AIと社会のあり方がマスコミで毎日論じられている今。
どんなに知識人があれこれ論じても、もうAIは私たちの社会にしっかり組み込まれています。
この作品に登場するイデア・ワンもそれに近いです。
人々が自分に代わって日常のすべてを解決するこのシステムにすっかり頼りきっている時代。
それだけでなく、イデア・ライフという仮想空間もまた、社会にどんどんと入っていきます。
やがてそれは当然のように、仮想空間で生きたいと願う人たちを作り出していき……
SFを愛する人にとっての王道ともいえる物語です。
同時に特に印象に残るのは、やはり表現でしょうか。
「東京は、イデア・ライフという常世を内包し始めた」
この一文にぞくりとしない人はいないのではないでしょうか。
個人的には、ケンタの「宇宙が見えない」という言葉が印象に残っています。
単に「仮想に依存して現実を見ていない!」と警告するのではありません。
見上げれば見えるはずの宇宙が見えない、というこの一場面で、現実と切り離された不気味さを表現しています。
今の時代を映す風刺としての一面もある作品です。
SFが好きな方ならばぜひおすすめです。