第2話 天倶町七不思議のヒミツ!?

2-1 ある日の天倶小学校新聞部の部室にて②

 夏休みが終わって二学期が始まった九月のある日。

 深織は昼休みの新聞部の部室で大きくため息をついた。

 副部長の伊都子がそんな深織の様子を見て言った。


「どうしたんすか、部長?」

「天小新聞、夏休み明け特別号もやっぱりつまらない内容だったなぁって」

「そうっすかね? 私のマンガ、とっても好評だったっすよ」

「だから天小新聞はマンガ雑誌じゃないし」

「そりゃそうっすけど」

「やっぱり、小学校新聞でスクープなんて無理なのかなぁ」


 深織は天を仰いだ。いや、室内なので天井を仰いだというべきだろうか。

 夏休み前に取材した『天狗の占い屋』は結局記事にできなかった。


「部長とマリちゃんで野球部の試合を取材したんっすよね?」

「ええ」

「あの記事よくできていたと思うっすよ。天倶小の部員だけじゃなくて、相手チームのインタビューまで載っていて読みごたえたっぷりっす! いつか野球マンガを描くときにネタにネタとして使わせてほしいくらいっす」

「ありがとう。たしかに今回の記事は二人でがんばったわ」

「ならOKじゃないっすか」

「そうなんだけどね……なんつーかスポーツ記事以外にも、学校内で起きた大事件のスクープがほしくてさ」

「小学校で大事件なんてそうそう起きないっすよ。ってか、こんな会話一学期にもしたっすよね?」


 呆れ顔の伊都子に深織はため息交じりで言った。


「使われていない旧校舎で密室殺人事件とか起きないかなぁ」

「殺人事件とか、縁起でもないこと言わないでください。っていうか、そもそもウチの学校に旧校舎なんてないっすよ」

「そーなのよね。今から密室トリックが作りやすい旧校舎とか建てられないかなぁ?」

「えーっと、どこからツッコんだものか……とりあえず、今から建築したら旧校舎じゃなくて新校舎じゃないかと思うっす」

「あーもう、伊都子ちゃんてば夢がないわねぇ」

「殺人事件に夢を見ないでほしいっす」

「そりゃそうだけどね。このままじゃ、来月も代わり映えのしない紙面になりそう。っていうか、今月はスポーツ関連の対外試合もないし、来月の紙面はもっとつまらなくなりそう」

「九月は運動会があるじゃないっすか」

「結局そうなるのかなぁ。ねえ、伊都子ちゃん。何かネタになりそうな噂話とかないの?」


 今度は伊都子の方がため息をついた。


「またっすか……面白そうな噂話ならあるにはあるっすよ。天小新聞に載せられるかは微妙っすけど」

「一応聞くわ」

「ズバリ! 七不思議っす」

「七不思議? 学校七不思議ってヤツ?」


 昭和や平成初期に全国の学校で流行った怪談を集めたネタだ。なぜか不思議の数は七つのことが多かったらしい。


「『トイレの花子さん』とかそういうヤツでしょ?」

「まさにそのとおりっすね。不思議の一つは『トイレの花子さん』っす」

「まあ、定番だもんね」

「でも、学校七不思議ではないっすよ」

「どういうこと?」

「噂になっているのは『天倶町七不思議』っす」

「つまり、町全体に七つの怪談があるってこと?」

「そうらしいっす。『トイレの花子さん』は天倶小学校の女子トイレですけど、他の六つの不思議は校外の話っすね」

「なるほどね……怪談かぁ」


 以前の深織だったら『馬鹿馬鹿しい』の一言で切り捨てていただろう。

 怪談なんて信じていなかった。

 だが、今の深織は少し違う。


(少なくとも、幽霊はいたわ)


『天狗の占い屋』で楓林が見せた不思議現象。

 彼が本当に天狗の末裔かどうかはともかくとしても、目の前に死んだ祖母の幽霊が現れたのは事実だ。


(幽霊が実在するなら、本物の怪談があってもおかしくないのかしら)


 そう考えれば、少しは興味もわいてくる。


「いいわ。詳しく教えて。どうせ他に取材するネタもないしね」

「了解っす」


 それから、深織は伊都子から七不思議の詳細を教えられた。

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