10.赤

「お待たせー! どう?」


 待ち合わせ場所の神社にやってきた赤井さんは、以前買った赤いカーディガンを白いシャツの上に羽織っており、顔にも表れているように、すっかり元気になっていた。


「似合ってるよ」


「でしょー? っていうか君、お神輿やってたんだね」


「家が自治体に入っててさ、太鼓を上でたたいてたんだ」


 今は休憩時間で、その間のみ彼女と祭を回ることになっている。


「見てたよ。ほら、写真!」


 彼女が見せるスマホには、手がぶれている自分の姿が写っていた。


「ブレブレじゃん。でもいいや。またあとで送って」


「うん! じゃあ行こっか」


 嬉しそうに歩く彼女の姿を見ていると、ほほえましく思う。


「ん? どうしたの?」


「いや、赤井さんの扱い方が分かってきたかもなーって」


「何、扱い方って。失礼じゃない?」


「ほら、そういうところとか」


「どういうところよ!」


「まあ、これからゆくゆくわかることだから」


「何それ……あ、スーパーボールすくい!」


「やるの?」


「やってくる!」


 元気よく駆けだす彼女を見て、僕はあの日のことを思い返す。


 ―――私が君のことでドキドキしっぱなしだったから、君をドキッとさせたら振り向いてくれるかなって。


 まさか知り合って一か月の間に、こんなことになるなんて。


「お待たせー! おっきいのもらったよ!」


「え、それって五十個すくった人とかのやつじゃないの?」


「ふふん。おまけで十個もらったー!」


「いくつすくったの……」


「ほら、じゃあ今度は君の番!」


「僕まで?」


「ほら、これも決闘の一環だよ」


「赤井さんさ、普通に戦い好きだったりしない?」


「そうかもね。夏あった体育祭でも、ずっと叫んでた気がする」


「うわ、あの『スピーカー』、赤井さんだったんだ」


「ス、スピーカー!? そんな風に思ってたの?」


「そういえば話題になってたなーって。放送部よりもうるさい応援」


「もうっ、これから控えるから、早く行ってきてよ……」


「はいはい……」


 しょげる彼女を背に、僕は屋台に向かった。



*****



「おかえりー。いいでしょ? ここ」


 二個スーパーボールを握りしめて合流した先で、赤井さんに連れてこられた場所は、神社の境内のはずれにある公園だった。二人でベンチに腰かけると、足元からキリギリスが驚いたように逃げて行った。


「いいね。なんかこの静けさ、初めて話した時を思い出す」


「でしょ? もう私は分別あるから、誰か呼び寄せることもないし……あ、ぷっ」


「なんだよ」


「惨敗だね。君」


「それは誰でも勝てないでしょ」


「まあね。でさ、これやらない?」


 彼女は二本の紙製のひもを取り出した。よく見てみると、縞々模様がカラフルに描かれている。


「……線香花火?」


「そう! 家以外の場所でやってみたかったんだよね」


「いいけど、火は?」


「え…………あ」


「じゃあ、また今度だな」


「はあぁ…………」


「そんな大きなため息つかなくても」


「だって、もう今日で終わりかもしれないから」


「……え?」


 彼女は立ち上がって、僕の前に立った。


「…………ずっと、気になってました。君のことが、入学してから」


「……」


「もし、嫌だったら、断ってください。これ以上、教室に押しかけたり、大声で声かけたりしません…………付き合ってください」


 彼女は後ろ手を組んだまま、こちらに鋭いまなざしを向ける。小さいながらも、彼女が普段から発するエネルギーが、そこには確かに込められているように感じた。


「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


「……えっ、やったー! 本当に? 本当の本当に?」


「声大きい」


「あっ、ごめん……幻滅しないで」


「幻滅しないから。そういうところも含めて、いいなって思うし」


「……」


「顔、赤いよ?」


「……君のせいだからね」


「えっ」


「あはは! 幸せ!」


 胸元に密着する彼女の顔は赤く、華やかな笑顔に彩られていた。

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赤井さんは顔が赤い 時津彼方 @g2-kurupan

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