第14話 礎静町の戦い③

 礎静町 女将の宿前


 次々と怪我人や避難民が運ばれ始め、殆どの住人がこの周辺に溢れかえり、ひしめき合い、端の方まで手が回らなくなり始めている。


「重症な奴はこっちに!怪我が軽い奴は外で対応しな!絶対に死なすんじゃないよ!」

 指示と檄を飛ばし、自分を鼓舞するが明らかに手が足りてない。

 動ける奴以上にどんどんと怪我人が増えていき、このままで先にこちらが潰れてしまう。

 全力で対応していく女将の耳に、外から阿鼻叫喚の叫び声が響く。

「女将さん!外に能蜂が!」

「!!」


 勢いよく扉を空け辺りを見回すと丁度怪我人が密集していた場所に降り立っているのか、その方から人がなだれ込んでくる。

 どうやらその場で少しでも動ける者達が対応しているようだが、当然太刀打ち出来るわけも無くたった一匹に追い詰められていく。


 キチキキキ…!

 顎を鳴らし、笑う様な気色悪い音を立てて暴れ回る能蜂。

 その場にいる誰もが敗北と死を予感し始める、元々勝てる訳のない戦いに巻き込まれた住人達も戦うと決めた傷ついた任侠達も、全員が終わりを感じ、覚悟を決めた瞬間


 バチィ!!


 突如、空から降り注いだ雷が能蜂を切り裂く。


 全員が唖然とし、落ちた雷の正体が人間だと理解するのにほんの僅かな時差が生まれるほどに一瞬の出来事だった。

「無事か?」

 その声を聞いた瞬間、辺り一体に歓声が巻き起こる。

「何だ?そんな危なかったのか?」

 皆が泣いて感謝し、女将もほんの僅かに安堵の表情を浮かべ即座に辺りへ呼びかける。

「まだ安心すんじゃないよ!!勝つまで気を抜くな!!」

 その言葉に一瞬静まり返った皆が各々の返事を返し、下がり始めていた士気が格段に上がりはじめる。


「すぅ…あんたー!ありがとねー!」

 歓声の中、女将は晃次郎へ大声で感謝の言葉を投げつける。

「大袈裟だっての!誰も死ぬなよ!」

 晃次郎もそう返し、感謝と期待を一身に受けながら再び前線へと走り去っていった。


 前線へと向かう途中、晃次郎の頭に彼しか知らない疑問が一つ過ぎる。

(…にしてもあいつら遅ぇな…終わっちまうぞ…)

 少し不安に思いながらも、それを振り払うかのように能蜂の群れへと突っ込んだ。





 金菊邸 二階 裏大広間


 背中合わせの麗と千彩がそれぞれの敵に相対している。


「…はぁ…………はぁ…」

 その中で、誰にも気づかれない様に耐えていた千彩の体が密かに限界に近付いていた。

「…うッ…」

 蜂子の毒針が頬を掠めた瞬間から、少しずつ千彩は毒に蝕まれている。


 ほんのりと霞む視界、ゆっくりと痺れ始めていく手足、襲い来る強烈な倦怠感と疲労感、時折心臓付近に過ぎる、鉄臭い嘔吐感。

 その全てが千彩の戦意と意識を削り、常人ならば死を覚悟するであろう程の苦境に彼女は、強靭な意思と覚悟、そして怒りによって対抗していた。


「……すぅぅぅぅ…」

 大きく、深く息を吸い、刀を担ぐ様に構える。

「"凡熱の赤はんねつ あか"…」

 爆発したかに思える程の速度、全身に火を纏ったかの様に赤い一直線の火の軌跡を描きながら、突き進む。


「"真火一文字しんかいちもんじ"…!!」

 能蜂の反応を許さない速度で繰り出される横に振り抜かれる一太刀。

 当然、最前に居た能蜂の胴と頭が別れ、そのまま燃え尽きるように消滅していく。


 残りの四体はすぐさま離れようと耳障りな羽音を立てて、飛び立つ為に僅かに体を浮かせた瞬間、その内の一匹の羽根と首が火の一本線に切り落とされ、消滅する。


「……ふぅぅぅ…」

 二体目を斬り伏せた瞬間、大きく息を吐き、辺りに飛び回り始めた残りの三匹を見る。

(ここからが…本番…!)


 改めて刀の柄を強く握り、目の前に飛び回る三体の異形から目を離すまいと、その意識を向け続けている。

(全員…一撃で斬り伏せる…!!)

 そう決意した千彩は、改めて剣を固く握り直した。






 ガキィン!


 その後ろで繰り広げられる戦いも徐々に激しさを増す。


 麗の刀と蜂子の毒針がぶつかり合う音が鳴り、残響止まぬまま、新たにぶつかる音によって寸前の音が鳴り潰される、それを何度も繰り返し、周囲に止まない剣撃音を生み出し続けていた。


「どうして…どうして貴方がここに…!能蜂は!?蜂太は!?貴方、一体何をしたの!!」

 蜂子は戦いながらも、怒り狂って叫び散らす。


 自身の体力度外視の速度で、時には空を飛び、時には地に足をつけ、緩急や死角からの攻撃も巧みに行い、立体的かつ変則的な動きで麗を翻弄し、少しずつ追い詰めていく。


「私は、何もしてない!」

 それを全てギリギリで弾き返し、時には躱して反撃しようと剣を振るう。


 麗自身は剣術どころかまともに刀を振った事が無い素人である、よってその太刀筋は滅茶苦茶で本来は一振り事に大きな隙が生まれる。

 しかし麗自身が持つ身体能力と反射神経、危険予知能力に似た天性の勘によって、全ての攻撃を奇跡的かつ的確に捌き、その隙を帳消しにするどころか、反撃の隙すらも作り出し始めていた。


「親分と皆が守ってくれたから何とかここまで来れた…!」

「はっ! 貴方の親分なんて、とっくにへし折れた老いぼれでしょ!?」

「違う!親分の事知らない癖に分かった口を聞くな!!」


「誰よりも分かるわ! だって…」


 蜂子が麗とすれ違う瞬間、静かに耳元で告げる。


「あいつの妻は、私の姉なんだから」

「…え…?」



 その言葉を聞いた麗の脳が、一瞬闘いを忘れるほどの困惑に呑まれる。


 その一瞬を見逃さなかった蜂子は直撃ではなく、敢えて掠めるだけの顔面に攻撃を放った。


「っ!」


 ピッ…!

 直撃では無い事を察した事、動揺により反応が遅れた事で冷静さを失っていた麗は、無理に攻撃の真意を読み取ろうと混乱してしまい対処出来ずに頬へと毒針が掠り、その部分から血が滴り落ちた。


「…痛った…」

 愚痴る様に頬から滴る血を拭うが、少し拭き残した分が伸びて頬に残ってしまい、結局傷口の血も止まらず再び頬が赤い血で染まっている。


「…ふふ…くく…あっはははは…!」

 その姿を見た蜂子が堪えきれないと言わんばかりに口角を上げ、楽しそうに大笑いをあげいた。


「やっと…やっと喰らってくれたわ…!あんたも、そこの女ももう終わりよ!あっははは!」

「何を…!」


 …ドクン…

「っ…!」

 ドシャァ!

 踏み出そうとした麗の足が、まるで砂の様に頼りないものへと変わり、勢い良く前に倒れてしまう。


「…何…ぅぷ…!」

 全身が震えて視界が霞み、手足の末端が痺れて立ち上がることが出来ない、更に喉の奥から不快極まりない鉄の香りの液体がじんわりと上がってくる。


「はぁ………はぁ……ぅ…これ……ぅぉぇ…!」

 手で口を押さえるが遂には口から血を吹き出し、抑えた指の隙間からポタポタと漏れている。

「ぉぇ…ぶ…っ…ゲボ…!」

 遂に堪えきれなくなった麗の口から血の塊が吹き出し、全身から力と熱が外に出ていく感覚が一斉に襲う。


「ゲボ!うぶ……はぁっ…ぅぶふ…!!」

「…あっははは!……はぁ…」

(そうよ…!普通はその位効くのよ…!)

 満足そうに苦しむ麗を見下して、一通り笑い倒したら、後ろで戦う千彩の方を睨んだ。

(なのに…あの女…!)


 ズバァァ!!

 蜂子の目に、最後の能蜂を斬り伏せた千彩の姿が写る。


「ふぅぅ…」


 あくまでも冷静に大きく深呼吸し、次はお前だ、と言わんばかりに蜂子の方へ、燃え盛る冷酷な視線を向ける。


(何でまだ動けてるのよ…!)


 頬についた傷以外は一切ない。

 しかし口には血が垂れた跡が残っており、かなり毒に犯されているのが見て取れた。


「…ふふ、貴方も限界が近いんじゃない?」

「…先程の言葉、本当ですか?」

「ん?」

「貴方が親分さんの義妹だというのは」

「あぁ、そうよ…あのおっさんの妻が私の姉で、その姉は私が殺した、これで満足?」

「…成程…っ…納得しました…」

「……納得…?」


 ズリ…ズリ…

「…?」

 蜂子の後ろから何かが擦れる音が僅かに響く、それは静かな部屋には十分すぎるほどに耳障りな大きさだった。


 その音の正体に気づいた千彩は何故か構えを解いた。

 その光景に疑問を感じ、音のした方へと恐る恐る振り返った蜂子の目は、彼女にとってありえないはずの光景を写す事となる。


「…嘘…何で…」

「はぁ…はぁっ…!あは、あははは…!!」


 蜂子へ向けた表情には余裕と嘲け、そして死の淵にて自身の枷を破った快楽とも言える優越感を帯びた笑みを浮かべた麗が、自身の流した血溜まりの上に立ち尽くしている。


「何で…て!? とぼけてるの!? 貴方にも心当たりはあるでしょ…?」

「……心…当たり…」

「…ねぇ〜?叔母さん…?」

「…叔母…」

 ハッとした蜂子の顔が徐々に青ざめ、震えと共に顔中に脂汗が流れ始める。


「まさか…嘘……あんた…あの時捨てて…死んだ筈…あれで生き残る筈が…!」

「…残念だけど、半妖はそんな簡単に死なないんだよ…」


「あんた…あいつの…!」

「ま、今はそんな事は…どうでもいいよ…」

「は?」

「だって今、とっても…」

 麗の上半身のみが溶けるようにだらりと前に垂れる。


「気持ちいいんだぁ!!」

 その瞬間、蜂子の全力を超えた速さで麗が切りかかり

 ズバァ!グシャァ!

 蜂子の右腕を切り落とし、踏み潰す。

「!?!?」

「…あっははははは!!」ブン…!


 あまりに突然の事に混乱する蜂子は次に迫る攻撃にも対応できず、流れるように両足が切断された。

 スパパァン!!


「ぁぎゃぅ…!!」ドサ!

 その場でほぼ達磨の状態となり、残った左腕にも容赦なく刃が突き立てられる。

「さぁ!今度は貴方が味わう番だよ! 全身を切り刻まれる痛みをさぁ!!」

「ぁぎゃああああ…!!」


「ほぉら!今まで貴方がしてきた事だよ!皆はこんな気持ちだったんだ! あはははは!!」


 グリグリと刀を少しずつ捻り、蜂子の反応を見た麗の顔が快楽に取り憑かれた笑みに満ちる。

「ほらほら!!」ドスン!

「ぐふぉっ!」

 うつ伏せで倒れる蜂子の背中を叩くように強く座り、変わらず笑いながら蜂子を見ていた。


「…はぁ……はぁ…!! いいかげんに…!」

「あ? うるさい」ガシ!

 麗は口を開いた蜂子の髪の毛を掴み、全力で引っ張る。


 ブチブチと丁寧に手入れされた髪の毛が千切られ、その綺麗な白髪はくはつも頭をはなれた瞬間に輝きを失っていく。


「あ、そうだ」


 すると唐突に何かを思いついた麗が突き刺さっていた刀を抜き、蜂子の髪の毛へと振るった。


 スパ…!パラパラ…


「……え………そんな…うそ…!」

 目の前に散らばる己の一部だった髪。

 それがあまりにも軽く散らされた事を蜂子は受け入れることが出来ず、触って確かめようとした瞬間


「よーい…しょっ!!」グサッ!!

 動かした腕に刀が突き刺さり、上に乗った子供によって捻られる。

「い”…や"ぁ”ぁ”あ”あ”あ”…!」

 苦痛と恐怖に支配され、自尊心すらも粉々に砕かれ踏みにじられている蜂子は、ただ泣き叫ぶ事しか出来ない。


「ほら!!もっと泣きなよ!苦しみなよ!皆の…分まで!…親分の分まで…さぁ!!」

 麗が立ち上がり、蜂子の胸や腹に何度も蹴りを食らわせる。


「ゆ…ゆ”る”じ…で…! お、ねがぃ…!」


「そんなの虫が良すぎる…でしょっ!!あんただって、何度もそう言われたのにさ!!一度も!!聞き入れて!!無かったよねぇ?!ねぇってばぁ!!」ドゴ!ドゴ!


 まるで子供のように許しを乞う蜂子だったが、変わらず麗は痛め続ける。


 正当な理由を口にしているが、その表情はもはや仇討ちなどではなく、鬱憤晴らし…ですらないただ快感を得たいが為にしている行動にさえ思える程の笑みを麗は浮かべていた。


「…う…うぅぅぅぅ…!」

「あっはは!!どう!?これが皆の苦しみ!もっと味わっ…!!」


 泣きじゃくる蜂子に麗が、更なる苦痛を与えようとした次の瞬間


「やめなさい!!」

 千彩が飛び込み、麗を押さえつけた。


「その感情に飲まれては駄目!!戻れなくなる!!」

「ふんぎぎ…離して…!!もっと…もっと痛めつけないと…!!」

 千彩が抑えては居るが、妖魔の力に目覚めた麗と、毒に犯された今の千彩の力ではその差は歴然、振りほどかれるのも時間の問題だった。


「それは仇討ちじゃない!今の貴方は大義名分を使って自分の快感を満たそうとしているだけです!!」

「違う…!私は…!皆の代わりに…!!」

「貴方の親分は、そんな人ですか!?」

「…親…分…?」

 その単語を聞いた瞬間、麗の動きが止まる。


「…自分を苦しめた人を限界まで痛め付けて殺す事など、あの人はそんな事しないはずです! きっと一発だけぶん殴って、また笑って許してくれます! それが優しくて豪快な、貴方の大好きな皆の親分の筈です!」

「…!」

 その言葉を聞いた麗の力が完全に抜け、目から大きな涙を流し始める。


「どうですか?」

「……ぁ…ぅ…わ、私…また悪い事…」

「…今回は、大丈夫です…ギリギリ…」

 千彩の言葉が途切れ、糸が切れたかのように彼女の体から力が抜け、麗の上へと覆い被さる様に倒れた。


「…千彩さん!?うわ!顔色悪!」

 綺麗な肌色だった顔が血色の悪い青紫に変わり、呼吸も今にも止まりそうな程に荒く、浅い。

「…今すぐお医者さんに…!」


 ドサ…!


「……あれ?」

 麗が千彩を運ぼうと体を動かそうとするが、先ほどの反動か彼女も体力の限界を迎え、まともに立ち上がる事すら出来ていなかった。

「…早く…しないと…!」

 どんどんと千彩の顔色が悪くなっていく。

 麗は焦るが頭とは裏腹に体が動かない。


 ブブブブ…

「!!」

 そんな状況の中、何度も耳にした不快な羽音が聞こえる。


「ふ…ふふふ…」

 音の元凶は刺さっていた刀から強引に腕を引き抜き、羽を広げてその場に浮遊し、倒れる二人を睨む。

「…次は…私の番…よ」

「!!」

 斬られた四肢からは血が滴り落ち、真下には濁った色の血溜まりができており、所々床に染みている。


「千彩さん、やばいよ!起きて!逃げないと!!」

 必死で揺らすが千彩は変わらず目を瞑り、浅い呼吸で、吐きそうな程に苦しそうな表情を浮かべている。

 麗も千彩の襟を掴み何とか這いずりで逃げようとするも、当然殆ど動けていない。



「苦しめる時間すら煩わしい…」

 そう言って、割れた掌に再び鋭い殻を纏わせ、倒れる二人へと振りかぶる。

「死ね」

「…っ!!」

 麗は目をつぶり、死を覚悟する。


 しかし


 キォォォォ…!

 三人の真上から謎の風切り音が急速に近づく


 その音には誰も気づいていない、麗も蜂子も、それどころか礎静町の誰一人として。






 バゴォォォ!!

 風切り音が間近に迫った瞬間、黒い影が屋根を突き破り、麗の目の前の床へと激突した。


 辺りには風と共に砂煙が舞い上がり、麗の視界を奪う。

「きゃぁっ!!」

 数秒後、砂埃が僅かに晴れ、徐々に落ちてきた影の輪郭が浮かび始めた。


 天井に空いた穴から降り注ぐ月光に照らされてなお漆黒を保つ翼を背中から生やし、その手足は鳥の様に三本の細い指の先に鋭い爪が鋭く伸びている

 その身には煌びやかで妖しい黒色の服を纏い、黒子の様な薄い顔掛けで覆われた顔にはめ込まれている赤く美しい瞳が、薄布をものともせずにその煌めきと妖しさを放っていた。


「…ぁぐ……天姫あまひめ…花魁っ…何で…!?」

 彼女の足に踏まれている蜂子は藻掻くことも不可能な程にがっちりと足に掴まれ、その美しい妖魔を睨みつけることしか出来ない。

「ん~…」

 顎に人差し指をあてて首をかしげ、わざとらしく考える表情と仕草を取る。


「貴方は用済みだから…かな?」

 少し微笑みながら、蜂子を掴んでいる足に力が込められていく。

「ぁ…がぁぁぁぁぁ!!」

 ミシミシと蜂子の体が軋み始め、僅かに纏わせた殻も意味を成さずに砕けていく。

「いっ、嫌”ぁ”ぁ”!じにだぐないぃぃ!!」

 ピキ…パキバキ…!


 自身の悲痛な叫びと何かがメキメキと砕かれていく痛みと音が彼女の中でぐちゃぐちゃな乱反射を繰り返し、意識がじわりじわりと黒ずんで薄れていく。

「だずげでぇ…!だ……ゴボ…れ…がぁ…!」

「……ふふふ…」

 口から絞られる様な声と共に濁った色の血が霧状に噴き出し、来るはずのない助けを涙ながらに求め続ける。

 その姿をみた天姫は更に口角を上げ、より強く握りつぶしていき、麗はその残酷な蹂躙を期待と恐れと好奇心が入り混じった眼差しで見つめていた。


「…だ…ぅげ…ぇぇ……よぅ…たぁ…」


「面白かったわ、ありがとう、蜂子」

「………ぉ………ねぇ…ぢゃ……ん…」

 ブチィ!

 無情にも握りつぶされた蜂子の体が胸元から弾け飛ぶように分断され、濁った色の鮮血が飛び散った。


「……」

「じゃあね、哀れな女王蜂さん」

 天から降りし美しき妖魔は、千切れた敗者へと嘲りの表情を浮かべながらより一層邪悪に微笑んだ。


 金菊邸 裏・大広間の戦い


 勝者 天姫花魁あまひめおいらん

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