1-2 商店街で取材しよう
その後、深織たちはいったん帰宅してら商店街で聞き込みを開始した。
いきなり『天狗の占い屋』とやらに乗り込むわけにはいかない。取材の基本は足を使った地道な捜査である。
突撃取材するにしても事前の情報収集は欠かせない。
そんなわけで、以下商店街で聞き込みした結果だ。
○証言者一:コロッケ屋のおばちゃん
「『天狗の占い屋』のことが聞きたいの? ええ、たしかによく行くわよ。すんごいよく当たるの。それにとっても美形の占い師さんなのよぉ。私があと五歳も若ければデートに誘ったのにねぇ」
(補足)おばちゃんは既婚者で、お店の調理場ではおじちゃんが苦々しくにらんでいた。ちなみに買い食いしたコロッケはおいしかった。
○証言者二:本屋でバイトをしている大学生のお姉さん
「そうそう、たしかにチョーイケメン! お手伝いしている楓林くんもカワイイし! なんか通っちゃうのよねぇ。え? 占いを信じているかって? うーん、そこそこ当たってたけどバーナム効果って言われればそのとおりかもね。でもあのルックスでやさしく微笑まれちゃうとねぇ。私の彼氏よりずっとやさしいし。彼氏はデートのたびに金貸してくれしか言わないしさ……」
(補足)以下、本題と関係ない彼氏への不満に二十分付き合わされた。
○証言者三&四:公園で遊んでいた三年二組の女の子二人組(神保楓林の同級生)
「楓林くん? ナマイキー」
「でも顔はかわいいよー」
「占い? うーん、よくわかんない」
「占いは売らないよー」
「きゃっはは」
(補足)ここで十七時半をすぎたのでお母さんに手を引かれそれぞれ帰宅した。
○証言者五:公園で黄昏れていた大学生のお兄さん
「ああ? 『天狗の占い屋』? 知ってるよ! あのやろう、俺の彼女をたぶらかしやがって! 俺とのデートよりも占いを選ばれたんだぞ! 俺の立場完全にねーよ! なんだお前ら小学生なのにイケメン占い師に興味があるのか? やめとけやめとけ。あのやろう、いつかぶん殴ってやる!」
(補足)ちなみに、証言者二の彼氏さんらしい。
そんなこんなで聞き込み取材を終えた時には十八時。
二人で公園のベンチに座ってジュースを飲んで「おつかれさま」とねぎらいあった。
伊都子がここまでの取材内容をメモした手帳を読み返しながら言った。
「疲れただけであんまりいい証言えられなかったっすねぇ」
「ふふふっ、伊都子ちゃん、甘いわね。ここまでの証言で何も気づかなかったの?」
「へー、部長は何かわかったっすか?」
「もちろんよ! まず、『天狗の占い屋』は実在している! そして、そこで我が校の神保楓林くんが働いている!」
「いや、だからそれは最初からわかっていたことじゃないっすか。そういう噂があるって言いましたよね?」
「違うわね。伊都子ちゃんの話は単なる噂。取材でそれが裏付けられたというべきよ」
「そりゃまあ、そうっすね」
「あと、占い師はイケメン。ついでに楓林くんもかわいいと」
深織がそう言うと、伊都子はちょっぴりあきれ顔になった。
「なんすか? 部長も美形占い師に興味ありっすか?」
「そうじゃなくて! 女性客が信じるのも無理ないなぁって思ったの」
「はぁ? 占いとルックスって何か関係があるんすか?」
「バーナム効果は相手に好意を持ってもらった方がひっかけやすいの。それこそ、美形の男に『あなたは寂しがり屋の一面がありますね』なんて言われたら、夫に不満のあるおばさまなんてイチコロよ。さっきのコロッケ屋のおばちゃんみたいにね」
「コロッケ屋のおばちゃんに対して激しく失礼な気もしますけど、わからないではないっす」
「いずれにしても、我が校の児童が不法な児童労働をさせられているとしたら由々しき事態よ。ジャーナリストとして黙っていられないわ。さっそく『天狗の占い屋』に突撃取材行くわよ!」
燃えあがる深織。だが、伊都子はあっさり断ってきた。
「あ、それムリっす」
「なんでよ?」
「私、これから塾っすから」
「そんなのサボりなさいよ! 真実の報道のためには……」
「無茶言わないでくださいよ!」
「えー、だってスクープがぁ」
「はいはい。なんにしても今日はもう無理なんで、どうしても取材したかったら部長一人でお願いするっす。それじゃ、また明日~」
そう言って伊都子はあっさりと立ち去った。
一人残された深織はどうしたものかと考えた。
たしかにそろそろ夕暮れ。その後は当然のことながら夜だ。夜間に小学生がむやみに歩き回るのは褒められたことじゃない。
そのくらいは深織だってわかっている。
だが……
「取材に多少の危険はつきものよね! そんなことを恐れてジャーナリストはつとまらないわ!」
誰にともなくそう口に出してから、拳を握って深織は立ち上がった。
(こうなったら、私一人でも突撃取材を決行してやるんだから!)
目指すは『天狗の占い屋』だ。
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