第3話

愚痴大会の中、鴨志田だけが静かにしていた。

自分は疑われていないからだ。

こぼす愚痴もない。

みなの愚痴を聞きながら鴨志田はあの日のことを思い出していた。


あの日、鴨志田は下宿の近所で財布を拾った。

中には免許証があり住所が書かれていた。

 ――この近くだな。

鴨志田は警察に届けるより、直接持ち主に渡そうと考えた。

細い路地の一番奥にある古いアパート。

――ここだな。

外階段を上って二階に上がる。

呼び鈴を押したが、留守だった。

――社会人は仕事をしている時間だな。

鴨志田は警察に届けようと思い、階段を降りた。

するとそこに古明地がいたのだ。

「えっ、古明地さん。なんでここに」

「鴨志田君こそ、なんでここに」

「いや、財布を拾って、住所がここだったもんだから、届けようと思って」

「そうだったの」

「それで古明地さんはなんでここに」

「私、このアパートに住んでいるのよ」

「そうなの」

鴨志田がそう言うと、古明地はほほを赤らめた。

「やだ、鴨志田君に住んでいるところを知られちゃったわ。どうしましょう」

もじもじしている古明地を見て、鴨志田は「可愛い」と思った。

そしてそう思った自分に気づいた。

鴨志田の全身に熱いものが流れた。

鴨志田は階段下に無造作に置かれている金属バットが目に入った。

鴨志田はそれを手に取ると、振り上げた。

「えっ」

鴨志田は金属バットを古明地の頭に振り下ろした。


愚痴大会は終わらない。

みな同じ事ばかり何度も言っている。

それを見ながら鴨志田は思った。

幼なじみを差し置いて、俺を惑わすとんでもない女はもう死んだ。

そして俺は疑われることなく、俺の嫌いなサークルのメンバーが警察に目をつけられている。

ほんと、みんないい気味だな、と。


       終

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冬に死んだ女 ツヨシ @kunkunkonkon

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