第10話 おっさん、集中する




 武器を作る。


 それは、言葉で言うのは簡単だが、実際に自分の手でやるのは中々難しい。

 ましてやオリハルコンなんて高価な代物を使って失敗はできない。


 さてさて、どんな武器を作ろうか……。



「というわけで琴梨、どんな武器が良い?」


「んーとね、まず見栄えが良い武器!! あとギミックが多彩で、私という冒険者の代名詞にもなる武器が良いかな!!」



 ダンジョンから帰ってすぐ、俺は琴梨の希望を聞いていた。



「象徴……象徴ねぇ? なら普通の武器じゃ駄目だな。人の目を集める特異性が必要か。でも性能が疎かになってちゃあ武器の意味が無い。こりゃあ中々難しい問題だ」


「あ、おじさん。おじさんが武器作る様子、配信しても良い?」


「んん? おう、良いぞ。別段隠すことはないからな」



 俺が設計図を紙に書き殴る横で、琴梨は配信を始めた。



「どーもー!! コトズナチャンネルでーす。今回は絆ちゃんの武器制作!! いつもよりハラハラドキドキは無いけど、興味のある人は見て行ってね!!」


「興味のある人なんていないと思うがねぇー。ま、退屈はさせないよう解説もしますかい」



 俺は琴梨から受け取ったオリハルコンを作業台の上に置く。



「さて、こいつが今回の素材だ。オリハルコン。冒険者の間じゃあ万能石とも呼ばれている。1グラム辺り万単位で取引されるエグいもんだ」


『オリハルコンすっげー』


「ああ。こいつは純度も高いし、売ったらかなりの値段だったろうな。今回はこいつを使って、琴梨の武器を作る。ざっくり設計図を二十枚書いてみたが、どれが良い?」



 適当に書いたものなので、まだ細かいところを詰める必要はある。


 しかし、今の琴梨は冒険者になって短い。


 とどのつまり、どんな武器でも扱える可能性があるのだ。

 剣、槍、弓、銃、斧、槌、フレイル、メリケンサック……。


 あるいは盾や投擲武器のような代物で良いかも知れない。



「うーん、選べないなー。どの武器もカッコ良さそうだし、使ってみたい!!」


「いやいや、流石にそこまで沢山の武器は作れないぞ。素材が足りなくなる。他の素材を混ぜて嵩増しするってのも手だが、オリハルコンは純度が高い方が良い武器を作れるしなー」


「えー。じゃあ、もっとオリハルコン取ってくる? そしたら色んな武器作れる?」


『そんな、ちょっとコンビニ行ってくる、みたいなノリで言うことじゃない』



 視聴者の言う通りだ。


 オリハルコンなんてレア中のレア素材。狙ってゲットできる代物じゃないだろう。



「……色んな武器を使いたい、か」



 琴梨はおそらく、目で見たものを模倣することに長けている。


 ならば、一つで多くの役割を担える武器が一番良いんじゃないか?


 例えばアーミーナイフみたいに。



「琴梨、ちょっと集中する。話しかけられても反応できないから、無視しても怒るなよ」


「え? あ、うん。りょーかい」



 俺は全神経を研ぎ澄まし、琴梨のための武器を作るのであった。








 武器を作ると言っても、沢山のやり方がある。


 鍛冶のように金属をハンマーで叩いて形成するやり方もあるが、俺の場合はもっと簡単だ。

 いや、実際は難しいんだが、パッと見では俺のやり方の方が簡単に見える。


 俺のやり方とは、スキルによる金属の加工だ。


 まずはオリハルコンから不純物を取り除くためのスキルを使った。



「【抽出】」



 不純物が取り除かれ、オリハルコンの輝きが増す。


 しかし、俺が想像したものを作るには強度に些か不安が残る。

 なのでオリハルコンを圧縮し、密度を高めねばならない。



「【圧縮】」



 オリハルコンを圧縮すると、熱を帯び始める。


 青く輝くオリハルコンが真っ赤に染まり、深紅色に光った。


 このままでは素手で触れるのも難しいため、更に細工を施す。



「【刻印】」



 これは物品に特殊な効果を付与するスキルだ。


 分かりやすく言うなら、プログラミングが一番近いかも知れない。



「……ここをこうして……よし。ここの回路はこう繋げば……ブツブツ……」



 俺は全神経を集中させ、少しずつ完成へ近づけていく。


 だからこそ、俺は気が付かなかった。



「……【抽出】……【圧縮】……【刻印】……なるほど。覚えた・・・



 俺が十数年かけて習得したスキルを、まさか見ただけで真似されるとは、思いもしなかったのだ。








 とあるダンジョンの入場口付近。


 つい最近、新しく出現したばかりのダンジョンだが、その中から一つのパーティーが出てくる。


 若い青年を中心に、四人の少女たちによって構成されたパーティーだった。



「お、おい、見ろよ。【勇者】だぞ」 


「え? 新しいダンジョンをたった数日で攻略した、あの【勇者】か!?」



 【勇者】と呼ばれる青年は、周囲の完成に笑顔で応じた。


 女性冒険者はカメラを取り出して写真を取り始め、男性冒険者はそんな【勇者】の様子にケッと唾を吐き捨てる。



「しかし、周りの女の子は美少女ばかりだな。この日本でハーレムとはけしからん」


「ま、強い奴に良い女が群がるのは当然だろ」


「あ、強い奴って言いや、あの子知ってるか?」


「あん? どの子だよ?」


「ほら、コトズナチャンネルの琴梨ちゃんだよ!!」



 【勇者】を遠巻きながら見ていた男性冒険者たちが、雑談に興じる。



「あー、あのダンジョン攻略配信してる? かわいいよな」


「いやいや、たしかに可愛いけどさ。あれは【勇者】より凄いと思うね。今日も配信してたから見たんだけど、一昨日まで素人だったとは思えないくらい動きが良くなってるんだよ」


「そうなのか?」


「ああ。ベテランが新人を騙ってるって感じじゃない。出来なかったことが、二日でできるようになってたんだよ。もう背筋がゾッとしたね。ありゃあ日本を代表する冒険者になると思う」


「それは言い過ぎだろー」



 そんな会話をしている冒険者たちに、割って入る青年がいた。


 先程ダンジョンから出てきた、【勇者】と呼ばれていた青年である。



「その話、詳しく聞かせてよ」


「「え?」」



 【勇者】と呼ばれる青年が、後に【戦神】と呼ばれる少女を知る切っ掛けであった。





――――――――――――――――――――――

あとがき

第一部、完。

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ベテランおっさん冒険者、朝起きたら巨乳美少女になってたので姪と一緒にダンジョン攻略動画配信を始めます。〜レベルリセットされてるけどステータスはそのままみたいなので強くてニューゲーム〜 ナガワ ヒイロ @igana0510

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