第56話 配信者サバイバル(4)ボス討伐 後編
「ドラゴンに変身して倒す!」
千尋の声に応えるように俺は変身スキルで大きなドラゴンになるとやつの首を噛みちぎった。しかし、やつの首は何事もなかったように生えてくる。
もう見慣れた光景だ。
「くそっ……、どうすりゃいいんだ、マジで!」
コメント欄に助けを求めてからもう数時間。俺はありとあらゆるやり方で心眼のレッドドラゴンを攻撃する。しかし、やつには全く効かない。
「首が回復する前に回復する! そして切る!」
なるほど?
俺は再び心眼のレッドドラゴンの首を落としてから、やつの復元が始まる前にこちらのスキルで復活させてみる。
そして復活させた首を今度は潰してみる。
ぐじゅぐじゅ……
「やった……か?」
とフラグを立ててしまったからか、そもそもやってなかったのか心眼のレッドドラゴンは見事に復活した。
「わわわ! 外国のコメントが増えてきた! 翻訳ボタンは……ここか。 ナツキくん! いっきに読み上げるよ!」
「おうよ!」
海外勢のコメントは結構ぶっ飛んだものが多かった。心臓を銀色の剣で貫く、鱗を全部履いでから業火で焼き尽くす、妖精タイプが弱点だから「真実の月光」を浴びせる、封印を施した大岩で潰すなど……俺たちでは思いつかないものばかりだった。ちょっと宗教チックだったり、ゲームになぞらえたり。
「どれもこれもダメだ! 千尋! 掲示板とか見に行けるか!」
「わかった、ちょっとまって!」
多分、コメントの流れが早すぎるし海外勢のコメントを自動翻訳しているせいで精度が欠けているかもしれない。
こういう時はネットの奥底に潜む奴らの意見を重視するのが良かったりする。わかんないけど。
「初期スキルで倒せ!」
俺は斬撃1で攻撃して首を落とす。
しかし、ダメだ。
「手刀で倒せ!」
今度は左手に最大限の風魔法を付与して手刀で切り刻む。
しかし、ダメだ。
ってか、いきなり指示のレベルが下がってないか……?
「千尋! その掲示板の名前なんだ?」
俺はドラゴンの攻撃をいなしながら叫ぶ。千尋はスマホをスクロールしながら
「えっと、えっと……ナツキダンジョンアンチスレ!」
アンチスレかーい!
千尋は普段掲示板とかそういうの見ないのか……いや、見ないよな。普通の女の子は。
「ナツキくん!」
「いいから、アンチスレじゃなくて普通の……えっと、応援スレとかないか? そこは俺を殺したい奴らの巣窟だ。アドバイスなんかない!」
「あった……あったよ! 私たちじゃ思いつかないアドバイス!」
アンチスレに??
あるわけないだろ……まじで。
「いいから、もっと有効的な名前のスレに……」
俺は心眼のレッドドラゴンの攻撃をかわし、一度の首を落とす。復活の隙に千尋の方へ瞬間移動する。
「ナツキくん、あった……」
「アンチだぞ? 俺たちの敵だ」
「アンチ……にしか思いつかないと思う」
千尋はとあるスレコメを拡大した。俺はスマホを覗き込む。
467:名無しのナツキを引退させ隊
スキルなしで倒してみろよって感じだな
470:名無しのナツキを引退させ隊
スキルなしじゃただのインキャに戻っちゃうだろ
471:名無しのナツキを引退させ隊
そういうところを「心眼」で見透かされてるのに気がついてないイキリインキャくん草
472:名無しのナツキを引退させ隊
471>うますぎ、こいつが死ぬとこ見守ろうぜ
「千尋、階段の方へ。スキルなしじゃ守ってやれない」
「わかった……、ナツキくん。死なないでね」
千尋が避難したのを確認して、俺はすべてのスキル展開を解いた。ジリジリと燃えるように暑い。
スキルで無効にしていた全てを感じ、ダンジョンを探索し始めた中学生の頃は身近に感じていた「死」をすぐそばに見た。
「一撃もくらえないな」
ぎゃおおおと心眼のドラゴンが吠えた。俺は、やつの灼熱の息吹をなんとかかわして一気に駆け寄った。スキルを展開していた時の体の動きを思い出しながら、丁寧に攻撃を喰らわないように。
右、左……尻尾。
やつの攻撃パターンを覚え避ける。そのまま、一気に飛び上がり心臓めがけて剣を突き立てた。ドラゴンの鱗は固く、何度も何度もそれを繰り返す。
髪が焦げたのかタンパク質の焼ける匂い、左腕はさっきヤツの爪がかすって血が噴き出している。
次で最後のチャンスか……。
心臓の鼓動が不規則で苦しい。多分、このしゃくねつに体が耐えられなくなっているんだ。もう、頭も明瞭ではない。やつの攻撃をかわすのもぎりぎりだ。
だが、心眼のレッドドラゴンもまた同じに思えた。俺がスキルを展開しなくなってからやつの攻撃は爪攻撃や噛み攻撃、尻尾での打撃としゃくねつの息吹のみになった。
つまり、アンチの意見は正しかったわけだ。きっと、こいつは冒険者たちのスキルを無効するスキル「心眼」を持っている。
スキルを使わなければ……殺すことができるんだ。
その時、ドラゴンがひときわ大きく口を開けた。やつの口の奥に真っ赤な灼熱の球が見えた。
そうか、多分避けられない範囲のでかい息吹をぶっ放す気だな……。どっちが死ぬか……だな。
俺は死ぬ覚悟で駆け出し、やつの爪攻撃をかわして飛び上がった。
やつの口から特大しゃくねつの息吹が吹き出す直前、傷付けたうろこの隙間から剣がずぷりとやつの体内に侵入した。
ぎゃおおおお! と倒れ込む心眼のレッドドラゴンに俺は剣を再度振り上げて露出した心臓をひと突き……トドメをしたのだ。
心眼のレッドドラゴンはふわっと霧のように消えると、大きなドラゴンデザインのハート結晶が俺の手の中に落っこちてきた。
スキル結晶:心眼
「やった……ぞ」
スキルを手に入れて、達成感からか疲労感からかはたまたもう限界だったのか俺の意識は真っ黒い中にひきづり込まれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます