第八話 感想戦



「グサァーーーーーー!!!!」


 

 少女が大仰な身振りで、刃物を青年へ突き刺す動作をしながら、声で突き刺す音を発した。


 その不穏な効果音に反して、その声には心底愉快だといった様子の、明るい声が混ざっていた。



「……という訳で無事退院だな。おめでとう!」


「私も、キミの彼女として、とても嬉しいよ!」



 からからとご機嫌に笑いながら言う彼女に、先ほどまでの陰鬱な表情は無い。



「いやぁ、退院の話も出てきたので、この妹役もどこで止めるべきかと考えていたんだがね」


「キミが、記憶が戻った話を切り出したので、良い頃合いかなと思ってね」


「とりあえず、キミも座ったらどうだ?」



 彼女が青年に手を向けると、青年も笑いながらその手をとった。


 そのまま、ベッドの上に並んで座る。


 

「さて、との事だが、少しは役に立ったかい?」



 ――。



「――いやいや、私だって驚いたさ」


「酔って階段から落ちてしまい、それで入院したという話だけでも、私にとっては驚きだったというのに」


「まさか 『妹に看病されてみたいから、妹役を頼む!』 なんて、意味不明なお願いをされるとはね」


「――全く、キミは大事な彼女を何だと思っているんだい?」

 

 

 ――。



「何? その割にはノリノリだったじゃないかって?」


「そ、そんなことないぞ。私も役者しごとの勉強になるかなと思ってな」


「劇団員さまはいつも勤勉だって?」


「……まあ、皮肉が言えるぐらい回復したのだから、良かったという事にしておこうか」

 

「しかし、どうだった? 私の妹役は」



 彼女は青年をのぞき込むように、期待のこもったまなざしで見つめてくる。

 

 

「ははは! 興奮しただろう? 妹が欲しくなったか?」


「題して、『お兄ちゃんが好きで好きでたまらない 健気で可愛いちょっとミステリアスな妹ちゃん』だよ」


「なかなか改心の出来だったと思うのだが」



 ――。

 

 

「……なに? ミステリアスの意味を間違ってる?」


「あれだと、ちょっとエッチで病んだ妹だって? そ、そんな訳ないだろう!?」


「なに? 『でもいつも通り、格好良くて可愛い所もあった』って?」


「……そういうズルい事を言うのはこの口かな? あ・に・く・ん?」



 青年の頬を少女の両手が引き延ばす。


 言いながら、彼女の声は弾んでいた。

 

 

「ん? 驚いたといえば、あれは本当に驚いたって?」

 

「ああ、お弁当の時かい」


「いくらなんでも大胆過ぎだって?」


「そうなのか? 妹とは、ああいうものでは無いのか?」


「そういうゲームやマンガの読み過ぎだって?」


「ふむ……」



 顎に手を当て、少し考えるように目を瞑る彼女。


 しばしの間をあけ。


 

「よし!」

 

 

 何かを思いついたような声を上げると、突然青年をベッドへ押し倒した。


 倒された青年の真上から、彼女が少し興奮した声で語りかける。



「さて、キミはこれからどうなってしまうのかな?」


「……え? 突然どうしたって?」


「いやあ、だって、なんだか悔しいじゃないか」


「大胆過ぎたって事は、つまりわたしに興奮してしまったんだろう?」


「それなら、私で上書きしないとね」


「だって、キミの彼女はわたしではなく私なんだからさ」



 彼女が置いてあったペットボトルに口をつけた。



「んっ……」

 

(こくっ)

 

 彼女はそのまま、口の中にドリンクを入れると。


 そのまま、青年の唇に自分の唇を合わせた。



「んっ……。んっ……」

 


(こくっ、こくっ)

 のどに、先日と同じように水分が流し込まれていく。



「……っぷはぁ」


「ふふ……。どうだい。興奮しただろう?」


 

 満足そうな顔で青年をのぞき込む彼女。



「いやはや。よく考えてみればデートも何もかも、随分とご無沙汰じゃあないか」



 耳元から、少し上気した彼女の声が聞こえる。

 

 

「退院したら、色々と覚悟するんだよ?」


「キミは、私の彼氏なんだからさ」



 そして、少し恥ずかしそうにしながら、顔を密着させるように寄せてくる彼女。


 少しの間をあけて彼女が言う。

 


「……」

 

 

「妹は難しいけど、娘は、もしかしたら作れるかもしれないね……?」







~~Fin~~







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王子様みたいな『自称』妹さんに、退院するまでめちゃくちゃ可愛がられてドキドキさせられてしまった話 すっぱすぎない黒酢サワー @kurozu_3

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