本の旅  第1回短歌・俳句コンテスト短歌の部二十首連作部門参加作品

平 健一郎 (たいらけんいちろう)

本の旅

限りある愛のかたちをおさらいし僕らは本の頁をめくる


うたた寝に途中展開わからぬ映画またもやキスで保護されました


箱詰めになりたい猫の顔をして風やわらかい草の上では


翔ぶ命カフェでくつろぐ命とか恋しています曇りのち晴れ


蕗の子を起こすためには南風つれた海猫鳴く空は春


かけがえのない鍵ひとつくださいな百万本の水仙ゆれて


菜の花に雨降る午後のこころには卵のかたちあたえておこう


夏帽子ふりむきもせず風に立つ本当かしらはにかむ意味は


つながって星座みたいになるかしら夜の噴水きらきら人も


心配のほうが大きなハムスター隠れたおしり見かけましたよ


イヴのたび「きよしこの夜」歌う僕らは意味を忘れて


ひらがなのようにしっとりあたたかくその身を骨にまとわせる夜


雪を待つ部屋には猫のためいきとアールグレイの香りの時間


僕たちのひとつになれた部屋に置く檸檬はひとつほのかなひかり


街角に珈琲の香の漂へば地の涯までもつながる鼻よ


梟の瞳に月の満ちてゆく冬の湖また逢いましょう


夕暮れにエンドロールの流れだすプラネタリウム放てよ星を


通り雨いくつの音符ひそませてこそばゆくなる僕らの耳は


いつまでも空を見つめている僕ら本のなかには空はないから


本の旅ランボー詩集閉じたのち鈍行列車離れゆく海

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