで一つにしばっているのは、トキコの顔によく似合っていて格好いい。「ここがハナの部屋」トキコはそう言って、ベージュのドアを開ける。
トキコの家はマンションの五階で、台所とリビングが一つになった部屋、お風呂とトイレ、トキコの部屋、そして、開いたドアの向こうにはからっぽの部屋がある。
「なんにもないよ」
「そう、これからハナが選ぶの。ベッドとか、机とか……とりあえず今日頼んで、届くまでは私と一緒に寝よう」
荷物を置いたらリビングにおいで、と言われたので、唯一持っていた肩掛けかばんを床に置く。中にはほんの少しの洋服と宝物が入っている。これからの生活で洋服も宝物もどんどん増えていく。そう笑いかけられたのは今日の朝、トキコが運転する車に乗っている時だった。
「小さい頃、ヘッドボードがあるベッドが欲しかったんだよね。本とかお菓子とかそこに並べて、夜更かししてみたくてさ」
足の短いテーブルに、何冊か本が広がっていて、家具の写真が載っている。トキコはカーペットの上に座ってページをめくっていた。わたしは隣に座る。
「ベッドが届いたら一緒に寝ちゃだめ?」
「そんなことないよ」
わたしが迷いながら寝心地の良さそうなベッドと木製の勉強机、タンスを選んで指差すと、トキコはさっさと注文を済ませた。黄緑色のカーテンも買ってくれた。今週中には、わたしの部屋が出来上がる。それだけじゃない。これからは、トキコがわたしのママで、わたしがトキコの子供だ。トキコの本当の子供も、わたしのママも、三年前に死んでしまった。わたしとトキコが家族になったみたいに、二人も天国で、家族になっているかもしれないと言うと、トキコは笑った。
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