1-5 占いの正体は?
目上相手だったので一応『ですます調』で話していたが、それもやめだ。
深織の言葉に、優占は「ほう」と言って目を細めた。
「世の中に、自分は正義や真実に反しているなんて自認する人間はそうそういないわ。ましてや、新聞部の部長で、しかも児童労働の告発なんて考える人間ならなおさらよ」
そう。魂の色なんて関係ない。
これまでの会話で簡単に当てられることだ。
「それに友達に理解してもらえないって悩みの一つや二つ、小学校高学年にもなれば誰だって抱えているわ」
もちろん、優占が深織を尊敬しているなんて言葉は占いではない。
本心でもないだろう。
さっきはちょっとだけキュンとなってしまったが、冷静に考えれば単なるセールストークにすぎないとわかる。
優占は「なるほど」とうなずいた。
「深織さんは本当に賢い方ですね」
「そんな風に褒めても無駄よ。優占さんの言うとおり、私の感じたことを率直に天小新聞に書かせてもらうわ」
別に深織は優占に恨みがあるわけではない。
だが、こんないい加減な占いは好きになれなかった。
「おやおや、これは困りましたね」
困りましたと言いながら、優占は余裕の表情を見せていた。
深織は少しイラっとしてきた。
「小学校新聞だからってバカにしないでよ。今は小学生だってインターネットやSNSくらい使えるんだから。噂なんて簡単に広まるわ。コロッケ屋のおばちゃんだって、占いがインチキだって気づくんじゃないかしら?」
優占はうなずいた。
「なるほど。ですが、そもそも占いなどというモノは……」
「当たるも八卦当たらぬも八卦とでも言いたいの?」
「ええ、昔からそう申しますでしょう?」
「私、その言葉嫌いなの。なにしろ私は真実と正義を追求するジャーナリストだもの」
「ということは、やはり占いは当たっていたんですね」
「ごまかさないで。占いじゃなくてバーナム効果でしょ」
「ふむふむ。深織さんはやはり頭脳明晰ですね。それに小学生とは思えないくらいの知識も持っていらっしゃる。楓林にも深織さんの爪の垢を煎じて飲ませたいくらいですよ」
「お褒めいただいてありがとうございます。そうやって商店街の女性の心をつかんできたのかしら?」
人が占いにハマる理由は『当たるから』だけではない。むしろ個人情報や私生活を全部当てられまくったら、お客は不気味に感じて逃げ出してしまうだろう。
優占が今やっているように、相手のことを『尊敬している』とか『頭脳明晰』だとか褒め称えていい気持ちにさせるのもテクニックなのだ。
さらにいえば、優占は自分が美形であることも利用している。この顔でニッコリ笑いかけられれば、多くの女性はドキンと胸が高鳴ってしまうだろう。
事実、深織だって一瞬キュンとなってしまったくらいだ。
だからこそ、深織は言ってやった。
「でも、優占さんの話術はそこまで上手くないわね。長年修行した占い師や詐欺師なら、もっと高度な技術を持っているわ。小学生に見破られちゃう時点で低レベルよ」
「これは手厳しい。占い師と詐欺師を同列に語られるはあまり愉快ではありませんが」
「似たようなモノよ。そのうち『霊験あらたかな壺』とかを商店街の人たちに売りつけるつもりなんじゃないの?」
「そんなつもりはありませんよ。『天狗の占い屋』は健全経営。相談料は三十分三千円です。たしかに先ほどの占いは深織さんのおっしゃるとおり、いわゆるバーナム効果を使っていますが」
「認めるのね」
「ええ、もちろんですとも。ですが、私は人々の悩みや不満を解決して前向きに生きるお手伝いをしているだけです。そこに占いやバーナム効果を利用しているのは事実ですが、救われたと感じている方がいるのも否定はしてほしくないですね。本職のカウンセラーも同じような話法を上手く使って人々を救っているかと思いますが」
一瞬納得しそうな言い分だった。
しかしそんな反論は予想の範囲内だ。
「カウンセリングを受けるなら、『占い屋』なんて怪しげな相手よりも、専門の資格を持った先生を頼るべきだと思うわ。それにさっきも言ったけど、優占さんの技術は専門家よりも低いわよ」
言ってからちょっと後悔した。
今回の目的は天小新聞に載せる記事の取材であって、この場で優占をやり込めることではない。あまり意固地に論破してしまうと、これ以上の取材ができなくなりかねない。
本来なら、ある程度相手を褒めて色々話を聞くべきだった。
(ダメね。真実と正義を追求した結果、相手を怒らせて取材をおじゃんにしちゃうなんて本末転倒じゃない)
だがどうにも腹が立ってしかたがなかったのだ。
深織を認めているようで、結局小学生だとナメられていると感じた。それに、優占が口でなんと言おうと、そもそも三十分三千円の価値がある占いともカウンセリングとも思えなかった。
(やっぱり日を改めてでも伊都子ちゃんと一緒に来るべきだったかなぁ)
こういうとき、伊都子が一緒なら上手いことフォローしてくれるのだが。
一方、優占は特に怒った様子も見せなかった。
「深織さんはさすがですね。知識も頭の回転もすばらしい。ですが、人生の
深織はさらに不機嫌になった。
「それこそ、正論で論破して私をイラッとさせる言葉ね」
「なるほど。おっしゃるとおりですね。これは失礼いたしました」
優占はそう言ってうやうやしく頭を下げてみせた。そのわざとらしさがますます深織の癇にさわった。
深織は立ち上がりながら言った。
「もういいわ。『天狗の占い屋』がどういうお店かはよくわかったから。ご希望どおり、私が感じた真実を天小新聞に書かせていただきます」
が、その時だった。
それまで入り口で黙っていた楓林が言った。
「アンタさぁ、いい加減にしろよ」
深織は楓林の方を見てたずねた。
「どういう意味?」
「いきなり店に押しかけてきて、営業妨害がしたいのか?」
「私は真実の報道を……」
「ふーん、だったらオイラが本当に当たる占いっていうのを見せてやるよ」
楓林は冷たくニヤついた。
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