混血の魔法剣士

雨田城楓

第1話

『昔々あるところに、魔女と人間の夫婦がいました。その2人はとても仲睦まじく、誰が見ても幸せそうでした。ところが夫婦の生活は幸せとはかけ離れたものでした。混血が嫌われる世の中で、世界で初めて混血の子供を産んだからです。子供ができるまでは普通に接していた魔女族、人間族の双方から追放を受けました。別に異種族との交流がないわけではありません。どの種族の領地に行っても普通に別種族がいます。夫婦やカップルももちろんいます。ただ混血の子供を作ったというのが問題だったのです。純血絶対主義の歴史はこの世界が生まれた時からとされている。そのずっと続いてきた暗黙のルールを破ったのです。人間族と魔女族はもちろん、ほぼ全ての種族から糾弾されました。子供を殺せば全てなかったことにするという提案もありました。しかし2人は提案を撥ね退けたのです。2人は子供を連れて逃げました。その後の行方を知る者はいないといいます』


 この短い物語を書き残したやつに、その後の物語を教えたらどうなるのだろうか。そう考えながら図書館を後にする。そのまま表通りに出て屋台で串焼き肉を買って食べながら歩く。


従来、混血は忌み嫌われている。種族としての能力値が下がる、容姿や生活習慣の変化などが理由に挙げられるが、どれも根拠はない。実際世界にはこの物語にほんの少し登場した子供しか混血の事例が存在しない。それもこの物語はあくまで混血の子供を作った愚かな存在がいるという事柄を残したもので、当時の子供は生まれたばっかで、特徴は何もない。そもそも魔女と人間の見た目に違いはないのだ。そのため混血が嫌われる理由は全て純血主義の世論や偏見から生まれている。


(混血・・・か)


「おっ!クロじゃねえか!元気してるか?」

「ん?あぁラウルか、ぼちぼちだよ」


 ふいに声を掛けられ振り向くと友人のラウルがいた。Dランク冒険者でギルドのパーティー募集がきっかけで仲良くなった。冒険者としては普通の一言に尽きるが、それなりに顔立ちが整っていて、人懐っこさがあるゆえに女性ウケはいい。


「てかお前美味そうなもん食ってんな串焼き肉か?」

「そうだよ。食いたきゃ1本やるよ」

「まじ!?ありがとなー!・・・うわなにこれうま!?」


 その場で渡すと食い始める、そしてオーバーリアクションっぽいが幸せそうな顔をする。そんな顔を見せてくれるならこちらも食わせた甲斐があるというものだ。


「あ~美味かった、ありがとな。そういえばクロ。お前明日時間あるか?」

「なんだデートの誘いか?いいぞ」

「ちげーよ!?まあいいや。明日は元々ダンジョンに潜る予定だったんだけどさ、パーティー募集に来てくれた人が急用で来れなくなっちまって・・・1人足りなくなったから困ってたんだ。来れるか?」

「なるほどな、要約するとパーティー募集して明日ダンジョンに潜る予定を立てていたけど、1人来れなくなったから俺に来てほしいってことだな。いいぜ」

「お前それ全然要約されてないぞ・・・とりあえず助かるよ。明日は昼の1時頃にギルド前の広場の噴水前に来てくれ。詳細はそこで話そう」

「わかった。じゃあまた明日な」

「おう!また明日!」


 ラウルとの会話が終わると再び表通りを歩く。辺りを見渡せば『人間』『魔女』『エルフ』『ドワーフ』『獣人』の姿が確認できる。この種族は『五大種族』と呼ばれ、それぞれが自分たちの領地を世界各地に持ち、暮らしている。そこに争いはなく、自分たちの文明、文化を守り暮らしながらも、他種族の文化を取り入れる共存体制がとられている。ちなみに『五大種族』は太古の時代に族長会議で定められたもので、対話や生命倫理など最低限の知性を備えている種族を指す。平和協定、共存協定が結ばれている。


逆に言うとダンジョンに潜むモンスターと地上にいる『五大種族』以外の生命体は保護に当てはまらず、狩られるか利用される形となる。一部例外は存在するが。


(五大種族以外に優しくねぇなあこの世界は・・・)


 そう思いながら歩いているとホームに着く。賑やかなギルド周辺や表通りとは対照的な居住エリアの路地裏。そこが俺のホームの入口だ。人が通ることもなければ見られることすらない。俺自身この物件を見つけたのも偶然で、商人との取引があったこの路地裏に来たのがきっかけだ。今でもその商人とは仲良くしていて、たまにこのホームを訪ねてくる。


(そういえばあいつ最近見ないな・・・)


 例の商人に最後に会ったのは半年前だ。それまでは2か月に一度は会っていた故か、少々気になる部分はある。最近この都市では物騒なことが多くある。冒険者や商人の暗殺、モンスターの売買、違法ポーションの調合に流通。挙げたらキリが無いほどだ。とはいえ連絡を取る手段があるわけでもないため次会えることを願うしかない。


(とりあえず寝るか)


 ベッドの上に寝転がり目を瞑る。すると睡魔がすぐに襲ってきて、眠りに落ちた。


      ●


 約束の時間に来ると、そこにはラウルと他2人の姿が見えた。


「悪い、待たせたか?」

「いや、俺たちも今来たところだ。それじゃあ詳細について説明・・・の前に紹介が先か。こっちの青髪はウェスタ、銀髪はミーシャだ。二人ともDランクでウェスタは長剣使いの前衛、ミーシャは弓使いの後衛だ。それで、こいつがクロウ、オールラウンダーで長剣に短剣、弓を持っていて魔法も使える。俺はクロって呼んでるからミーシャとウェスタもそう呼んでやってくれ!」

「ミーシャです、本日はよろしくお願いします。クロさん」

「ウェスタだ、よろしく頼む」


 ミーシャは大人しく丁寧、ウェスタは・・・ラウルと似たようなもんかな?


「クロウです。本日はよろしくお願いしますね」

「クロ、敬語はよそう。俺ら年齢もさほど変わらないだろ。なあミーシャ」

「そうですね。と言っても私は敬語のほうが慣れてるのでこのままですが・・」

「そうか、じゃあよろしくな。ウェスタ、ミーシャ」


 一通り挨拶が終わると、ラウルが手を叩き視線を集める。


「それじゃ挨拶はそこまでにして本題な。クロは特にちゃんと聞いてな。今日は予定していた通りダンジョンに潜る。クエストはゴブリンの角30個の、ソウネダケ10個の納品だ。このパーティー自体臨時だしこれくらいで妥当だと思う。あとクロがランク測定受けてないから冒険者ランクが分からないってのがあるな。一応登録はしてるから問題はない。そんな感じだ。何か質問があるやつはいるか?」


(ラウル・・・余計なこと言いやがったな)


俺としては特に気になることはない。クエストの難易度は妥当。メンバー的にもバランスは悪くないし安全マージンを十分に取っていれば問題ないだろう。だがおそらく2人は・・・


「ランクが・・・ない?でも冒険者登録の時にランク測定がありますよね?」


(やっぱ気になるよなぁ・・・)


「あぁ、あるな。体力に魔力にスタミナ、筋力に防御力に速力、知力に精神力に運を細かく数値化してステータスプレートに記載してくれる。そのうえで総合的な評価をランクという形で表す優れた測定器を使ってな」

「だったらなんで・・・」


 ウェスタとミーシャが不審なものを見るようにこちらを見る。


 (ランクを公表できないというのは実力の指標がない。もしかしたら低ランクの冒険者を狩る『レッド』かもしれないという疑いがかけられる)


 冒険者の中にはランクを偽ってランクの低い冒険者のパーティに入る輩がいる。冒険者を狩って装備やアイテムを奪う。ギルドにはダンジョンで死んだといえばそれ以上の詮索はされない。そういうことをする奴を世間では『レッド』と呼んでいる。


(あと純粋に実力が分からないとそのクエストが適正なのかすらも分からないしな)


「まあ二人とも落ち着いてくれ。ウェスタにミーシャ。まずはこれを見てくれ」


言い合いを制止し、俺はステータスプレートを見せる。


「・・・ほんとにランク欄が空白ですね。というよりスキル多くないですか?こんなにたくさんスキル持ってる人初めて見ました・・・」

「まあ俺は天才だからな」

「・・・」

「せめて笑ってくれよ!?」

「ぷっ・・・あはは!面白いですねクロさん。少し安心しました」

「ははっ・・まあこのステータスなら問題ないだろうな・・・」


 ミーシャが笑い出すと、少し張りつめていた場の空気が和む。だがウェスタは苦笑気味でまだ硬さが見られる。ただ俺のステータスを見たことで実力的な心配はなくなったようだ。


「とりあえず大丈夫そうかな?まあランクはわからないがこのラウル様の予想ではクロはSランクを超えると踏んでいる!しかもレッドの可能性はゼロ!こいつ金には困ってないからな!安心して背中を任せられる!」

「元はといえばお前がランクがないとか言うからだぞ」

「でも最初にランクを伝えとくのは冒険者の暗黙のルールじゃねえか」

「俺はステータスプレートを見せないと信じてもらえないから結果俺の能力晒すことになるんだが・・・教えるのはランクだけでスキルの詮索はタブーじゃないのか?」

「めんどくせえお前だから大丈夫だろ!おらダンジョンに行くぞ!」

「あっ!ラウル待て!この女たらし!」


 俺が先に走り始めたラウルを追いかけると、微笑ましいものを見る目でミーシャが俺たちを見ながら付いてくるのが見える。それに仕方ないといった感じでウェスタが付き添っている。そんな光景を見ながら、パーティーっていいなと思う俺がいたのだった・・・


      ●


「正面にゴブリンが3体、エコーバットが2体いるな。来る途中に話した通りバットはミーシャと俺で射抜く。取りこぼしがいればウェスタとラウルでやってくれ。いいな?」


 全員が頷いたのを確認し矢を番える。横でミーシャも矢を番えたのを確認する。


「それじゃあ行くぞ・・・せーの!」


 同時に矢を放つとバットに吸い込まれるようにして命中する。異変に気付いたゴブリンがこちらに気付き向かってくる。


「スイッチ!!」

「おうよ!」


 ゴブリンが中距離圏内まで近づいてきたのを確認し、俺とミーシャは後ろに下がる。それと交代でウェスタとラウルが前衛に出てくる。すると交戦が始まる。が・・・


「流石にゴブリン相手だと緊張感もないし安全マージンも取りすぎてる感じするなあ・・・」

「まあそんなものじゃないですか?私は安心感があってこういう指揮を執ってくれるパーティー好きですよ」

「そうか?ならいいか。というかパーティーリーダーあいつなんだけどなあ、ラウルは良くも悪くも純粋だし考えないから向かないんだよな。人集め用の看板みたいなもんだな」

「ふふっ、酷い言いぐさですね。でもなんとなくわかります。っと終わったみたいですね」

「おいクロー!お前なにミーシャちゃんと楽しそうにしてるんだー?」

「おいクロ、ミーシャになにかしてないだろうな?」

「してねーよ!?・・・ん?」

「どうしたクr」

「静かに!何か来る・・・」


 テキトウに話していると何かドタドタと聞こえてくる。近くはないが遠くはない・・・なんだ?


「ッ!?お前らそこの横道に入れ!トレインマンだ!」

「「「ッ!?」」」


 トレインマン、それはモンスターを大量に引き連れて他の冒険者に押し付ける奴のことだ。モンスターを引き寄せる匂い玉を持って走る、あとはひたすら走ってモンスターを集めるだけ。これをやることによるメリットは恐らくない。強いて挙げるなら、仮に押し付けたパーティーがモンスターを全滅させた場合死骸が確実に余る。それを拾い集めれば売れるアイテムも出てくるというところだろうか。だが押し付けられた方はたまったもんじゃない。


「モンスタートレイン・・・ゴブリンとエコーバット、それにコボルトか。個々は強くないが数が多い」

「でも通り過ぎていきましたよ?」

「そしたら単純にモンスターに追われすぎたから出口に向かっていったんかな?ダンジョン出れば追ってこないし」

「それでもダンジョン内にいる冒険者からしたらたまったもんじゃない。そもそも普通にやっててあの数のモンスターが集まることはないから確信犯だろう。まだこっちに来る可能性があるから注意して進むぞ」

「でもなんでこの横道に入ったんですか?出口に向かうほうが安全じゃないですか?」

「今のを見た通りトレインマンは出口の方向に進んでいった。ただコボルトはDランクのモンスターでも上位のほうだ。それから逃げられているということはあいつの速力はCランクに近い。俺らが逃げようとすれば追いつかれるだろう。だからこその横道だ。この道は遠回りだが本道に繋がっているからな」

「そうなんですか?クロさん物知りです」

「まあこいつは暇さえあれば図書館かギルドの資料室で情報集めしてるからな」

「ラウルは少しでいいから知識を身に着けろ・・・とりあえず行くぞ」


 一休みし、本道に続く道を進む。クエスト分のアイテムが全然足りていない。トレインマンがいたことを考えるとソウネダケを集めて、帰りに少しずつゴブリンを狩るほうが効率的だろう。


「先にソウネダケを集めるために奥に行く、帰りにゴブリンを少しずつ狩る。それでいいか?」

「おっけー」

「了解しました」

「問題ない」


(確認も取れたし行くか・・・というかウェスタ全然喋らないな)


 少し気になるがまあ意外と無口なのかもしれない。そう思いながら奥へ向かうのだった。


      ●


 奥に進んでいくと緑の生い茂るエリアが見えてくる。ここはセーフティゾーンでモンスターが湧くことはない。ここがソウネダケの採取ポイントだ。


「着いたな、そしたら各自探してくれ。基本的にソウネダケは水分の多い植物の根に癒着してる。なんなら苔周辺の草を引っこ抜いたら秒で見つかる・・・ほらな」


 そう言ってソウネダケを見せるとミーシャが嬉々とした表情になり、苔のある所にトコトコと走っていく。


「クロさんほんとに物知りです!私今まで片っ端から草抜いてたのでこんなに早く見つけられるとは思ってませんでした!」


 ミーシャが俺の教えた通りの採り方を真似するとソウネダケが見つかったらしく、歓喜している。


「それはよかった・・・とりあえずこれで10個集まったかな」

「というかクロ、俺らも片っ端から抜くつもりでお前の話聞いてたらお前が採取しちゃったから何もしてないぞ」

「あれ、おいラウルサボんなよ、ミーシャだって1個は採ってきてくれたぞ」

「それ言ったらウェスタもサボりだろ!?」

「俺も1個採って渡したぞ」

「おいラウルサボんなよ」

「うっす・・・」

「とりあえず少し休もうか、軽い軽食を作ってきたんだ。みんなで食べよう」

「クロさん料理もできるんですか!?完璧男子じゃないですか」

「?普通だろ。なあラウル、ウェスタ」

「おいクロ、俺は食べるほうのプロだぞ?とてもじゃないが料理なんてできない」

「俺は最低限だができるぞ」

「ラウルお前マジで今のところ良いとこ無しだぞ・・・リーダーとしての指揮執らないし女たらしだし、食い意地張ってるだけだしソウネダケ採らないし・・・」

「もうわかったから勘弁してくれ・・・」

「あはは!クロさんとラウルさん面白いです、仲の良さが伝わってきますし会話も楽しいですしこんなにゆったりダンジョン潜入初めてです!」


 俺とラウルが顔を見合わせると数秒間視線を交差させる。


「いやこいつには苦労させられてばっかだぞ」

「おい!?今のは仲良し感出すとこだろ!?」

「まあいいよ、はいこれサンドイッチ。全員分あるからゆっくり食えよ。特にラウr・・・もう食い始めてんじゃねえか」

「クソっ流された・・・相変わらず飯がうめえなちくしょう」

「クロさん料理上手です、このお肉はなんのお肉ですか?すごく柔らかいです。甘じょっぱくて辛みがある、それになんだか花のような香りがします・・・でもソースはかかってないですね?」

「お!いい舌してるなミーシャ。ちなみに肉はビッグボアのやつだ。食用花のハニービオラを乾燥させて抽出した液体をセーユと香辛料で味を調整して肉を漬けておくと焼くだけで作れるぞ」

「そんな調理方法初めて聞きました・・・教えてもらっちゃっていいんですか?」

「いいよ、商売するわけでもないし趣味の範囲だ」

「でも本当に美味しいです!間違いなく今まで食べた料理で一番です!お店出したら絶体儲かりますって!私が買い占めます!」

「ミーシャは人を褒めるのが上手いな・・・店は出さないけど言ってくれたらまた作ってやるよ・・・っていっても臨時のパーティーだから次が約束されてるわけじゃないな」

「俺はこのパーティーで今後もやっていきたいぞ!クロとウェスタが優秀だしミーシャちゃんかわいいし!」

「私も正直このパーティーで今後も活動したいです!クロさんの指揮は安全マージンしっかり取ってくれてますし、判断も早くてすごく安心します。ラウルさんは・・・はい・・・」

「お前引かれてるぞラウル。ちなみにウェスタは?」

「・・・まあ俺もいいと思うぞ、安定したパーティーは嫌いじゃない。それにミーシャが良いっていうんだから俺はついて行くまでだ」


(最初のほうから思ってたけどウェスタはミーシャの意向に沿って動いてる感じがするな。初対面じゃなかったみたいだしタッグでも組んでるのかな・・・)


「もう・・・ウェスタはいつもそうですね。別に私とずっと一緒に行動しなくてもいいんですよ?」

「えっ!?ウェスタとミーシャちゃんってもしかしてずっと一緒のパーティーなの!?そしたらまさか帰る場所もいっしy」


 無言でラウルを殴って制止する。


「ラウル、プライベートの詮索は良くないぞ」

「すんません・・・」

「ちなみにパーティーは一緒ですけど別にホームまで一緒なわけじゃないですよ。私たち恋人でもないですし」

「まあそういうことだ」

「よかったなラウル、まあお前の好感度は底辺まで落ちてるかもしれないけど」

「希望があるなら折れないぞ俺は!!」

「おぉそうか・・・っとみんな食べ終わったな。そしたら戻りながらゴブリンを狩るという方針だったから予定通り行こう。いいか?」


 全員が首肯したのを確認し、出口に向けて歩みを進めるのだった。


      ●


「前方にゴブリン4体確認、弓使うの面倒だから切り込むぞ」

「クロお前雑になってるぞ、安全マージンはどこに行った??」

「暴れたくなった、それだけだ。ウェスタとラウルは1体ずつ頼んだ」

「あいよ」

「了解した」


 2本ある短剣を抜いてゴブリンに近づく。1本目を1体の心臓に刺す。するともう1体が背中に向けて飛びかかってくる。それを視界の端で確認し、2本目でゴブリンの持つナイフを受け流す。流れた体を蹴り飛ばし、心臓に刺してたナイフを抜いて刺す。


「っとこれで終わりか。味気ないな」

「急に理性消し飛ばして近距離戦やり始めてるからミーシャちゃんが固まってるぞ」

「クロさん近距離戦も上手なんですね。弓も私より上手そうでしたし・・・」

「まあ戦闘慣れしてるしラウルと組むまでソロだったからな」


 そんな会話をしていると珍しくウェスタが声を上げる。


「なあ・・・何か聞こえないか?」

「・・・っ!?ゴブリン狩りは中止だ!出口に向かうから付いてこい!」

「んあ?どしたよクロ・・・ってあれは・・・」

「トレインマンです!」


 音で気づけなかったミーシャとラウルが視界内にトレインマンを捉えると、俺が走り始めた方向に向かって走ってくる。


(トレインマンが来たのは本来の道から、今いるのは横道。トレインマンは奥に行ってから回り道して戻ってくるはずだからそれまでに出たいな・・・)


「おいクロ!前にバットとゴブリン、コボルトが複数いるぞ!」

「モンスタートレインからはぐれたのか・・・とりあえずミーシャはバットを主に狙ってくれ、ウェスタとラウルはミーシャの射線に被らないようにバットから離れたモンスターを狩れ。俺は遊撃する」


 各々が各役割を果たすために動き始める。俺はミーシャが狙っている方向を確認し、それとは逆のバットを狙い撃つ。あわせてゴブリンも減らしていく。ある程度減らしたのを確認し、俺は壁を蹴って広場に出る。すると壁を蹴るのを見ていたモンスターはもちろん後方につっかえていたモンスターもこちらへ来る。


「みんな!聞こえるか!」

「聞こえてるぞー!てか大丈夫かお前ー!」

「手短に言うぞ!今こっちにモンスターを引き付けてるからお前らは出口に向かう通路に入れ!すぐ合流する!」

「あいよ!」


 ラウルが駆けていくのが見える・・・がミーシャが動かない。


「っ!?ウェスタ!ミーシャを運べ!」

「クロさん!一人じゃ無理ですよ!クロさん!」


 ミーシャの声が遠ざかっていく。ウェスタが頑張ってくれたかな。というか


(別に問題ないんだよなあ・・・やろうと思えばやれるしそもそも受け流して距離取って時間稼いでるだけだし・・・)


 攻撃、主にコボルトの剣撃を受け流しながらラウルたちが出口に続く道に入ったのを確認する。それに合わせて身体強化魔法をかけて俺も道に入る。そして通路の入口に小麦粉を撒く。そしてそこにファイヤーボールを打ち粉塵爆発を起こす。粉も少ないし小規模だが足止め程度にはなるだろう。


「ただいま」

「おう」

「切り抜けてきたのか凄いな。てかミーシャが運んだ俺を凄い睨んでくるんだがなんとかしてくれないか」

「クロさんは馬鹿です!あんなにたくさんのモンスターの中に入っていくなんて・・・クロさんが死んじゃうんじゃないかって・・・ぐすっ・・・」

「おい泣くなよ。こうやって帰ってきただろ?」

「でも私は怖かったです!クロさんに何かあったらって・・・」


(ミーシャは優しいな・・・それに比べて・・・)


 ちらりとラウルのほうを見てみるとこいつはニヤニヤしていた。


「おいラウル、言いたいことがあったら言ってみろ。遺言くらいは聞いてやる」

「ちょっと待て!?俺はお前なら大丈夫っていう信頼の元普通にしているのであって心配じゃなかったわけじゃないぞ!」

「そのニヤニヤした顔はなんだ焼くぞ」

「いやー?可愛い女の子にあんなこと言われて羨ましいなーって思っただけだよ」

「お前も命かければ心配してもらえるかもしれないぞ」

「それはクロの役目だから遠慮しとく」

「俺の命軽いな」

「どうせ生きてる」

「それはそう」


 そんなくだらない会話をしているとミーシャも落ち着いたらしい。ただ・・・


「モンスター、近づいてくるな」

「ウェスタそういうのは言わないでくれよ。考えたくなかった」

「すまん」


 モンスターがまたもや近づいてくる。先ほど横道に残されていたのに加えてトレインマンが追加で連れてきたモンスターが見える。先頭はトレインマンで間違いなく俺たちのほうに向かってきている。


「とりあえず迎撃しながら出口に向かう!牽制だけでいい!足は止めるな!」


 押し寄せるモンスターの軍勢を牽制しながら出口を目指す。時折振り向いて飛行型モンスターのエコーバットと遠くのゴブリンを弓矢で射貫く、近距離まで接近してきたら短剣で処理をする。


「全然減らないな」

「この数どうやって集めてきたあのトレインマン!」

「はあはあ・・ウェスタもラウルも余裕だな・・軽口を叩けるとは・・・」

「まあお前が数減らしてくれるからな、楽させてもらってる」

「私は走るので精一杯です・・はあはあ・・・すみません」

「問題ないよ、そしてラウルてめえ」


 ケロッと言うラウルを殴りたくなるがそんな暇はない。次々とモンスターがやってくる。


「おいどうするんだクロ!モンスターが多すぎるぞ!」


 想像以上のモンスターの数に、先ほどまで余裕のあったラウルの表情が消える。打開策はあるが準備が必要だ。それに場所も。


「すぐそこの広場に出たら迎撃するぞ!」

「なんか策があるのか!?」

「打開策なら・・・ある」

「マジか!?頼んだぜクロの字!」

「ただ準備が必要だ、だから・・・」

「だから・・・?なんだよ早く言えまだまだ来るぞ!?」


 含みのある言い方をしてから俺は満面の笑みをラウルに向ける。そして広場中央に差し掛かったタイミングで、あるモノを渡し、告げる。


「囮頼んだぜ★ラウル」

「ん?お前これ・・・ガーディアンアーマーじゃねえかあああ!!??」


 アイテムを渡した俺はミーシャとウェスタを連れて少し離れた位置に行く。するとラウルの頭上に白銀の鎧が展開され、装着される。


 俺がラウルに渡したのは『ガーディアンアーマー』というアイテム。所有者が対象に渡し、対象が手渡しで受け取ると発動する。効果は周囲のモンスターがいなくなるまで対象がガーディアンの鎧を身に着けるというもの。その鎧を着ている間モンスターのヘイトを全て集めることになるが攻撃を通さないというチートレベルのアイテム。ただ欠点があるとすれば・・・


「あれ固定されるから動けないんだよね。まあ俺らの安全約束されるけど。しかも手渡しじゃないといけないし相場が1500万G、一般Dランク冒険者の年収の数倍くらいの値段、まあ使い捨てじゃないから妥当といえば妥当なのかなあ・・・」

「あのクロさん・・・ラウルさんがすごく睨んでます」

「というかクロ、よくあんなアイテム持ってたな?1500万Gだろ?」

「金には困っていないからな、余裕で買えたぜ」

「クロおおお!!早くこいつら潰してくれ!モンスターの臭いがやばい・・・死ぬ・・」

「それ着てれば死なねえよ、少し待ってろ。みんな走って疲れてるし呼吸も整えないと」

「ふざけんなああああ!!」

「命かけてるじゃん、よかったな心配してもらえるぞ」

「クロさんあの発言根に持ってたんですか・・・」

「ん?いやどうせ死なないから遊んでるだけ」

「・・・」

「クロは腹黒だな」

「まあな・・・っと」


 流石に可哀想になってきたし助けてやろう。


「二人とも俺の後ろにいてね」

「「???」」


 俺は2人を下がらせると魔法詠唱を始める。魔法は無詠唱でも扱えるが、詠唱をすることによって効果が上がる。


「___氷河を溶かす万物の根源、火を扱うは魂を扱うことなりと、混沌に紛れし確かな灯り、導かれるは獄火、全てを焼き尽くす永遠なる焔、我が剣に宿り給え___」


「ウェスタ・・・こんな詠唱聞いたことありますか?」

「いや・・・ないな」


 後ろで2人が話してるのが聞こえる。


「まあ自作の固有魔法だからな」

「クロさん何でもありですね・・・」

「その長剣はこれのために持っているのか?」

「そうだ。さてラウルを助けるか」


 炎を纏った鉄剣を握り、モンスターの元へ歩みを進める。ガーディアンアーマーの効果はすさまじく、モンスターは俺に一切興味を向けない。


「おぉクロ!!早く助け・・・おいお前その剣は・・・」

「魔法を込めてあるぞ、安心しろ今すぐ助けてやるからな」

「えっちょっまそれ俺も焼けるんじゃ・・・」

「ん?んなわけあるか。ガーディアンアーマーが攻撃を通すわけないだろ。まあ少し熱いかもな」

「あっ・・・」


 何かを察したラウルが黙り込む。それに合わせて俺は剣を構える。


(にしてもなんか技名が欲しいな・・・)


 数秒思考する。そして思いついたものを発して、剣を振るう。


『___イグニアス・デトネーション___』


 瞬間、目の前に大きな爆発が起き、モンスターを焼き払う。地面にまで炎が引火し、やがて消えていく。そしてモンスターがいなくなったらしくラウルの付けていたガーディアンアーマーが解除される。


「おい熱かったぞクロ!!溶けるかと思ったぞ!」

「悪い悪い、まあ無事だったから許せ」

「クロさん・・・いやなんか驚くのも違う気がしてきました」

「ミーシャに同感だな」

「おい!?ミーシャもウェスタも諦めるな!?確かに凝ったことしたけど!」

「クロ、自覚あったんだな」

「もう一回囮やるか?」

「遠慮しとく・・・っておいクロ、また走ってきたぞ」


 そう言われてラウルと同じ方向を見るとトレインマンらしき姿が見える。


「あいつどこに行ってたん?」

「なんかモンスターな擦り付けた後横道に入っていったぞ」

「またモンスター集めてきたのか・・・まあ出口すぐそこだしいいよ。幸いクエスト分のゴブリンの角は拾ったし」

「だな、ミーシャもラウルもそれでいいよな」

「おっけー」

「大丈夫です!」


 そうして俺たちは出口に向かう。この位置からならトレインマンは確実に俺には追い付かないし気にすることもない。


(ダンジョン出たらギルドに行ってクエスト達成報告をして報酬を受け取って・・・どうするかなあ)


 そんなことを考えながら歩くのだった。


      ●


「確かに確認しました。報酬はおひとり様2万Gです。それとトレインマンの情報提供もありがとうございます。ところでモンスタートレインは討伐してらっしゃらないんですよね?よく逃げてきましたね」

「まあ出口が近かったからですね。報告も済みましたし大丈夫ですかね?」


 報告も終わりギルドを出る。


「みんなお疲れー!この後パーティー結成記念に食事会に行かないか?」

「俺は行くぜ!」

「私も行きます!」

「俺も行こう」

「じゃあ決まりだな。行きつけの店があるんだ。今から行こう」


 そして店に行くため俺たちが歩き始めた瞬間、声を掛けられる。


「おぉウェスタにミーシャちゃん!元気してるー?」


 声のほうを見ると4人の冒険者らしき姿が見られる。


(知り合いか・・・?にしては2人とも表情が暗いな)


「2人とも急にパーティーを抜けちゃうんだからびっくりしたよ。ところでその人たちは?新しいパーティーの人達かな?でもすぐ抜けちゃうんだろうねぇ・・・ミーシャちゃんはいうこと聞いてくれないしウェスタ君も彼氏面で全然ミーシャちゃんと関わらせてくれない。それで少し意地悪をしたらすぐ抜けちゃうんだもん。ねえそこの人達?ミーシャちゃん目当てなら早く解散したほうがいいよ?」


(なるほど・・・なんとなく理解した)


 この話しかけてきた男は恐らくパーティーリーダーで、見た目の良いミーシャ目当てでパーティーを組んだけどウェスタがいて手を出せなかった。だから嫌がらせをした結果2人が抜けたと・・・


「あー?悪いけど俺らはミーシャ目当てじゃないんだ。普通に雰囲気が良いパーティーで活動したいだけだ。それに何をしたのか知らんけど話だけ聞いてるとあんたら悪役だぜ?」

「紳士気取ってんなよガキっ!お前らやるぞ!」


 そうして武器を取ってこっちに来ようとする・・・が攻めてこない。それはそうだ。ここはギルドの目の前。おまけに俺が魔力放出をしただけでビビったのだ。


「おいその程度か?ならさっさと帰って寝てな。みんな、行こう」

「おうよ、じゃあなおっさんたち!」


 ひと悶着あったところで飲食店に向けて歩き出す。


「クロさんにラウルさん、巻き込んでしまってすみません・・・」

「いいよ全然。まあ話くらいは聞かせてほしいかな」

「それなら俺が話そう」


 するとウェスタが口を開く。案の定ミーシャ狙いのパーティーに入ってしまったらしく、ウェスタが守っていたがダンジョン内に置き去りにされたり、自分たちの報酬を渡されなかったりして抜けたらしい。抵抗しようにもリーダー、名をゴルダという冒険者はCランクらしく、動けなかったそうだ。


「なるほどな。まあじゃあこれから気にしなくていいな。ウェスタも気張らなくて大丈夫だ。俺はもちろんラウルもこう見えてまともだからな。それに絡まれても追い返してやる。弱そうだしな」

「そうか・・・よろしく頼むよ」

「弱そうって・・・でもクロさんと一緒にいたら安心です。よろしくお願いします!」

「おいクロ!腹減ったぞ!そんな話は後にして早く行こう!」

「そんなってお前なあ・・・やっぱまともじゃなかったか・・・ここだ」

「このお店ですか・・・なんか隠れ家みたいな感じですね」

「早く入ろう今すぐ入ろう」

「わーったよ」


 店に入ると店主の顔が見える。彼はディアと言って料理はそこらのレストランと遜色ない質、にも関わらず高価な素材を使わないから量も多い。俺に料理を教えてくれたのも彼だ。


「お!クロ坊!今日も来たか・・・ってそちらは?」

「あぁ、俺のパーティーメンバーだ」

「ラウルでーす!」

「ミーシャです!」

「ウェスタだ」

「クロ坊が人を連れてくるなんて・・・泣きそう」

「大袈裟だし失礼じゃね?まあいいやディアのおっちゃん。実は今日がパーティーの結成日なんだ。とりあえず宴会向けのメニュー頼めるか?」

「おう。そっちの大人数席空いてるから使えよ」


 案内された席に行き座ると、ディアのおっちゃんが厨房に入る。そこまで広くもないため普通に会話できる距離だ。


「にしても相変わらず客足悪いな、経営成り立ってんのか?」

「クロド直球だな・・・でも確かに静かだな?ちょうど飯時だろ?」

「クロ坊は余計なこと気にしすぎだ。材料は自分で採ってるから問題ないぞ。魔道具も使わないで魔法で火を起こしてるから金もかかってない」

「クロさんみたいにさりげなく凄いことしてますね・・・」

「まあ俺も一応は冒険者だからな」

「ディアのおっちゃんは今年で48になるのに現役だからな。しかもCランクだ。まあ材料調達のために冒険者登録したらしいけど」

「それでCか・・・すげえな」

「まあ俺のことはいいんだ、今日はクロ坊たちのパーティー結成記念とクロ坊が仲間を連れてきた記念だ。たくさん食ってくれ!ついでに初クエストの話も聞かせてくれよな!」

「なんか一言余計な記念があった気がするけど・・・おいラウル、リーダーだからなんか乾杯の挨拶をしてくれ」


 そしてラウルの挨拶を待つのだが一向に口を開かない。


「ラウル?どうした?」

「今までは人集めのために俺が顔を立ててたけど固定パーティーならその必要はない。それならクロがリーダーを務めるのがいいと思うんだがどうだ?」

「賛成です!」

「俺も構わん」


 そして3人がこちらを見てくる。ついでにディアのおっちゃんも真剣な目でこちらを見ている。


(ラウルも珍しく真剣に意見しているな・・・それにみんなも賛同してくれてる。だったら・・・)


「わかった。こんな奴だけど頑張ってみるよ」

「よしこれで責任がなくなる!」

「ラウル・・・少し見直した俺が馬鹿だったよ」

「見直してくれてたのか?それはありがたいな」

「もうその感情はなくなったけどな」

「えぇ~?まあいいよ。ほら挨拶してくれ腹減った」

「ふふっ、ラウルさんはそれしか言えないんですか?・・・あはは!」


 ミーシャが笑い出すとウェスタも笑顔を浮かべている。これがウェスタのほんとの笑顔なのかもしれない。全員が笑顔になっている。その光景は初めて見るもので、心が温まる。これからもみんなで活動していく。そんな未来を想像すると楽しみで仕方ない。だから深呼吸をし、少し間をおいて、言葉を紡ぐ。


「パーティー結成記念、そしてこれからの俺たちの幸福を願って!かんぱーい!」

「「「かんぱーい!」」」


 食事会が宴会になってしまった・・・でもこの空間の空気が心地よい。ダンジョンでの出来事、ディアのおっちゃんの料理が旨いって話、俺とおっちゃんの話。たくさん話をして解散するのだった。






 俺たちのパーティーの物語が今日、始まった。

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混血の魔法剣士 雨田城楓 @Utasiro_Kaede

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