過去 八 下男の少年
カタカタと揺れれば、首が揺れた。
「本心では、離れたくないんだな……。」
昨日、
「
愛情でも、悲壮感でもない感情。
明継は首を
初めて紅と出会った梅ノ木の下での表情とも違う。
明継にだけ寄せられる微笑。
「独占欲か。」
独り言を呟く明継には、流れていく街並みを楽しむ余裕はなかった。抱いた感情に
聞き覚えがある其の単語。
明継は、腕組みしながら、思い出そうとした。
「ああ……、
明継の記憶が過去へと
「伊藤殿も、お昼ですか……。」
若い少年が、明継を
「ああ、君か。」
明継の顔に笑みが
「
「其うだね。」
下男は、明継の隣に腰を下ろし、着物の
「
下男は、云った。
明継の
「私は、料理は苦手です。
口の中から喉に呑み込んだ明継。
「自分で作るのを、
明継は、紅が作った弁当を見詰める。
「伊藤殿は、家に料理人が
紅の顔を思い出しながら、首を
割烹着を身に
「料理人と
綺麗に詰められた弁当から、麦ご飯をつついた。
(
「愛妻弁当ですか。」
明継の箸からおかずが
「すみません、妻はいません。」
飯を
「何度も、からかわないで下さいよ。毎回、毎回、
明継は、
なので、余計に
「伊藤殿は、
明継は、言葉を詰まらせた。
(紅との関係、主従関係しかないか……。)と、思ったが違う気がする。
少し
「私にも解らない……。」
明継は眉間に
考えた事すらなかった。今の紅の立ち位置など、何も考えた事すらなかった。
「絵姿
明継は、
「無い、無い。辞めてくれ、撮ってないよ。
律之は、
明継も、飯をかっ込み始めた。紅が作った飯は、微かに甘かった。
「伊藤殿の飯は、見たこと無いオカズばかりですね……。一つ頂けませんか……。」
「嫌、嫌……。御渡し出来るもの、何てありませんよ。」
枝から、白い空の輪郭が見える。
「彼が作った物は、一つも渡せないと……。」
「へっ。」
明継の喉から変な声が漏れる。
「其の人が触った物すら、触らせたくないんですよ。」
「其んな事はありませんよ。」
意味が解らず、秋継が、
「見た目に
明継は、「其んな事ありませんて……。」と小さい声で呟いた。
「
律之が、着物を翻し、去って行った。姿勢を正し、背中を
紅と後ろ姿がだぶって見える。
律之の方が、幾分か肩幅が広い。着物を
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