第18話 「鉄仮面の乙女」

 ◇


【及川邸・寿限ムの部屋、新歓合宿前夜】


「よーし最終確認だ、何か忘れモン無いよな……?」


 寿限ムはふかふかのベッドに胡坐をかきながら、空中に表示されているアイテムボックスの中身を眺めていた。

 何を隠そう、明日は待ちに待った『新歓合宿』の日である。やべっ、メッチャワクワクするんだが!? ただいま夜中の11時。明日は起きたら朝イチで出発だ。


 ……オーガとのリベンジマッチの時もそうだった気がするんだが、『前日の夜』ってやけに興奮するんだよな。この現象、科学的に名前とか付いてないんだろうか。

 そして寿限ムは、ふとスマホを手に取る。


「なあキリカ」

「……ジュゲム? 何、急に電話なんかして来て」

「旅行前の夜ってメッチャワクワクするけど、アレって名前付いてないのかな?」

「……そんなの付いてる訳ないでしょ。……まあ、敢えて言うなら『報酬系のドーパミンの活性』ね。こんな話をするために電話して来たの?」

「まあな。明日、楽しみだな」

「……そうね。……Je t’aime.」

「え、何て?」

「じゃあね、ジュゲム。おやすみ」


 ……プツリ。電話を切られてしまった。

 まあ、こっちから急に電話したんだもんな。仕方ないか。そして寿限ムは再度アイテムボックス画面を表示させる。


 ──勉強道具よし! うな丼の餌よし! ゲームよし! あと何か必要なものは……


「あ、やべっ、水着忘れてた。一番忘れちゃダメなヤツだろコレ……いざスキルで作って、マジでダサい水着とか出来たら嫌だからな……」


 ◇


 ──そして、翌朝。

 

「まさか俺としたことが、『ピアノ』を忘れるなんてな……」


 寿限ムは及川邸の表玄関の前で、ボソリと呟く。同じく玄関の外にやって来た詠羽がそれを聞きつけて、何やらドン引きした様子でこちらを見つめてくるのだった。


「おい新人ルーキー、まさかとは思うが、この我に合宿中もピアノを教えろというつもりじゃないだろうな……?」

「ああ、1週間の合宿で、ピアノ教室も週1……つまり、合宿中にピアノ教室の開催決定だ」

「フッ……全く、ずいぶん余裕だな。これから『地獄の新歓合宿』が待っているというのに」

「ふっふっふ……まあ俺もエバの知らない内に、更に強くなったってトコかな……?」


 ニヤリ、そう言って寿限ムは不敵な笑みを浮かべる。

 協会ビルの無人島で散々オーガと戦ったことで、今やLv抜きの『吉田寿限ム自身の戦闘経験値』はカンスト状態。どんな敵もどんと来い! だ。


 そしてそれから桃、刻花、令、戻子……と続々とギルドのメンバーが玄関の前に揃ってくる。さてと、そろそろ出発かな……と寿限ムが思った所で、再び及川邸の扉が開き始めたのだった。

 

「……行ってらっしゃいませ、お嬢様」


 扉から姿を現したのは、執事の姿をした機械人形『ジェバンニ』。この屋敷の管理を行うロボットたちのリーダー的存在だ。そして、その隣にいたのは──


 …………。


 隣にいたのは……?


「……うん、私たちは1週間ここを離れる、から。その間、他のロボットたちと屋敷のこと、お願い……」

「承知しました、お嬢様」


 ──鉄仮面。それは、そう呼ぶべきだろうか。

 マスクと仮面が一体化したような、そんな金属光沢の物々しいナニカを顔に装着した少女が、『ジェバンニ』にお辞儀を返している。


「……もしかして、あの子が三廻みくるさんですか?」

「ええ、そうよ。彼女のジョブは『人形遣いドールマスター』。このお屋敷のロボットたちは全部彼女が召喚したものなの」


 驚いた様子の桃に対し、刻花が説明する。

 三廻のジョブスキルは、半径500メートル内を自由に移動できる自律人形を召喚するというもの。しかしスキルの制約として、彼女の召喚した人形は、三廻の半径500メートルを離れると消失してしまう。

 だが──執事型人形の『ジェバンニ』だけは、三廻の傍を離れても存在し続けられる唯一の例外だった。また『ジェバンニ』は他の人形たちのハブとしての機能を持ち、彼の半径500メートルであれば、主である三廻が居なくても存在できる。


「あのロボットたちって、全部ミクルが召喚していたのか……スゴイなお前! よろしく、ミクル!」


 ジュゲムは思わず三廻に駆け寄っていた。確か名古屋で一人、人形遣いの少年を見たが(バスジャックの少年だ)、それと比べても明らかに別格だった。 


「あ、あの子たちは戦闘能力は皆無だから! 大したことないです、はいぃ……」


 三廻は寿限ムの言葉に、体をモジモジさせて恐縮している。それにしてもこの三廻って娘、初対面にしても相当緊張してないか?

 そして同じく初対面の桃も、三廻に向かって声を掛ける。


「いえ、そんなことより! ……胸おっき……じゃなかった、三廻さんはどうして仮面なんか付けてるんですか?」


 ……おいコラ桃。仮面の話をするにしては、不自然に視線が下に行ってるぞ。

 三廻もどうしていいか分からず困っている様子だ。


「あ……それは、その……」

「それは、三廻は恥ずかしがりやだから。初めての人に顔を見られると恥ずかしいんだって」


 すかさず令が補足する。

 な、なるほどな……。自分は初対面の人相手でも、そこまで緊張したりはしないのだが。三廻はそこでかなり緊張してしまうようだ。それにしても、その仮面の下……気になる……。


 そしてひとまず初対面の挨拶も終わり、寿限ムたちは車に乗り込む。


 ……ちなみに本日の運転は令ではなく、三廻の召喚したメイドロボットだ。後部座席に座る令は一言「楽でいいね」。あ、いつもお疲れ様っす。

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ダンふれっ! ~デスゲームと化した世界。ダンジョンで仲間たちと送る、゛退屈しない〟日常~ 桜川ろに @Sakura_kuronikuru

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