【掌編小説】夜間飛行【練習】
沙路 涼
第1話 夜間飛行
テーマ:「違い」「星」
制約「登場人物に違った考えを持たせること」
「アフターテイクオフチェックリスト、オールコンプリート。」
「機長、お疲れ様です。今日は風が強くて雲も厚いですけど、あとはこのまま上がっていくだけですね。後で雲の上に出たらCAにコーヒーでもお願いしましょうか?」
機体は風の影響で小刻みにまだ揺れていた。
「ああ、長谷川君頼む。今日は……星がきれいだといいんだが」
「星ですか?僕はちょっと……」
ちらりと見る副操縦席に座る長谷川君の顔は曇っていた。
「星がどうかしたのい?私たちパイロットにとっては夜間飛行なんてご褒美で、星空に一番近い仕事じゃないか」
「見るたびに辛い記憶を思い出すので僕は嫌いなんです、星」
話しながらも計器を見る。レーダーを見ると進路上に分厚い雲の層が渦巻いていて少し荒れそうだった。
「パイロットになって星が嫌いな奴がいたとはなぁ……」
「長距離を飛ぶ国際線に回されたのが初めてでして、今回が初の夜を通してのフライトなんです。だからあまり星空には縁がなくて……」
激しく雨がコックピットの窓を打ち始めて機体の揺れが大きくなる。レーダーを見ると雲の上に出るまでこの雨は続きそうだ。
「機長、実は僕、宇宙飛行士になりたかったんです。でもそれがかなわなくて、挫折してしまったんです。星を見るとそれを思い出してしまって……」
雨や気流にもまれてエンジンのスロットルレバーが自動で微調整のため動き始めている。強めたり弱めたり振り子のように何度も同じ所を行き来していた。
「……この雨も風もな、いつかは終わりがある。星空はいいぞ、まるでこの飛行機があの遠くの星まで飛んでいけるような気分だ。宇宙飛行士になりたかったってことは本当は誰よりも星の事がすきなんだろう?」
雨はまだ操縦席の窓を打ち付けている。
「本当は誰よりも好きでした。僕は毎日望遠鏡を担いで人里離れた山の上で星を見ていました。そして手を伸ばしていつかあの見えてる星へ行きたいと、宇宙へ行きたいとずっと思ってたんです。でも、でもそれは叶わなかったんです!」
長谷川さんは苦しそうに下を向き、最後は声を荒げてしまっていた。
「長谷川さん、前を見てごらん」
飛行機は雲の海原を抜け、星空の中にいた。
「……星が、星はこんなにもきれいなんですね……」
空には天の川が流れ、月が雲の海原を照らし、海原の隙間には星のような地上の光が見える。息をのむ美しさだった。
「……きれいだろう?」
「……っ、ええ、とてもきれいです……」
長谷川さんの肩が揺れていた。
「嫌な思いもあるだろう……だが好きなものに蓋をしても苦しいだけなんだ。ここらでどうだい、飛行も安定してきたし私がCAから二人分のコーヒーでも貰ってくるというのは?」
「すみません、お言葉に甘えさせていただきます」
操縦席を出るときに見る長谷川さんの顔は目じりに涙をためながらも上を向いて笑っていた。
読んでいただきありがとうございました。この小説は二つのお題から物語を1時間程度で書き上げる練習をしています。制約などをつけて自分に足りないものを身に着けようと努力しています。1時間で止まらずきれいに書き上げるのはかなり苦しいですが少しずつ形になってきてるのかもしれません。拙い文ですが頑張っていきます。
【掌編小説】夜間飛行【練習】 沙路 涼 @sharo0826
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