第9話 聴取(富永)

 文化祭準備の仕事が終わり学校を出ました。

 今日は朝から雨で、濡れるのを嫌った僕は電車で通学しました。


 駅は万李高校生が多くいます。

 傘の水滴を落としながら列に並ぶと、隣に立っていた生徒が「やぁ」と声をかけてきました。


 富永、和泉の幼馴染の一人。


 去年同じクラスで、親しくはなかったのですが、彼はクラスの誰にでも挨拶をするタイプでした。今でもこうして軽く挨拶してくれるのです。


 肩につきそうなほど長い髪で背も高い。立っているだけでモデルみたいに様になっています。


 マリーゴールド、そう呼び始めたのが誰なのかは知らないですが、気がつくと当然のようにその呼称は浸透していました。

 その花をタイトルにした曲が流行ったのが由来と聞いたことも、万李高校のキラキラ輝くグループというのも聞いたのですが、本当のところは知りません。

 全員が金髪の集団、というわけではないのは確かです。


 探していたわけではないですが、待ち人に会えた感覚でした。

 どうするべきか迷います。中富がいない状況で彼に話を訊くのもおかしいでしょう。


「和泉のことを調べているんだって?」


 いつもの微笑みで彼は言います。

 河崎から僕らのことを聞いているようです。当然といえば当然です。


「僕ではなく中富だけど。あ、中富ってわかる?」

「君は和泉に似ているね」

「……え?」


 似ているなんて感じたことがなく、驚きました。


「スポットライトを嫌っていそうだ」


 僕には当てはまりそうですが、人気者の和泉にはどうでしょう。


「初めて言われた。他にどこが似ているかな?僕も……」

「サイコロを持っていたことは河崎に聞いただろ?」


 こちらの話を遮って主導権を握らせない、独特のペースで喋ります。しかし不思議と不快には思いません。


「限られた者しか知らないことだけど、和泉のポケットには大小様々なサイコロが、いっぱいに詰まっていたらしい。両ポケットだ、十や二十じゃない」


 わざわざそんな量を?その奇妙さに鼓動が早くなります。


 いつの間にか彼は僕の真正面に立ち、じっと目を見つめています。整った顔は奇妙な引力がありました。


「溢れたんだろうな。遺体のそばにはサイコロがいくつか散らばっていたらしい。君なら、サイコロは何に使う?」

「双六とか、ゲームぐらいしか思いつかないけど」

「しかし和泉の死は現実だ。散らばったサイコロと死体。それは幻想的かもしれない」


 詩を歌うように、軽やかに語ります。

 僕も思っていました、それは美しいと。


「どうして彼は死んだんだろう」

「そんなことは神にでも任せたほうがいい。僕たちが判断することじゃない」


 また神という言葉が出ました。


「神ならなんでもお見通しだと?」

「神というのは巨大な樹なんだ。いつも僕らを上から見下ろしている」

「見ているだけで何もしないわけか」

「……気付かないだけで、僕らの下には根っこが張り巡らされている。気まぐれに養分を搾り取られることもある。もしかすると、和泉は神の養分になって、僕らの前から消えたのかもしれない」

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