間
知希の書き写しノート①
・俺の知っている話
ひとつめ、雨降りに泣く十三階段
ふたつめ、旧校舎音楽室の人喰いピアノ
みっつめ、体育館のステージで踊り続ける少女の亡霊
・サネのお兄さんはささきしゅうや
卒業してない、辞めてもいない。帰って来なかった。
・サネから聞いた七不思議の話
ひとつめ【雨降りに泣く十三階段】
その階段は、泣き濡れる。
ぴちゃりぴちゃりと音を立てて、すすり泣く。
きゅうきゅうと音を立てて泣き喚く。
雨の降る日にその階段に近寄ってはならない。
一歩でも足を踏み入れれば最後、奈落の底まで落ちて行く。
ふたつめ【旧校舎音楽室の人喰いピアノ】
これは、聞いた話なんだけどさ。
練習室から放課後になると聞こえてくるピアノの音があるだろ?
昔ピアニストになりたくてピアノに向き合い続けた生徒がいて。
その生徒、そのピアノのところで死んじゃったんだって。
今でもそのピアノには亡霊がいて、触れたら最後離れられなくなるんだってさ。
狂ったように弾き続けて、ピアノに魂を喰われるんだ。
みっつめ【体育館のステージで踊り続ける少女の亡霊】
にやにやと、けたけたと、猿は笑った。
体育館のステージで少女が踊る。
身をくねらせて、身をよじらせて。
涙を流していやいやと首を横に振って、それでも踊る。
見ろや見ろやと猿は囃し立てた。
泣きながらでもずっと踊り続けるんだ、あの女。
よっつめ【裏庭にある首括りの木】
知ってるか? 首括りの木の噂。
風もないのに木の枝から、何かがぶらりゆらりと揺れているんだ。
きしきしと木の枝は軋んで、太くない枝は折れそうにたわんでいる。
どうせ、折れたりしないんだけどさ。
だって最後には首括りの木にぶら下がってたものは、忽然と消えてしまうんだ。
いつつめ【まだらに染まる血吸いの池】
ずっと水面を見ていると、池がおかしな風に見えてくるんだ。
池の水の色が、どうしてか二色に染まって見えてくる。
気のせいなのかもしれないって言うけれど、多分それって気のせいじゃないんだ。
あの池は血を吸っている。
誰かがぼちゃんとそこに落ちて、真っ白になって浮かんだんだって。
むっつめ【図書室に眠る人皮の本】
図書室の奥の棚からごとんと落ちる。
それは人皮の本で、表紙の中心にはぎょろりとした目がある。
落ちた時にそこにいた人間をじっと見る。
ななつめは不明。知ったら死ぬらしい。
なんか、むっつめだけ下手な作文みたいだ。ひとつめからいつつめまでは物語みたいになってるのに。
・図書館の奥で見付けた三十五年前の卒業アルバム
井場先生の高校生の頃の写真があった。井場先生のクラスの集合写真には一人だけ欠席者がいた。個人写真のところにはあって、欠席者の名前は『
・三十五年前の学園新聞の七不思議
今はある物語みたいなのがくっついてなかった。でもひとつめとふたつめは今と同じ。みっつめからななつめが違っていて、ななつめもあった。
みっつめがトイレの太郎君。多分これって花子さんの男の子バージョンってことなんだと思う。
よっつめが首吊りエレベーター。今の首括りの木と字面だけならちょっと似ている。
いつつめがけたけた笑う理科室の骨格標本。今って理科室に骨格標本あったかな。行ってみれば分かるか。
むっつめが夜中に動く創立者の胸像。胸像が動くってどういうことなんだろう。
ななつめが開かずの間。月波見の開かずの間と言えば御鈴廊下だけど、この時に御鈴廊下はない。
今の形になったのがいつなのか調べてみた。でも三十五年前の学園新聞からこっち、新聞部は結構前に潰れてしまっているから手掛かりになりそうなものがない。
・二十年前の文芸部の部誌
なんかそれっぽいのがあった。
まったく違うのはむっつめだけだった。だからむっつめだけ書き写しておく。
むっつめ【開いてはいけない開かずの扉】
昔から、開けてはならないものってあるんだよ。
それを開けると悪いものが飛び出してくるとか、悪いことが起きるとか。
その扉を開くと、何か悪いことがあるんだって。
悪いことが何かって言われても、悪いことは悪いことなんだ。
おそろしくてことばにはできないよ。
この『七不思議事件録』は、ななつめを知ったら死ぬってことになってる。結局次々と生徒や先生を殺して回った犯人の<七不思議の番人>は老いた用務員で、校舎に眠っている秘密を知った人を殺してたらしい。確かに殺されてしまったら、誰にも言えないもんな。
この作品の七不思議が今の七不思議の噂だから、当時この部誌って相当数の生徒が読んだんじゃないだろうか。今でもその内容が噂としては残っているわけだし。
三笠さんなら色々知ってそう。
井場先生にも聞いてみたい。
そういえば事務員さんもここの卒業生じゃなかったかな。
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