セカイ系概念話談

「私は死んじゃうけど、その代わり世界を救えるボタンがあるとしたら、あなたは押す?」

「押さない」

オレは間髪を入れずに答えた。押すわけがない。


「うん、君ならそう言うと思った。でも、私は君に押してほしいな」

「…なんで。誰にも押させない。ちゃんと守るから」

「押さないと世界が滅ぶんだよ?私、全世界の人と心中することになっちゃう」

「押さなければお前は死なないんだろ?」

オレが指摘すると彼女はあっと言って少し考え込む。


「じゃあじゃあ、私を犠牲にしなかったら全世界破滅ね。私はどちらにしても死んじゃうの」

「だとしても押さない。お前を犠牲にした世界で生きながらえたくない。それに、お前がいなくなったら、オレにとっては世界が破滅するのと変わらないから」

オレは彼女の手をギュッと握りしめて彼女の目をジッと見る。しかし彼女は眉尻を下げてオレの目を見つめ返した。


「私が死んでもあなたの世界は終わらないよ」

オレの手をギュッと握り返される。


「そんなことわかってる」

声が震えた。


「本当に?」

まっすぐ見つめてくる彼女の瞳が眩しくて、目を逸らしてしまった。


「私が死んだら、あなたは後を追ってきちゃうんじゃないか心配なの」

オレは何も言えず、俯くしかなかった。


「こっちを見て。ちゃんとおじいちゃんになるまで生きるって約束して」

唇を噛みしめながら、顔を上げて彼女の顔を正面から見つめた。

ひどく真剣な顔をしていた。


「わかった。ちゃんと、君の分まで、精一杯生きるよ」

見つめ合ったまま、オレは答えた。

震えた小さな声だったが、それを聞いて彼女は満足げにうなずいた。


「うん、君ならそう言ってくれると思ったよ」

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てのひらサイズの些末なお話 九条 柊 @kujouhiiragi

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