知希の書き写しノート②

 ・三笠さんに聞いてみることにした

 講堂横の用務員室の中は、結構きれいだった。三笠さんは通いらしいけど、用務員室には三笠さんの私物もいくつかあった。特に入学式の時に撮ったという写真が目に付く。

 聞いてみたら、甥っ子とのことだった。お兄さんの子供らしくて、三笠さんから一文字貰った名前らしい。どんな風になったかなと言っていたので、最近は交流がないのかもしれない。賢い子で特奨生だったんだと、三笠さんはちょっと誇らしげだった。

 七不思議について聞いてみたら、三笠さんは二十年前に月波見学園に雇われたということで、よく知らないということだった。気になったので前職を聞いたら、普通の会社員だったそうだ。普通の会社員が男子校の用務員になろうって、何があったんだろうな。

 井場先生なら卒業生だから知っているかも、ということなので井場先生にはやっぱり聞いてみた方が良さそうだ。あと、事務員の芳治さんもやっぱり卒業生だった。

 卒業生なのはその二人くらいらしい。あんまり戻って来ないものなんだな。楽しそうだし、俺なら月波見の先生にはなってみたいけど。

 三笠さんは見回りの時間ということで、一緒に用務員室を出た。三笠さんは旧校舎の周りを見回っていることが多いらしい。危険なところが多いからだっていう話だけど、古いからかな。


 体育教官室を見に行ったら、井場先生はいなかった。教室棟とか特別棟とか見回りに行ったらしい。相変わらず熱心に学園の見回りをしているみたいだ。

 井場先生の机の上には、図書室の本が置いてあった。図書室にもよく行くらしい。意外だ。


 ・芳治さんに聞いてみることにした

 事務室に行ったら、事務室長さんと芳治さんがいた。学園にいた時の話を聞きたいと言ったら、芳治さんは渋い顔をしていたけれど、事務局長さんが良いじゃないか後輩に話してやれよと言ってくれた。でもちょっと悪いことをした気がする。

 学校生活って楽しいばっかりじゃないし、実はあんまりしゃべりたくないのかも。それならそれで何で月波見で事務員をやってるのか疑問だけど。

 七不思議のことを聞いてみたら、芳治さんが知ってたのは二十年前の部誌のものだった。芳治さんが知っているむっつめは開かずの扉の方で、図書室の人皮の本は知らないらしい。ただ二十年前の部誌にあった『七不思議事件録』については知らなくて、やっぱりあの話の七不思議だけが残ったんだと思う。

 芳治さんが学園を卒業したのは八年前ということで、俺たちより十歳年上なだけだった。若い。大学卒業してすぐ月波見の事務員になったんだとか。だからまだ事務員歴は四年くらいなんだってさ。

 でも卒業生だから、寮監さんとかと同じように寮に部屋があるらしい。つまり住み込み。知らなかった。

 当時も井場先生は遅刻した生徒を走らせていたと聞いて、つい笑ってしまった。井場先生、全然変わってないんだな。

 当時は旧校舎は自由に立ち入りができたらしい。でも芳治さんが戻ってきたら鍵が必要になってたから驚いたと言っていた。

 芳治さんは鍵の管理もしているんだって。鍵が紛失したらすぐに芳治さんは分かるらしいけれど、御鈴廊下の鍵だけは芳治さんも場所を知らないと言っていた。というか、事務室にはかける場所があるのに、そこに戻ってきたことはないし貸出記録もないんだって。変なの。

 今でも誰かが持ってるのかなあ、御鈴廊下の鍵。

 芳治さんにもやっぱり井場先生に聞いてみることをすすめられた。古くからいるし、知ってそうだからって。


 体育教官室に行ったけど、井場先生はまだ戻っていなかった。

 体育教官室は体育館の隣にくっついている形だけど、体育館が講堂だった頃はほとんど使われていない倉庫だったらしい。でも外と講堂とを繋いでいるから便利な倉庫だったらしいよと教えてもらった。

 つまり倉庫の鍵があったら、講堂に侵入できたってことか。

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