過去 九 報告
緊急に呼び出しを受けた時と同じように、裏から入る。
大まかな事情を話した明継に佐波は
「
佐波が返したのは冷淡な返事であった。彼は薄暗い部屋の中で、昨日と同じ様な面持ちで、上座に座っていた。衣装すら同じである。
佐波の突き放した言葉が、明継の心を
「何かをしてほしいと
佐波は頷く事がない。
「伊藤殿は、紅を元に戻したいのだろう。ならば、
佐波の様子に
元から味方の無さは分かっていたが、自覚すると、辛いものがあった。
新聞と
「
「
佐波はどうやら事の重大さに気が付いない。
暗くて表情が
「
「誠か。」
佐波は、唯一の一連の事件の真実を了解している人物である。佐波は紅を弟のように可愛がっていた。
紅の
宮廷のスキャンダラスは
威厳や神々しさが今だ健在である父皇の命令を利用して、何とか明継と紅は難を逃れた。
其れ故に三年間も紅は何とか明継の側に居られるのである。其の苦労を明継は知らない。
「皇が動いているものと思います……。節が
明継は上司に失敗を報告するように、険しい口調である。
佐波は狐に抓まれた顔でいた。
其して、口に手を当てて、薄暗くとも血の気が引いた表情をしたのが、確認できた。
「其れは……、考えられない。
佐波は考えを巡らせた。
大分昔に、皇院の男が逃げだした事があった。其の時は、脱走であった。
当時の皇は、軍人の敵前逃亡と云う罪を利用し、最も不名誉に、皇院の男を処刑させたらしい。
其れだけではなく、周りの皇院の血族が其の様な重い行為を、時代皇に
時代の皇院達が、表舞台に立たなくても、絶大な信頼を勝ち取って来ただけはある。
だが、佐波の父皇は、
「しかし、皇以外に慶吾隊が動かせる人物は……。」
「否。其れはない。」
明継は佐波の次の言葉を待った。
「
自分に問い掛けている佐波に、明継は
「父皇以外の人間が、紅を探そうとしている……、もしくは、紅を……。」
佐波の予想外の言葉に、目を丸くした明継は、慌てて話を聞こうとした。
次代当主の不信感に、明継が慌てた。佐波の不吉な言葉に動揺を隠せなかった。佐波の次の言葉は出てこない。
「皇以外に国の権力を振るえる者がいるはずはありません……。」
明継の声が引き攣っている。恐怖の為、脂汗が一気に流れ出た。
「父皇はまだ
佐波はまだ頭の中で考えを
佐波は、表情を立て直すように、背筋をしゃんとし直した。
「見苦しい姿だった。忘れてくれ。」
だが、厄介な事に、血縁関係になっているので、|皇の弟が皇院に位置する時期もある。そうでない時もあるが……。
やはり、肉親の情は切っても切れない物がある。
明継は、漏れ聞いた佐波の言葉に大きな存在が音をたてて、接近して来るのが分かった。
今までにない強力な権力。其して、自分達への敵意。
「お前は、何をしたいのか……。」
意味が分からず、視線が
突然の言葉に反応が鈍る。
「紅を……。」
言葉を続け様としたが佐波が奪う。
「
「はい。」
「自分がどうしたいか……だ。」
上手い言い回しではないが、意図するものは理解できた。しかし、今までの会話の流れと全然違う質問に驚きはあった。
「私は……。」
明継は、自分の事に関して
其れは、生命維持に不可欠な食も
(
明継に、元から生への
「余り……。考えておりません。」
余りではなく、全然と云う訳にいかず、そう
「では……、紅がいなくなった後はどうする。」
一番難解な問いだった。
前に、問われた時は、
返答に困り、
シドロモドロしている明継。
「……。」
「
「其れは、
「お前は
「
沈黙が空気を包つむ。
「分かっていないな……。」
佐波は
明継が言葉を解かっているだけで、死を理解していない。頭で理解しようとしている明継に、佐波は不安感を
「ホトホト、御前は馬鹿だ……。」
佐波は思った。
紅の性格は解っている。紅は其れでも明継にしがみ付こうとするだろう。明継は、紅の事で周りが見えなくなってしまっている。愚かしいほど馬鹿だ。
明継の問題点は
倫敦での実績も
其して、佐波も……、愛する者を助け様として同じ事をしている事に気が付く。
佐波が自傷気味に笑った。
「お前では
「宮廷に紅を……ですか……、其れは危険ではありませんか……。」
「木は森に隠せ……、を知らんのか。一番安全なのは、私の手の内である。怪しい
「いいえ……。怪しい者が紅を狙うと
佐波の独り言を思い出し、紅が危険に遭遇する時は、佐波も危険と隣り合わせではないか……と、明継は考えた。
今まで紅の身ばっかり気にしていた。佐波も危険に巻き込まれると危険性があると、考えた。
「伊藤殿一人で紅の身を助けられると思いか……。」
佐波の言葉に押し黙る。
もしも、慶吾隊を出動させるほどの権力の持ち主であるなら、紅の命が狙われるかもしれない。だが、佐波の元なら……。
「其れでは、佐波様が、危険に
「
佐波はピシャリと
明継は目上の人間に押し黙り、仕方なく
「深夜に、
流石に生まれの良い威厳は健在で、命令した。明継は頷く。
其して、佐波の異変に気が付いた明継は、今までにない行動と言葉が、事の重大さを理解させるのには十分だった。
以前にも増して、色の濃い雰囲気が佐波の周りに
「紅に危険が迫っているのか……。」
明継は、下唇を噛んで、言葉を
三年間、佐波はどんな事があっても、紅を連れて来いとは
佐波自身が紅を守り切れないと確信をしているようだった。
明継は腹を
「分かりました。」
節の時も、自分一人の力では紅も守り切れないと薄々は感じ始めていた。
明継は、力強く
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