第20話 告白

スザークに連れていかれたのは、バラに埋め尽くされた庭園だった。

スザークの頬にはあの見知れた傷跡はない。

「聞きたいことがいっぱいあります。」

「うん。」

「何を聞いても良いのでしょうか?」

「うん。」

王の間でのあのやりとり。そしてあの絵に描かれていた銀髪の子供。

「スザーク様、あなたの本当のお名前を教えていただけませんか?」

「わたしの名は、カリシュクスト王国第一王子イザーク。」

やっぱり…

「頬の傷は、身元を隠すためだった。顔に大きな傷がある者に、人はあまり近寄らないから。」

『女性はあまり近寄らない』ね。

「もっと早くリリィに本当のことを話したかった。」



カリシュクスト王国の第一王子であるイザークが20歳の誕生日に、ロザリンデは聖女の座を退き、その責をまだ幼いアルルが継いだ。

そして、ロザリンデの提案で、イザークは王宮を離れ、身分を隠し、蜻蛉を倒す術を探しながら、騎士団団長のヴァイルの元で修業を始めた。

イザークの身分を知るのは、王族を除き、ローザと名を変えたロザリンデとヴァイルのみ。

そして、蜻蛉に対して何の手立ても見つからないまま年月が過ぎ、フローザンガの森でリリィと出会った。



「リリィとは随分年が離れているのはわかってる。それでも、リリィ、フローザンガの森で君に会った時から惹かれていたんだ。」

真っすぐにわたしの顔を見て、スザークが言った。

反則。

彼は本当の「王子様」なのだ。

スザークを好きでいてもいいのだろうか?

頬の傷がなくなったスザークの、かつて傷のあった頬にふれると、スザークはその上にそっと自分の手を重ねた。

「愛してる。」

スザークはそう言って、優しくキスをした。

まだ何も返事をいないのに。


END

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花の名前 野宮麻永 @ruchicape

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