第31話

 これって不法侵入にならないのかなぁ?錐人はそんな事を考えていた。流されるまま付いて来たがこの場所は何処となく不穏な感じがする。もう直ぐ八月になろうというのに酷く冷え込んでいるし。

 地図を辿って到着したのは、書庫と思しき部屋だった。冊子や巻物が所狭しと並んでいる。

 他の3人は思い思いに蔵書を見聞している。僕も本の背表紙などを流し見していた。

 玄冬、玄武といった文字が多く目につく。そんな中、僕の視線は一冊の古書に釘付けになる。

 読み辛いが[勿朽家]、そう書かれていると思われる。

 僕はその本を手に取り恐る恐る中を確認すると、そこに記されていた一節に息が止まる。


 黄昏より齎されたる玄武、亀蛇神二対一体の霊獣なりて玄冬のみで御す事叶わず。西の地に大蛇を封じる巫女有。玄冬、その末を娶り勿朽とす。以来勿朽の血流る娘を贄として蛇神を抑える事を成す。


 勿朽が贄?早鐘の鳴るような鼓動を必死で抑える。落ち着け、勿朽と玄冬先輩の会話を思い出せ。勿朽は卒業する迄と言った。つまりそれまでは大丈夫な筈だ。

「こんな所で屯しているのは一体誰かな?」

 そこで部屋の入り口から一つの影が入って来た。楓と同じくらいの身長の黒髪の少女だった。

「手前等は一年玄武組の生徒です。貴方は?」

 鹿島が前に出て尋ねる。

「この私は玄冬氷冥げんとうひょうめい。三年玄武組の担任さね」

 教師⁉︎中学生くらいにしか見えないが。それよりもこの名前と雰囲気は…

「で?君達はどうして此処に?」

「えっと〜、この地図が何を示しているのか知りたくて〜」

 玄冬先生の問いに築茂が地図を広げて答える。

「この字は…君の名前は?」

「うちは築茂柘榴だよ〜」

「やはり、君の母親とこの私は学生時代の友人でね。よくこの部屋に入り浸っていたんだ」

「へぇ〜、お母さんと〜?」

「今回は見逃すが、此処は本来立ち入り禁止だよ、出ていくんだね。そうだ、柘榴ちゃん、この私の部屋に来るかい?昔の母親の写真でも見ると良い」

「わ〜、行きます〜。水君達はどうする〜?」

「遠慮しておくよ。手前らは寮に戻る」


「拍子抜けだね。まぁ暇は潰せたから良いか。ん?どうした二人共、顔が怖いよ」

 寮の自室へと僕達は歩く。まだ頭は混乱している。

 勿朽の為に僕は何か出来るのだろうか?答は容易に出そうも無い。

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忍days 空野夜靄 @cryptic_shark

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