第三話 未来への始まりの物語③
現在の時刻は十時半であり信濃先輩との約束の時間まで三十分と言ったところなのだが、集合場所を確認してなかったためどこにいればいいのかわからず適当に第十一部隊内を歩いている。
連絡先を交換したので連絡して聞いてみようとしたところ連絡がつかなかった。
何のための連絡先だとか思ったがあまり気にせず約束の時間までそこら辺を歩き回ってみることにする。
そして約束の時間である十一時になったが信濃先輩と合流できずにいた。
もしかしてこの約束自体を忘れてるのではと少し心の中で喜んでいたが大通りの方に出たらその思いは存在しなかったことになる。
大通りに出ると少し遠くの場所に人が集まっているのが視認でき、それの正体を知るために近づいていくと徐々に人が集まっている中心にいる人物の声が聞こえてきた。
「ゆみちゃ~ん、どこにいるの~」
そこにはゆみちゃんと叫びながら私のことを探している信濃先輩だった。
時々周りの人に聞いているせいかそこの人口密度が半端じゃない。
私はそっと信濃先輩に見つからないように去ろうとしたが信濃先輩が私を見つけたのか、手を振りながらゆみちゃんと言い近づいてくる。
信濃先輩が近づいてきたことで私の方にも視線が集まり始めた。
私としては目立ちたくないのでこの視線は非常にいやっだったが、そんなことは信濃先輩にはわからないためものすごく目立ちながら近づいてくる。
そして信濃先輩との距離が三メートルぐらいから信濃先輩は手を横に広げ始めた。
(このまま近づかれたら抱きつかれないか)
そう思ったが何かしら次の行動を起こそうとする前にはすでに抱きしめられていた。
「ゆみちゃ~ん、元気になった?」
と言い抱き上げ左右に揺らしたりしてきた。
もうここまで来たら目立たないことなんて不可能だ。
私は大人しく諦め、
「げんきですよ~」
どこかやる気のなさそうな声で返事をした。信濃先輩は「そっか」と言い抱きかかえ続けていた。
「あの、そろそろおろしてくれませんか」
「う~ん、やだ」
抱きかかえられてるため信濃先輩がどんな顔をしているのかはわからないが、きっとめっちゃ笑顔とかなんだろうなとか思いつつ信濃先輩に抱きかかえられたまま第九部隊に行くことになった。
その途中にお昼ご飯を済ませ目的地を目指し始めた。
全部で十一部隊あるうちの九部隊目である第九部隊とは狐族を中心で構成されており、狐族は妖力を用いて戦う部隊であり妖力を様々武器に付与しながら自分の得意な領域を作り出す戦い方をしている。
そんな第九部隊内は当たり前だが辺り一面狐族特有の尻尾や耳を持った者だらけであり、また狐族は着物という狐族では伝統的な服を皆着ている。
そんな中でただ一人狐族特有の尻尾や耳がなく、着物も着ていない人間が混じっていたら相対的に見て目立つ。
おまけに副部隊長である信濃先輩に抱えられているから服装とか関係なく目立っている。
信濃先輩はそんなことお構いなしに私を抱きかかえながらウキウキでどこかに向かっている。
ちなみに運ばれてる最中にどこに向かっているかを聞いたが内緒と言われてしまった。
そのためどこが終点であり、信濃先輩の言うおすすめの昼寝スポットがどこなのかはわからない。
まぁ連れていかれてまずいとこなんてそうそうないし大丈夫かと思っていたのだが。
(……まずいことになったかもなぁ)
さっきまでの自分を殴りたいと私は初めて思った。
信濃先輩が連れてきた場所とは第九部隊作戦会議室だった。
各部隊の作戦会議室はその部隊によって雰囲気などは変わってくる。
ちなみに第九部隊の作戦会議室は畳などの狐族文化である和式というものらしい。
ちなみに作戦会議室にはその部隊に所属している者のみしか入れないとかそういうものはなく、基本的には誰でも出入りできるのだが余程のことがない限りは入ることはないだろう。
その中の隅っことかだったらまだましなんだろうが信濃先輩がおすすめの昼寝スポットとして連れてきたのは部隊長の作業机の周辺だった。
そんな場所で昼寝をしようと信濃先輩は誘ってきたのだ。
ちなみにすぐそばの作業机には現部隊長である板野武蔵がいる、普通に気まずい……。
そんなことは気にすることはせず信濃先輩は自分の尻尾をポンポンとたたき、ここで寝ていいよとアピールしてくる。
そのすぐ近くにいる板野武蔵はこちらを睨んでおり、おまけに殺気ではないだろうが(多分)何かしら気配を感じる。
他にも周りにいるほかの者たちもヒソヒソとこちらを見ながら話している。
もはやここまでくると目立つとかじゃなく異物混入の域に達してるんじゃないかと思い始めた。
信濃先輩は私が一向に寝ようとしないために、
「ねぇむーちゃん、この会議室は誰でも出入りしてもいいんだよね」
そう笑顔で周りに聞こえるぐらいの声量で板野武蔵に聞いた。
信濃先輩がそれを聞いた時私でもわかるぐらいの圧を感じた。
その圧を感じた周りでヒソヒソ話をしていた者たちは一瞬で話すことをやめてこちらを見ることをやめた。
信濃先輩のその質問は部隊長である板野武蔵に向かって言われ、
「そうね、別に問題なんてないわ」
他の者たちとは違く動揺なんかはせずにはっきりと返した、それに「そうよね」と言い信濃先輩はさっきまでと変わらずに尻尾をポンポンとたたき、
「こっちにおいで~」
私としてはこんなとこで昼寝ができるかと言いたいところだが、断ろうものならさっきのような物凄い圧を感じることになるので大人しく横になるとする。
横になったら信濃先輩は私の頭を撫でながら、
「懐かしいわね」
と周りに聞こえない程度の声量で言った。
(懐かしいも何もこれが初めてなのに)
その後はこんな雰囲気の中ぐっすりと昼寝をした。
よくもまぁこんな中で寝れたなと思った。
そして目覚めたころには日は落ちかけており周りには信濃先輩と部隊長である板野武蔵しかいなかった。
目覚めて起きた時板野武蔵は起きた私に視線が向かった。そして、
「神崎みゆさんですよね少しこのことについてお話がしたいのですが」
とこちらをにらみつけるように言ってきた。
ちなみに信濃先輩は隣でスヤスヤと寝ている。
私としてはこの質問をされるのは当然のことかと思った。
普通に考えたら副部隊長である信濃先輩が突然連れてきたのだ聞きたいことは山ほどあるだろう。
しかし武蔵の聞きたかったことは何故信濃先輩が私をここに連れてきたのかのではなく。
「あなた何か嘘ついてないかしら」
それは考えてなかったことだった。
私は予想外のこと過ぎて、「にょっ」と変な相槌をしてしまった。
しかしそんなことは気にしていないのか、それともこんなことに気を割くよりも私が嘘をついてるかついていないのかの方が大事なのだろう。
急な質問で驚き返事をするのが遅れてしまったのだが、武蔵は、
「すまない、もう少しわかりやすく言うべきだったな」
そういい私に向かってまるで機密情報でも話を始めるんじゃないかってくらい真剣な雰囲気で、
「あなたは神崎みゆ本人なのかってこと」
私はその言葉を聞いた時昨日の幻聴のことを思い出した。
『君は神崎みゆじゃないんだよ』
という言葉、私にはこの言葉の意味が分からなかった。
私は神崎みゆであるのだが、昨日聞いた幻聴には私は神崎みゆではないと。
自分でも何が何だかよくわからずにいた。
その様子を見ていた板野武蔵は結構大きな声量で、
「大丈夫⁉ ねぇ!」
私はその声に気付き今まで板野武蔵に呼ばれていたことに気付かなかった。
その様子を見た武蔵は少し慌てていたが私が大丈夫と言うと「そう…」と言った。
そして武蔵は自身の手を握り何かを決心したように私に聞いてきた、
「あなたは本当は神崎みゆじゃなく―――」
「武蔵」
武蔵の決死の覚悟で伝えようとしていた内容は途中で起きてきた信濃先輩に止められてしまった。
それに納得がいかないのか武蔵は信濃先輩に何かを言おうとしていたが、
「武蔵、そこまでにしなさい」
信濃先輩はかつてないほどの殺気を飛ばしていた。
もちろんそれに武蔵は気付かないという事はなく、尻尾や耳がピンと張った。
武蔵が言葉を発さず静かになると信濃先輩はこちらに殺気を飛ばす事はなく、
「ごめんねみゆちゃん、今日はもう帰ってくれないかな」
とさっきまで殺気を飛ばしていたとは思えないほど柔らかく私に言ってきた。
私は変なことには巻き込まれたくないので「それでは」と言い作戦会議室を後にした。
△▽△▽
神崎みゆが作戦会議室を出て行った後武蔵は信濃先輩に向かって、
「信濃さん、どうして彼女に聞かないんですか」
「なんとことかな」
「とぼけないでくださいよ」
武蔵は信濃先輩に、
「神崎みゆは二年前に起きたパンドラ•グレイスによって死んでいる事を」
武蔵は神崎みゆは死んだはずなのに、何故死んだはずの神崎みゆがいるのかと、
「信濃さんが一番苦しいのはわかりますが彼女に聞いてみないとーーー」
と信濃先輩に彼女に神崎みゆのことについて聞くことを納得してもらおうとしていたが、
「黙って」
武蔵はその言葉に驚き喋るのをやめてしまった。
信濃先輩が言わないであろう言葉を聞き驚いてしまったからだ。
そして信濃先輩は神崎みゆが出て行った方を見ながら、
「武蔵にはわからないだろうけどこれはそんな単純なお話じゃないから」
そう信濃先輩は言った。
私は神崎みゆでない vegetables @vegetables252
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