ゴムでできた漸近線

花野井あす

ゴムでできた漸近線

私の中に住む鬼は、酷く臆病である。

私の腹の奥底に隠れて、ひっそりと息をこらしている。


故に滅多に外へ出ない。

故に当たる豆もない。


私の中に住む鬼はいつも飲み込んでいる。

美味くもない飯を只々ひたすら飲み込んでいる。

がぶがぶ、ごっくん。

がぶがぶ、ごっくん。

其れらは鬼を肥大化させていく。


私の中に住む鬼は、たまに外へ顔を出す。

鬼は人を脅かすが、逆に脅かされて泣きながら中へ逃げ帰る。

恐怖に戦慄き、しくしく、しくしくと泣いて一人籠ってしまう。


私の中に住む鬼がどんどん、どんどん膨れ上がるので


私は鬼を鎮めるためにひたすら喰む。


私は喉から流し込む

私は耳から流し込む

私は眼から流し込む


がぶがぶ、ごっくん。

ああ、美味い。

もっと寄越せ、もっと寄越せ。

鬼は言う。


私は鬼の言われるがまま

鬼の好物を胃の中へと押し込んでゆく。

煎餅、団子

饅頭、大福、金平糖。

腹がいっぱいに膨れても、鬼に求められれば私は喰む。


其れらは消化されることは無い。

其れらは排泄されることは無い。


私の中に住む鬼は際限なく膨れ上がっていく。

どんどん、どんどん膨れ上がって

破裂したころには私は何処にも居ないであろう。

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ゴムでできた漸近線 花野井あす @asu_hana

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