第57話 配信者サバイバル(5) 終



 目覚めると、真っ白な天井でお察しの病院だった。


「あっ、起きた」


 と余韻に浸る間も無く大声を出したのは千尋だった。千尋は大きなトロフィーを抱えてにんまりと笑う。

 体を起こしてもドラマのように傷まないのは彼女が俺にさまざまな治癒魔法をかけたおかげだろう。

 俺は瀕死だったんじゃなく、単純に眠っていたのだ。


「じゃーん、配信者サバイバルの優勝トロフィーだよ〜。すごいっしょ、でかいっしょ!」


 すごいでかい。

 なんというか「トロフィーといえばこれ!」みたいな形をしている。


「賞金も、ちゃんと入金されるってさ。もちろん、割り勘で〜」


「そうだ、他の冒険者は?」


「あぁ……タクマヒカルの2人はあの後バリアの中で目覚めて生還したみたい。そのせいか私のこと『姉さん!』って呼んできて困ってる。あとの参加者は全員死亡だって。モンスターに殺害された人とあと鬼頭に関しては、ナツキくんを殺害しようとした殺人未遂だけど被疑者死亡で不起訴だって。自殺というか事故? ってことになるらしいよ」


 そっか。

 鬼頭が俺を殺そうとしたのもしっかり配信に写ってたんだった。あいつ、最後が自分が奪った力であっけなく死んだな……。

 俺はずっと越えられなかった過去の自分をあの瞬間に超えた。辛くて悲しい思い出を乗り越えて俺を馬鹿にしたやつが死んで、復讐とまではいかなかったけど多少はスッキリした。


 これでやっと……前に進めるんだ。


「あとね、ナツキくん。嬉しい報告」


「何?」


 千尋はなにやらドヤ顔でこちらにスマホを寄越した。千尋チャンネルのトップページ。



<登録者数 18億>


——億……?


「ふぁっ?」


 思わず喉の奥から変な声が出た。

 初めてみる数字だ。日本の人口の以上……? 


「なんかね、海外の掲示板でもあの配信が話題になったらしくって、アーカイブの翻訳展開をしてみたの。そしたら世界中で大バズりしたみたい。あのね、私たち……世界1の登録者数になったみたい」



「うっそ」


「ほんと。しかもね……二つ名のモンスターを倒したのはナツキくんが初めてなんだって。配信とかに限らず、世界で初めて。ねえ、ほんとすごいよ。ナツキくん」


 喜んで……いいんだよな。

 俺は俺の努力で掴み取ったものだもんな……?


 偽配信でBANされてどうなることやらと思ったけど、あれよあれよと汚名返上できたと思ったら、今度は世界1……?


「嬉しい……かも」


 千尋がぎゅーっと俺を抱きしめた。

 マヨの匂いじゃなくて甘い柔軟剤の香りがする。


「嬉しいの。ナツキくん。私たち、世界で一番なんだよ。嬉しいに決まってるじゃん!」


「あぁ、嬉しい!!」


「これからもダンジョン配信、するよね?」


「そうだな……傭兵ナツキとしてもっと強いモンスターと戦いたい」


「ってことで、言証はいただきましたよ!」


「え?」


 千尋はパッと俺から離れるとニンマリと微笑む。


「実はね、ナツキくんが寝ている間にオファーがあったの。帝都大学ダンジョン研究室の所長さんから、今もここにきているわ、どうぞ」


 俺は病室に入ってきたお姉さんを見てぎょっとした。よくみるあの顔だったのだ。


「いつも姉2人がお世話になっております。私は2人の1つ下の妹で経堂リナと申します」


 経堂姉妹……恐るべし!

 刑事に弁護士に大学研究所の所長……? 一体どんな家系なんだ、まじで。


「実はね、ナツキくんが倒した<二つ名>を持つモンスターを倒したのは世界でも初めてなの。お陰様で世界的に研究が進歩したといえるわ。そこでね、今から私と一緒にアメリカ田舎村にあるダンジョンに入って欲しいの」


 ああ、世界1の配信者になったけど俺の日常はあんまりかわらないみたいだ。


「ナツキくん、面白そうじゃん。やろうよ!」


 千尋がパッと笑顔になった。


「おう!」


「やった〜! マヨ大国! 待ってろよ〜アメリカ!」


 千尋がそう言いながら病室を出て行った。俺はうんざりしながらもこんな日常が続いていけばいいなと思った。




おわり




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最強ダンジョン配信者はニセ暴露配信によって追放(BAN)されたので、地方のダンジョンをのんびり巡ろうと思います 小狐ミナト@ぽんこつ可愛い間宮さん発売中 @kirisaki-onnmu

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