第4話

//SE カーテンがバタバタとひるがえる音

//SE 黒板に文字を書く音


「ほら、きみ!」//少し離れたところから聞こえる声


「手を動かしてください」


「きみが『王国の外交史』について教えてほしいって言ったから」


「わたしは渋々、仕方なく付き合ってあげているんですからねっ!」


「この前は一応、わたしの魔法薬の課題を助けてくれましたし」


「まあでも、調合を間違えたことは許しませんけど」


「こほん、いずれにしても」


「今日だけは特別に引き受けて上げているんですからね」


「それなのに、きみときたら…..」


「全然、わたしの説明を聞いていませんでしたねっ!」


「もうきみのことなんて放っておいて」


「先にわたし、帰りますよっ!」


//SE がたんと椅子の音


「はあ…..」// 呆れた声で


「冗談ですよ」


「そんなに慌てるんでしたら」


「初めからしっかりと聞いておいてください」


「次はないですからね?」


「え?」


「隣に座って講義してほしいんですか……?」


「隣で開設された方が頭に入りやすいって言いましたか?」


「それで集中できるのですか……?」


「もう……仕方のない人ですね」


「わかりました」


//SE 近づいてくる足音


「はい」//近くでしゃべる声


「これでいいですか?」


「もう、なんで照れているんですかっ!」


「わたしだって緊張しちゃうじゃないですか」


「ほ、ほら」


「勉強を再開しますよっ!」


//SE 紙をめくる音


「では第一次魔法戦争の解説の続きから始めますよ」


「問いは『第一次魔法戦争が勃発したのは、小王国であるサーラエーボに来ていた王位継承者を襲ったことがきっかけである、これはマルかバツか』でしたね」


「これはマルが正解です」


「ほら、教科書の近代魔法史の項目をみてください」


//SE ページをめくる音


「ほら」


「そこに書いてあります」


「次の問題は『魔法音楽理論を提唱したベートベートは、月光魔法行進曲を作曲した、これはマルかバツか』ですね」


「マルが正解です」


「教科書の文化魔法史の項目に書かれています」


//SE ページをめくる音


「もう、ページをめくり過ぎです」


「少し戻ってください」


//SE ページをめくる音


「今度は戻り過ぎていますよ」


「もういいです」


「貸してください」


//SE 教科書を奪おうとして、手が触れる音


「あ」


「ほ、ほら」


「早く貸してくださいっ!」


「って、なんで避けるんですか」


「え?」


「落書きしているから見られたくないんですか?」


「そんことは知りませんよ」


「さあ早く貸してください」


「はあ……そんなに嫌なんですか?」


「わかりました」


「でしたら、ご自身で勝手にめくってください」


//SE ページをめくる音


「そこです」


「月光魔法行進曲は、ベートベートが隣国のリーンコック王国への友好の証として作曲したと書いてあります」


「わかりましたか?」


「はい、次は記述問題ですね」


「……まずはきみの回答から確認しますよ」


//SE 紙の擦れる音


「はあ……」// 少し呆れる感じで


「問いは『オールビール王国の歴代国王のうち魔法省大臣も兼任したマリウス2世の行った国策について述べよ』ですね」


「これは国策の内容もですが、時系列順に行った国策を簡単に列挙していけば良いものです」「それなのにきみの回答は」


「なんで『マリウス2世は、ハーレム王子として有名であり』なんて書いているんですかっ!?」


「問いとは全然関係ない情報を書いてどうするんですか」


「それにもう一つあります」


//SE 紙にペンを使って下線を引く音


「ここの文章は、主語と述語が対応していません」


「これも記述では減点の対象なんです」


//SE 紙にペンを使って下線を引く音


「それと、ここの文字は、古代文字の使い方が間違っています」


「これでは別の意味になってしまいますよ」


「マリウス2世はエッチが大好きって……」


「そんな歴史残すわけないでしょっ!?」


「きみは書いていて、おかしいと思わなかったのですか」


「え?」


「王族ならあり得るだろって?」


「そんなわけないじゃないですか」


//SE 息を吐く音


「ふう、ひと段落しましたね」


「これできみは追試大丈夫そうですよね?」


「……そういえば、きみ魔法考古学の追試はどうするんですか?」


「え?」


「諦めたって……」


「もうきみは本当に」//強調するように


「仕方ない人ですね」


「ほら、乗りかかった船です」


「最後まで付き合いますから遠慮はいりません」


「さあ魔法考古学の教科書を出してください」


「はい……?」


「自分でやるからいいって」


「そんな時間ないでしょ?」


「きみが不得意なことくらいわかっているんですからね」


「今日のことだって知っているんですから」


「先生に呼び出されていましたよね?」


「どうせ試験当日は、サボろうなんて思っているんですよね?」


「いくら進級に関係ない単位であってもダメですっ!」


「きみとわたしは幼馴染なんですから」


「しっかりしてもらわないと困りますっ!」


「きみだって知っているでしょ?」


「わたしの王宮内での立場が危ういこと」


「もしもきみのような人間と幼馴染であることがバレてしまったら」


「また何か言われてしまうかもしれませんね」


「それでもいいんですか?」


「ふふ」


「さあ始めますよ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る