目が覚めたら気に食わないアイツと結婚してた話

1


 ボク、大空千鶴には気に食わない相手がいる。

 そいつは品行方正、容姿端麗、文武両道…おまけに帰国子女でとんでもない美少女だ。

 クラスでは常に人気者で学校ではあいつの噂が絶えないし、教師だってアイツの事を認めている。

 誰にでも愛される天才美少女、それが白坂あずさだが…。


 アイツは猫を被っている。


「おはよう大空さん!今日もいい天気ですねぇ♪」

「おはよう白坂、随分と元気がいいね?」

「ええ♪だって昨日のテストであなたを抜いて一位を獲ったのですから、元気も出るものです♪」

「ッ……随分と嫌味を言うねぇ?」

「えぇ?嫌味なんて言ってませんが?私はただ大空さんに勝てて嬉しいだけですよ?」


 朝、早めに学校に来たボクを迎えてくれたのは、白い髪をばさりと靡かせながら嫌味な笑みを浮かべる天才美少女…白坂だ。

 白坂は普段人には見せないような…憎たらしい笑みを浮かべてボクを弄る。

 そんな白坂の煽りに朝から苛々しながら、ボクは少しボルテージの上がった声で白坂に威嚇した。


「はぁ?そうやってお山の大将気取ってれば?すぐに白坂なんて追い抜いてやるから」

「え?私に一度も勝てないくせにそんな事を言っていいんですか?」

「…ッ!ほんと気に食わない!!」


 実際、ボクは白坂に勝ったことがない。

 中学三年…初めて白坂と同じクラスになったボクは、必然的に白坂と勝負する事が多かった。

 ボクはそれなりに出来る人間だ。

 運動神経抜群で勉強だって出来るし、それにやたらと女子にモテる…というかファンクラブがあるくらいだ。

 いや、女子にモテてもボクも女だから付き合えないんだけどさ…。

 つまるところは、ボクは元々白坂と同じ位置にいた人間なのだ。

 それがあの気に食わない白坂のせいで二番手に押し込められている。

 だからボクは、白坂が嫌いで大っ嫌いで、白坂もボクの事が嫌いだ。


「じゃあ気に食わないなら私とまた勝負します?」

「はぁ?やってやろうじゃんか…!」

「そうですねぇ…今回は負けたら相手に何でも言う事を聞く権利を付けるのはどうでしょう?」


 案の定、勝負に発展するが今回は違った。

 白坂はニヤリと不敵に笑うと、ボクの胸をちょんと指で突きながら…今までとは違う条件を付け足す。

 それは、よく聞くような罰ゲームのようなものだった。


「は?なんでも?」

「ええ、なんでも♡」

「いや…流石にそれは」

「ええ〜?怖いんですかぁ?」

「…ッ!やってやろうじゃんか!」


 ぐりぐりと指を押し当てられながら、気に食わない笑みを浮かべる白坂にボクは立ち上がる。

 例え「なんでも」の権利が関わっていたとしても、白坂に弄られるのはボクのプライドが許せなかった。

 歯を食いしばりながらボクは余裕の笑みを浮かべる白坂を睨むと、白坂は「では…」と勝負の内容を話し始めた。


「勝負はそうですね…一限目の体育で行うバレーボールというのはどうでしょう?そこで負けた方が何でも言う事を聞くということで♪」

「いいよ…乗った。負けた後に言う言葉でも考えておいてよね」

「え〜?私に勝てるなんて思ってるんですか?大空さんこそ、負けた時には好きにさせて貰いますので覚悟しててくださいね♡」


 ああ、ホントにコイツは気に食わないッ!

 こうして、戦いの火蓋は切って落とされた。

 両者の視線の間に火花が散り、ボクらは一限目の体育で文字通りの「何でも」を賭けた勝負が始まったが…。

 そこでアクシデントが起きた。


「…!お、大空さん!?」

「っあ……」


 そのアクシデントは、白坂が繰り出したえげつない一球…。

 残り数秒で終わる中、負けられないボクはヤケになって身を乗り出した所を、白坂の一球がボクの頭に直撃した。

 鈍い音が鳴った。

 あまりの衝撃に視界がぐるんと一回転して、最後に見えていたのは体育館の天井だった。

 

 薄れゆく意識…その中で、聞いたこともない必死に叫ぶ白坂の声がやけに耳に反響して、ボクの意識は闇に堕ちていった。



 身体がやけに重い。

 意識がぐらぐらと曖昧で、立っていられないようなそんな違和感。

 思考が定まらずゼリーのような思考回路で暗闇の中でボクは半覚醒すると、手探りのままに目を覚まそうと躍起になる。

 ボクは一体…どうして眠ってるんだ?最後の光景が思い出せない…そういえば勝負の結果はどうなったのか?

 不安のままにボクは考える…そして、やけに回らない頭で起きあがろうとした最中さなか、ボクを呼ぶ声が聞こえた。


「ち……!」

「千…鶴!!」

「千鶴?ねぇ!私の声が聞こえる!?」


 その声は、段々と明確になっていく…。

 声の色がハッキリと輪郭を戻っていき、ボクは導かれるままに意識が声の方へと引っ張られてゆく。

 そして、ボクは曖昧な意識の中でゆっくりと瞼を開くと……そこには、白い髪が特徴の大人の女性が涙目にボクを見ていた。


「ち、千鶴…!千鶴!!」

「え?えと…」

「ああ、よかった…!よかったよぉ…!千鶴が事故に巻き込まれて…私、どうしたらいいのかわからなくて…!」

「じ、事故?どういう…」

「どういうって、千鶴は交通事故に巻き込まれたんです…2日前に病院に運ばれて」


 どこか聞いたことのある声と、見たことのあるような顔で喋る大人の女性は…覚えのないことを涙を溢しながら話してる…。

 一体、何のことを言ってるんだろう?ボクはさっきまで体育の授業で白坂と勝負をしていたのに…ここは一体、病院?


「…あの、あなたは誰ですか?」

「だ、誰って…冗談言わないでください千鶴…!」

「冗談って…ボクはあなたみたいな人、知らない…」

「知らないって……私ですよ?あずさですよ!?」

「あ、あずさ?」


 い、いやいや…ボクの知るあずさは中学生の筈だ。

 でも、どことなく既視感の感じるこの人は…本当に。

 ……いや、さすがにそうだとしてもなんで大人の姿になってボクを起こしてるんだ、なんでそんなにも親しげなんだよ。

 白坂はもっと…意地悪だ、こんな場所にわざわざ駆けつけるなんてありえない。


「…あの、あれですよねこれ。ドッキリか何か?ボクが気を失ってる間にこんな大掛かりなドッキリ仕掛けられるのは白坂だけだと思うし」

「ドッキリって…そんなことする訳ないじゃないですか!ねぇ、本当に分からないの?私はあなたの…あなたの!」


 正気に戻ってと言わんばかりに肩を揺らして、あずさと名乗るその人はボクの目をじっと見つめながら叫ぶように言った。


「私は、あなたの妻…あずさです!」

「………はぁっ!?」




 数日前、ボクは交通事故に遭った。

 その時に頭を打ったらしく、病院で数日程眠っていたらしい。

 が、直前の記憶は交通事故ではなくバレーボールだ…知りもしない事実にボクは困惑したが、実際は小説よりも奇妙な事が起こっていた。


「記憶喪失…?それも、記憶が中学の頃に退行してる?」


 困惑するボクの前にそう告げたのは、病院の先生だった。

 先生は信じられなさそうな顔で頷くと、ボクは肩をガクンと落として何も考えられなくなった…。

 いや、なにそれ…なんなんだそれ。

 じゃあここは、あれから数年以上も経った世界ってこと?


 信じられなかった。

 けど、成長したボクの体を見るに…それが確かな事実なのだと決定付けられて、ボクは受け入れるしかなかった。


「とりあえず…ボクは記憶喪失で中学の頃の記憶の状態なのはまだ分かる。でもさぁ、なんでボクは白坂と…白坂と結婚してるんだ!」

「それは同性婚が出来るようになったのと、私達の想いが通じたからで…」

「だから、それが理解できないんだよ…白坂はもっとこう…意地悪でイヤな女だ。そんな白坂とボクが結婚っておかしいでしょ!」


 病室に戻った後、ボクは大人になった白坂と話し合っていた。

 まだ事実を受け止めきれてない白坂は、初めて見るような弱々しい姿でボクの手を握る。

 白くてしなやかなその手触りに、ボクは思わずその手を振り払った。


「千鶴…本当に中学の頃の千鶴なのね」

「そうだよ…ボクはさっきまで体育の授業中で、白坂と勝負と最中だったんだ!」

「勝負…すごく懐かしい、あの頃の私は千鶴とそんな関係でしたね…」


 振り払われた手をまじまじと見つめながら白坂は懐かしそうにそう言うと、また凝りもせずにボクの手に触れる。

 また振り払ってやろうかと思ったけど、ぎゅっと包まれたその手の温もりに…ボクの反抗心は薄れてゆく。

 いつもの意地悪な白坂じゃないからか、初めて見る優しい姿にボクはどう対応したらいいのかわからない…というか、大人相手なのだから仕方ない。


「ねぇ千鶴…」

「な、なに」

「千鶴は私の事が嫌いなのはよく分かります…だって子供の頃はあんなにも敵対してたもの、そう思っても仕方ないわよね」


 すりすりと、白坂の手がボクの手を優しくさする…。

 くすぐったさと恥ずかしさに心がドキドキと跳ね上がりながら、白坂はまじまじとボクを見つめて小さな唇がゆっくりと開いた。


「私ね、あの頃からあなたの事が好きだったの」

「……へっ?」

「いえ、本当はずっと昔…入学式の時に壇上立つあなたを見てから、私はずっとあなたの事を見てた…」

「素敵だった、カッコよかった…王子様みたいで一瞬で恋に落ちた」

「でも、私ってば人見知りだから…初めてあなたに会った時、ひどいことを言っちゃった」


 ぽかーんと口を開いて放心してるボクを他所に、白坂は覚えてる?と優しい声色で尋ねてくる。

 なんのこと?と首を傾げそうになって、ボクはハッと思い出した。

 初めて白坂と会った時のことだ。


「…あの時、テストを自慢して何だコイツって思ってた」


 そう、白坂と初めて会ったのは一学期終わりの期末テスト。

 成績表の頂上に乗ってるのがボクではなく、白坂だったことに腹を立てていると白坂は突然やってきた。

 テストをこれみよがしに広げて、100点を見せびらかす白坂…。


『大空さん、私に負けて悔しくないの?』


 それが、白坂との出会いだったんだけど…。


「あの時の私は…どうやってあなたに仲良くやれるのかずっと悩んでたの、それが迷走しすぎてあんなことをしでかしちゃったけど…」

「え………っと、その…白坂ってボクのことそんな風に見てたの?え?ほんとに好きなの?」

「ええ、そうじゃないとあんなにもあなたの前に現れないわよ……流石に、昔のあの振る舞いはやりすぎたと思ってます」


 反省…と、しゅんと肩を落としてしょげる白坂。

 なんていうか…白坂のあの憎たらしい行動全てがボクと仲良くするためだったのか。

 な、なんか信じられないんだけど…。


「あ、信じられなさそうな顔してる…まぁ、それもそうですよね。じゃあとりあえず、千鶴に嫌われたままはイヤなので片思いしてた頃のお話をしてもいい?」

「うっ……なにそれ、ちょっと気になる」

「あ、少しだけ気を許してくれた…よかったぁ」


 ふにゃっと頬を緩めて白坂は優しく笑みを浮かべてる…。

 その絶大な可愛さに思わず目が飛び出そうになって、ボクはそっぽを向く。

 そんなドギマギする最中、白坂はそうだ!と声を上げて言った。


「千鶴…私のことは、白坂じゃなくてあずさって呼んでね?私はもう大空あずさだから」

「お、大空あずさ……何度聞いても変な気分になる、というか毎回自慢げに結婚指輪見せつけないでよ!」

「だって私、あなたの妻ですから♪」


 やっぱりまだ…信じられないんだけど。

 薬指に嵌められている銀色に輝く指輪は、まさしく結婚指輪だ。

 それもボクの薬指にも嵌められている。

 それでいて白坂は白坂ではなく、ボクと同じ大空なんだから受け入れ難い…。

 でもまあ…さっきの話で今までの誤解が解けたというか、少しは可愛げが見えてきたせいか…気付けばボクに怒りはなかった。


「わ、わかったよ…

「ええ、ありがとう千鶴♪」



 天邪鬼。

 それが私。

 あなたが好きなのに、どう接したらいいのか分からなくて、あなたを傷つけることにしたのが私の一番の過ち。


 入学式、壇上に立つ千鶴が誰よりも凛々しく見えて素敵でした。

 まるで王子様のように存在感のある千鶴は、他の女子にも人気で…私は負けじとあなたの横に立てるように頑張りました。

 勉強も運動も、千鶴を追い抜くくらいの勢いで…千鶴に褒められたい一心で。


 あなたの目に映れば私は認められるのだと思ってた…。

 でも、いざ初めて千鶴に会えた時…私は怖くなって百点満点のテストを見せびらかした。

 それが、初めての出会い。

 それが、私一番のやらかし。


 それでも、千鶴が私を見てくれるのはとても嬉しかった。

 千鶴が私を意識してくれて充足感を感じた。

 これには千鶴ファンクラブの活動を頑張れるくらいには、充実な毎日を送れた。

 それくらい、私は千鶴が好き…千鶴のことを思ってる。

 でも、いつかのバレーボールの時…私は取り返しのつかないことをした。


 私の打ったボールが千鶴の頭を打ったんです。

 とても最低な事をしました、なにか約束をしてましたが…それどころじゃなかった。


『お、大空さんッ!!』


 体育館に響いた、切羽詰まった声。

 ビリビリと室内を震わすその声と同時に、私の喉もビリビリと震えていた。

 私の放った一球は、千鶴の頭に直撃したあと千鶴は気を失っていたのかそのまま保健室に運ばれていきました…。


 私は、ただその光景を見てるだけでした。

 自分が起こしたこの出来事に、ただただ謝ることしか出来ませんでした。

 だって、好きな人を傷つけたんです…呆然とするしか、その時の私に出来ることはありませんでした。


 それから、あのあと謝ろうと思い保健室に行った後。

 私は怖くなって逃げ出そうとしました。

 今更なんて言ったらいいんだろうって、私には謝る価値はないって思ってました…でも、その時に千鶴は目を覚まして。


 それから……。


「…そ、それから?」


 食い入るように話を聞いていた千鶴はぐいっと顔を近付けて続きを催促してきます。

 姿は大人のままなのに、言動はまるで子供のようなのですから違和感しか感じません。

 ですが、そんな滅多に見る事が出来ない千鶴の姿に私は思わずキュンっと胸が高鳴ってきました。


 記憶喪失で悲しいとはいえ、それでも今目の前にいるのは中学の頃の千鶴…。

 元の千鶴には悪いと思いますが、この機会を逃すわけにはいけません!


「秘密です♪」


 だめでーすと指でバツマークを作って、子供の頃みたいに無邪気に笑います。

 千鶴は「えー!」と残念そうな声を上げておもむろに肩を落としました。

 秘密と言って話を終わらせたのには、訳があります。

 一つは純粋に恥ずかしかったから、もう千鶴に言っているものの…それは大人の千鶴に向けてのこと。

 目の前の千鶴が知っている訳もなく、食い入るように聞いていたのは正直恥ずかしすぎです。

 あとは、あの保健室での出来事は…例え過去の千鶴であってもネタバレはしたくなかったから。


「…秘密かぁ、めっちゃ気になるところで止めるのずるくない?」

「ごめんなさい、でも続きを言ってしまうと楽しみがなくなってしまうでしょ?」

「楽しみ?」

「ええ…だって今の千鶴は中学の頃なんでしょ?それなら元の千鶴の記憶が戻ったら、今の千鶴はきっともの時間に戻ると思うのよ」

「いや、ボクは記憶喪失で…その場合ボクは消える感じでしょ」


 いやいやと手を横に振って否定する千鶴に、私はそんなことないよと首を横に振って否定する。


「消えるかなんて分からないですよ、それにもし消えなかったら…千鶴の前にはきっと私が待っている」

「ねぇ、千鶴」

「な、なに?」

「私のこと、嫌いなの分かるよ…あんな憎たらしい女の子私だってイヤだもの。でもね?あの頃に抱いていた気持ちは、熱は…全部本物だから、だから千鶴」

「私を好きになってあげてね?」


 ちょっと強引な約束。

 きゅっと千鶴の小指を握りしめて、その瞳を真っ直ぐ見据えていると千鶴の唇はもにょもにょと波を描き始めました。


「…好き、まぁ…うん」

「ボクさ、しら…あずさのことは正直言って大嫌いだよ……でもさ、まさか大人になったらあずさに告白されるなんて…未来でこんなことなってたなんて知らなかった…」

「………あのさ、ちょっと聞きたいんだけど」

「はい、なんでしょう?」

「結婚式…どんな感じだった?」


 チラリと好奇心が私を見ている。

 ドキドキと胸を高鳴らせて、中学生の千鶴が興味津々な眼差しで私の答えを待っていた。

 結婚、結婚…中学生の千鶴に言っていいものでしょうか?結構刺激が強いのでは?

 ああ、でも…こんなにもドキドキしてる千鶴を見てると久しぶりに。


「結婚式は、それはそれはとても綺麗な場所で式を行いました♪一緒に指輪を嵌めて、たくさん幸せになるって誓い合って、そして私と千鶴は唇を……」

「あ、あーー!ちょ、ちょっとまって!わかった!わかったからそれはやめて!」

「ふふっ♪すごく恥ずかしそう♪」


 千鶴をいじりたくなっちゃいました♪


「……と、とりあえず未来のボクとあずさはとても仲がいいんだね…」

「ええ、仲良し夫婦ですから」

「そっか、なんか…まぁ、うん」


 千鶴は何かを考えては、言葉を濁してこくりと頷く。

 そして何か納得したのか、千鶴は目を瞑りながら少し堅い表情で言葉を吐き出しました。


「…ボクも、あずさともっと仲良くなれるようにしてみる……ここまで聞いたら、知らないフリとか流石に出来ないしさ」

「千鶴…」

「ま、まぁとりあえずは元の大人のボクに戻らないとね!そうしないとあずさが困るだろうし!」


 ようしっ!と気合を入れるようなポーズをして、千鶴は私を見て言いました。

 そんな千鶴の姿を見て、心の奥がじんわりと暖かくなります。

 子供の頃も、大人の千鶴とあまり変わりませんね。

 ほんと、こういうところが好きになったのに子供の私はバカですよね…。


 いじわるしてないで、もっと素直になってれば良かった。

 なんて思うのは、ずるいでしょうか?



 白坂あずさが嫌いだった。

 でも今、嫌いか?なんて聞かれたらボクはどう答えたらいいのかわからない。

 むしろ最近は気になり初めてるから、嫌いなんて言葉はきっと言えないだろう。

 そんな今のボクが、元の時代に戻ったら…どうなるんだろう?


「…………ん」


 閉ざされた真っ暗闇に、眩むような眩さが隙間に入り込む。

 ボクは少し唸って身体を捻ると、ベッドと身体が擦れる音に…次第に意識が覚醒してゆく。

 なんだか、長い夢を見てた気分だった。

 大人になったあずさと出会って、いろんなお話を聞いて…それでいてあずさの事を気になり始めて。


 ああそうだ、今日もあずさは来てるかな?

 またあずさのお話を聞きたいな…。

 そう思いながら瞼を開くと…。


「……あれ?」


 そこは、見覚えのある景色だった。

 あまり来ないけど、体調を崩した時によく来る場所。

 窓からは夕陽が差し込んでいて、時刻は夕方…運動部の声がやけに響いてる。


「…あ」


 学校だ。

 私、学校にいる…ということは。


「元に戻ってる…」


 すぐさま両手を見て、小さくなった…いや、元に戻った両手にぐっと力を入れたりして確認する。

 中学生の私だ…大人のボクじゃない。

 じゃあ、つまりは…大人のあずさに会えないんだ…。


 ガクンと…肩が落ちる。

 突然のお別れに、呆然とすることしか出来ない…。

 もっと、いろんな話を聞きたかった。

 というかボク、あずさの言った通りに元の時代に戻れたんだ…。


 あれ?じゃあ、この時代のあずさは?


「…あずさ!!」


 ハッと我に返って、ボクは遮られていたカーテンをシャッとどかす。

 切羽詰まった声が喉を裂いて、室内にあずさの名前が木霊すると…それに応えるかのように「ひゃっ」と声が聞こえた。


「…あ、あずさ」

「あ、大空さん?目が覚めたんですか?」


 カーテンをどかした先にいたのは、大人じゃない中学生のあずさ。

 大人の品もなく、まだ子供っぽいその見た目に少しだけ安堵して、ボクは驚いているあずさの手を取った。


「あずさ!」

「へっ!?ちょ、急になんですか!てか、私のこと呼び捨てで言わないでください!」

「別にいいでしょ!元の苗字なんて数年後には使わなくなるんだから!」

「な、なんの話ですかぁっ!!」


 うわああっと顔を真っ赤に染めて驚くあずさに、ボクは思わずその手を離す。

 あずさはドキドキしてるのか胸を抑えたまま、いつも見る憎たらしい笑顔を浮かべてフッと嘲笑を浮かべていた。


「ま、まぁ元気そうで何よりです…あなたは体育の授業で頭を打ったあと、放課後までずっと寝てたんですよ」

「そうだったんだ」

「ええ、とんだねぼすけさんですよね?恥ずかしくないんですか?」

「いや、そんなことよりあずさってさ、ボクのファンクラブに入ってるってほんと?」

「ええ、それもゴールド会員……………はへっ!?」


 上から目線でボクをいじっていた矢先、ボクの放った一言であずさの身体がピタッと止まる…。

 数秒ほど時間が止まると、停止が解かれたのか…瞬間、あずさの額からだらだらと汗が走り始めた。


「…え?あの、なんっ…!」

「あとボクのブロマイド買い漁ってたってほんと?それとボクが白馬に乗ってあずさに告白する夢小説を書いてたとか……」

「なっ!!?なんっ…それ!!え?はえっ!?」

「それに、そうやって意地悪な態度を取ってるくせに…ホントはいつも後悔してばかりなのもほんと??」


 次々と出てくるあずさの秘密。

 驚くあずさの顔に、思わずボクの口角はだんだんと吊り上がっていく…!

 どうしよう、焦りまくってるあずさの姿…見てて超おもしろい!!


 だからここで、ボクはあずさが内に秘める感情を、空気を読まずに暴露した。


「それとさ、ボクのこと入学式の時からずっと片想いしてるの…ほんと?」

「へ、ひゃっ…にゃ、にゃんでっ…それ…!」

「あ、その反応やっぱりホントなんだ♪へぇ〜♪」

「いや、ほんとに…どうして、誰にも言ってないのに…!」


 うーん、聞いたのはあずさ自身の口から聞いたんだけどね。

 それも、未来のあずさから聞いたよ…なんて言える訳もなく、ボクは指でバツマークを作ると意地悪に笑って。


「秘密♡」


 ねぇ、未来のあずさ。

 不思議なことがあったけど、いろんな事実を知ったけど…やっぱりボクはあずさと結婚することがまだ信じられない、

 でもさ、これから仲良くしてみせるから…だから。

 

 数年後の未来で、また会いたいな!



※あとがき

殴り書きで書いたものです

色々考えたけど何も考えつきませんでした、とりあえず脳死です


 







 




 

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目が覚めたら気に食わないアイツと結婚してた話 @rin126

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